第三十六話

前回のあらすじ:イリスの提案により風魔法(本当は無属性魔法)を披露しなければならなくなった



「お、シルバーウルフが3匹いるな」


「じゃ、やりますね」


「ああ、ワクワク」


「本当に期待しないでくださいね?」


「分かってるよ、ワクワク」


明らかに分かってない顔してますやん


「はぁ…」


まぁいい俺も5年の間鍛えた無属性魔法がどこまで通用するか知りたい


「力を抜いて…っと…ふぅ…」


集中しろ、自分の中に流れる魔力を手に集め圧縮させてから放出するイメージだ


イリスに聞こえないように魔法を唱える


「無属性魔法:圧縮魔弾」


小さな見えない弾丸の様な魔力が手から放たれる、音はない。言ってしまえば暗殺向きの魔法だ


「ガルゥ?」


パンッと乾いた音が響く、頭に命中したようだ


「ガ…」


圧縮した事により貫通力と速さが通常の魔弾と比べて段違いだな、これなら岩程度なら余裕で貫けそうだ


だが圧縮魔弾の凄いところはそれだけじゃない


「ガルゥ!?」


もう2匹が気づく、だがもう遅い


「無属性魔法:圧縮魔弾:2連」


手から2つの魔弾が同時に放たれる


「ガル…!」


「キャン!」


圧縮魔弾の凄いところは複数の魔弾を同時に撃てること、暗殺だと誰にも気付かれず複数人を同時に始末出来る事が出来るのだ


「俺、勇者より暗殺者の方が向いてるんじゃね…?」


「お、おま…めちゃくちゃ凄いじゃないか!!!」


「いえいえそれほどでも」


と言いつつドヤ顔を決める、5年間の訓練の賜物だね

まあ訓練の成果は圧縮魔弾だけじゃないけど…ふふ


「あれ本当に風魔法か?!音も無くいきなりシルバーウルフが吹き飛んだぞ!?」


「カゼマホウダヨ」


「マジか!今度私にも教えてくれ!」


「あ、うんイイヨ」


すみません本当は無属性魔法なんです、うっ罪悪感が


「やったー!ありがとなリュウ!」


あぁイリスの純粋な眼差しが心にダメージを与えていく…


「つ、次はイリスの魔法が見たいな」


話をそらそう


「私のか?リュウみたいに凄くはないぞ?」


「そ、それでも見てみたいなー」


「そうか?ふふん、そんなに私の魔法が見たいか」


なんでドヤ顔してるんでしょうかこの人は


「なら見せてやらんこともないぞ」


「なんで上からなんだよ…」


「さてどいつがいいかな〜…お、ゴブリンがいるな」


「グギギ…」


「じゃ、見てろよ?」


「うん、見てるよ」


イリスはどんな魔法の使い方をするのだろう


「…風魔法:纏い」


イリスの周りに風が吹き荒れる、まるでイリスを守るかの様に風がイリスを覆った


「これが私の得意な魔法、纏いさ」


えっ?凄くね?俺の圧縮魔弾より派手でカッコイイんですが、さっき圧縮魔弾でドヤ顔してた自分が物凄く恥ずかしくなってきた


「グギィ?グギャ!!」


ゴブリンがこちらに気づいた


「気づかれたよ!」


こちらに走ってくる


「ああ、だが纏いの前じゃ亀の様にノロイぜ」


一瞬だった、少し瞬きをした時にはイリスはゴブリンの後ろに立っており、ゴブリンは倒れていた


「えっ…はや…?!」


「風を己に纏って疾風の如く動けるのが風魔法:纏いだ」


「マジかよかっけぇぇえ!!」


「ふっ、まぁな」


「マジパネェっす!天才じゃないっすか!一生ついていきやす!」


「そう褒めんな、ま、才能ってやつかな」


「かっけえ!」


魔法を纏えるなんて男のロマンじゃん!後で教えてもらわなければ!


「是非わたくしめにご教授願いたい次第です!」


「どうしよっかなー」


「そこをなんとか…!なんでもしますんで!」


「ふーん?じゃ、これからずっと昼飯奢って貰おうか」


「なんやて?!あんた子供に奢らせるのかよ!」


「金欠なんでね、子供だろうがなんだろうが飯が食えるなら気にしない!」


「人として汚い!あんた人としてクズの領域にいるよ!」


「ふーんそういうこと言うなら教えてあげなーい」


「ぐ、ちくしょう…!わ、分かった奢ろう」


「ふっ、初めからそういえばいいんだよ」


「マリン姉ちゃんにお小遣い貰わなきゃ…」


「いやマリンに金貰ってる時点でお前もクズじゃんか」


「…」


「…」


「…ですね」


「…まぁクズ同士仲良くしよう」


「はい…」


イリスとの仲が深まった気がした




「コソコソ…」


「はっ!」


「!」


「また人影が…流石に何となく正体は分かるけど」


「どうかしたか?」


「いえなんでもないです」






「…あの女と親しくなってる…リュート様は私だけのリュート様なのに…」


怒りで爪を噛む、血が少しでていた


「それで…貴方達に聞きたいのですけれど?」


「ひ、ひぃ…お許しを…」


「何故リュート様をつけていたのですか?」


「そ、それは…おいお前が言え」


「そ、そんな…」


アリアに捕まっていたのはこの前イリスに絡んだウロヤーソク家のベンとその護衛だった


「言わないなら、下から少しずつ切り刻んでいきますよ?」


「ひぃぃ…」


「お、俺はベン様に言われてつけてたんだ!俺は関係ねぇ!」


「お、俺もだ!」


「な、お前たち裏切ったな!」


「…なるほど、で?つけてどうするおつもりだったんですか?」


「あの獣人族の女とクソガキに復讐するためにとベン様が言ってました!」


「貴様!そいつが言ってるのは全て嘘です!俺様はただ!」


「…クソガキ?クソガキって誰のことです?」


瞳から光が消えた


「ひえ…」


護衛の1人が恐怖で気絶する


「ふふ、ふふふ…この世で1番素敵なリュート様をクソガキ…?」


「い、いえ…こ、言葉のあやで…」


「許さない…許さない許さない許さない許さない…」


「うわあああああああ!!」


もう1人の護衛が逃げる


「逃がさない」


アリアの姿が消え、逃げた護衛を後ろから掴み倒す


「ぐっ…た、助け…」


「助けなんて来ないですよ…?」


「な、なんなんだアイツは」


俺様はただあの野良犬とガキに俺様に恥をかかせた事を後悔させてやりたかっただけなのに…


アイツは化け物だ、あの店のクソ店員よりも黒い何かがアイツにはある…護衛に注意が向いてる間に逃げなければ!殺される!


「くっ…!」


走れ、走れ走れ!



「…どこに、行くのです?」


「ひっ…」


こちらを見て笑っていた、瞳に光はなかった


「水魔法:水流縛り」


「ぐわああ!やめ、やめてくれ!」


「嫌です」


表情を変えることなくずっと笑っていた


「お、俺様はウロヤーソク家のベン様なんだぞ!」


「だから?」


殺される…アイツの持ってる剣が妖しく光る


「あ、ああ…うわあああああああ!!」


もしまだ命があれば、もうあいつらに関わるのはやめよう。俺様はそう決意し気を失った


「うふふ、リュート様待っててくださいね…今邪魔者を掃除しますから」




目にはハートマークが灯っていた

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