第七十九話

「…嘘だろ…?」


あんな奴に忠誠を誓うだって?頭がおかしいとしか言いようがない


「あの方は世界を統べる力を持っている…私達を導いてくれるのだ!」


「…お前たちは…エルシュラ様を信仰する教団じゃないのかよ…」


「はっ…それは表向きの顔に過ぎない、我らが信仰するのはただ1人。ベル・ブラン様お1人だ!」


「やけに腐ってると思ったらそういう事か…」


コイツらは根っからの悪だ、アイツと同じで計画の為ならなんだってやるんだ


「だが俺がそんな事許さない、お前達を倒し!アイツの計画を潰してやる!」


「勇者ごときにそんな事が出来るかな?勇者を絶望させるのは無理だったが…まだ方法はある…こい!子供達よ!」


神父の後ろの扉から俺ぐらいの歳からまだ小さな子供だと思われる子が出てきた


「…その子達をどうするつもりだ!」


「なに、その小娘が使えないとなると予備を使うしか無いからね…この子達には生贄になって貰うとする」


「みんな…!そんな…やめてください!その子たちに手を出さないで!」


シスターが神父に訴えかける


「それは無理だな、我が神の計画にはこの子達が必要なんでね?まぁ…我が神の生贄になるなんて光栄な事じゃないか、喜びを感じ殺されるといい」


「外道め…そうはさせるかよ!」


俺は神父に向かって走る、この速さなら常人じゃ目で追う事も出来ないだろう


「甘いな…土魔法:土流地獄どりゅうじごく


神父が魔法を唱えると、床が土に変わり足がすくわれる。罠系の魔法のようだ


「くそっ…上手く走れない…!」


「…元々ここは孤児院でね…憎きエルシュラを信仰する教団が子供達を育ててたんだが」


神父は醜く笑い顔を歪め語る


「私達ベル・ブラン教団が計画の為に利用させて貰ったんだよ、我が神の御加護により洗脳してね」


「…ふざけるな!計画の為に無関係な子供達まで巻き込んで…お前達はどこまで腐ってるんだ!」


「計画の為なら子供など些細な犠牲だ、洗脳し絶望させ、我が神の力を引き出せるのだ。大いに役に立って貰っているよ…くははは!」


「…うう…みんな…女神エルシュラよ、どうかお助け下さい…」


「…本当クソ野郎だな…」


土が足に絡まるように引っ付き、動きを封じられてしまった


「…こんなもの…!レディッサ先生の複合魔法に比べたら全然大したことねぇ!!」


足に魔力を集中させ、そして上に向かって技を使う


「迅鈴刃流:一式:刹那切り!」


刹那切りの勢いを利用して何とか抜け出すことができた。だが周りは土の罠で敷き詰められている


「…空でも飛べたら楽なのに…」


「…ちっ、抜け出したのか…だがもう遅い、さぁ子供達よ!神の生贄に!」


「…またか…痛いけどしょうがない…スキル:肩代わり」


「…くそ!何故傷がつかない!」


「…かはっ…光魔法:中癒回復」


ああ…痛え!刺されてないのに傷口が出来、血が溢れる。こんなの続けたら気が狂いそうだ


「何とか土を躱しながら進んでやる」


地面に着地すると同時に足に魔力を集中させ前へ飛ぶ

神父の所までそう遠くはない、やれる…


「はぁっ!」


「来るなぁぁ!!!土魔法:砂塵刃さじんやいば


細かい砂が刃の如く鋭く俺へと向かって襲う


「なっ…土魔法のくせに砂とか卑怯だろ!」


何とか避けたがまた土にハマってしまう


「はは!さっさと儀式を終わらせるぞ!」


「させてたまるか!スキル:肩代わり!」


「…しぶとい奴だ…自分にダメージを肩代わりさせるなど正気の沙汰じゃないな」


「…ぐはぁ…アンタだけには言われたくないね…!」


「こうなったら…1人ずつではなく、まとめて生贄にしてくれるわ!土魔法:砂塵刃!!」


「しまっ…スキル:肩代わり…!!」


無数の刃が子供達全員を襲う、十を超える激痛が同時に俺へ押し寄せてきた


「…が、ああああああ!!!」


「くははは!どうだ!痛いか?苦しいか?さっさとスキルを使うのをやめることだな!はっはははは!」


ヤバい…痛みで意識が飛びそうだ…ここで終わる訳には…いかないのに


バーンの俺に託されたんだ…勇者マイにも頼まれたんだ…アイツを倒せと、俺が成し遂げろと!!


「ま…だ…まだ…!やら…れて…たまる…か…」


「しぶとい…しぶといしぶといしぶとい!何故諦めないんだお前は!こんなガキを守ってなんになる?さっさとスキルを解除しろ!勇者ぁ!」


「…なんで諦めないか…?なんで守るか…?そんなのお前自身が…言ってるじゃないか…」


俺は土をナイフで削ぎ落とし抜け出した、そして今も意識が飛びそうになりながらも立ち上がる


「俺は…俺が勇者だからだ、いくつもの過ちを犯し…それでも託してくれた人達の想いがこの背中に沢山背負ってるんだよ」


「…なん…なんだ」


「だから負けられない…償わなければならない…救わなければならない!!だって今の俺は…」


無力な黒耀龍斗でもなく、操られ過ちを犯した魔王でもない。俺は


「…勇者リュート・レギオスだから」


短剣を握りしめ、神父へ向ける


「自称前向きな性格舐めんなよ」



その時俺は光に包まれた、大広間を覆い尽くす程の光に…



『貴方の覚悟しっかりと見させて頂きました、貴方に女神エルシュラの加護を与えましょう。』


え…?


『頑張って下さい勇者リュート…貴方ならきっと…』




「…お兄ちゃん…!」


「勇者様!」


「…ゅ…ゃ…!」


ユーナは気づいた、彼は本当の意味で勇者になったのだと。ユーナの視線の先には確かに希望の光がそこには存在していた



「…今勇者になったのか、さっきのはちょっとフライング気味だったかな」


「お、お前…今…覚醒したのか…馬鹿な!あのお方はそのような事は仰って無かった!」


「アイツの言うことなんて10割当たる訳ないだろ、さて…勇者としての最初のお仕事はお前をぶっ飛ばして子供達を救うことだ!覚悟しろよサイコパス神父!」


「…くそったれぇ!」



勇者の物語が今始まる


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