第三十三話

「ここが冒険者の武器や防具を売ってる店だ」


「おお〜ここがですか」


冒険者ギルドを出てしばらく歩いた先にその店はあった、見た目は普通の中世風だな。ただショーウィンドウから見えるのは漫画でしか見たことの無いような武器や防具が飾ってある


「いらっしゃい〜…」


中はなんだか眠たそうな女店員が1人居ただけで人はおらず、あとは武器と防具が並んでいた


「さてお前はまだ小さいしレザーの防具辺りを見てみるか」


「分かりました」


ここはイリスさんに任せよう、本当はカッコよくてゴツイ防具を付けたかったが…まず動けないだろう


「う〜んリュウに合うやつは…これかな」


イリスさんが選んだのは漫画で冒険者が初期に付けてそうなレザー装備だった


「シンプルな軽装備って感じですね」


「あんまり重いと動きにくいからな、このくらいで十分だろ」


「じゃあそれにします!」


「買ったら着てみるといいぜ」


「はい!」


店員さんの元へ行き支払いを済ませる


「あい金貨2枚ね…」


「どうぞ」


「まいどどうも〜…」


本当気だるそうにしてるなぁ…この人


「よし着てみろよ」


「分かりました!」


服の上から着てみる、うんちょうどピッタリだ。冒険者という感じがしていいなこれ


「うん、似合ってるじゃん」


「ありがとうございます!」


いや〜早くこれを着てクエスト受けたいな〜そして早くA級になりたいぜ…


「防具も買ったし戻るとするか」


「分かりました」


店を出ようとすると誰かが店に入ってきたようだ


「ああん?けっ薄汚ねぇ野良犬がいやがるなぁ?」


なんだこいついきなり…イリスさんの方を見ながら嫌な笑みで薄汚い野良犬だと?


「…」


「ちっ黙りかよ!野良犬らしくワンワン吠えてみろよぉ!クハハハハ!」


「お前っ!いきなり何言って…!」


「やめろリュウ!さっさとここを出よう…」


「イリスさん…」


イリスさんは俺を止めると、俺の手を引いて出口へ向かう。顔は何かに怯えてる様だった


「はは、ガキまで連れてんのか!こりゃ傑作だな!餌にでもすんのか?」


ずっと嫌な笑みでこちらを見る、見た目からして貴族の様だ。後ろに護衛らしき冒険者もいる。そいつらも笑いながらイリスさんを見ていた


「…どいてくれ」


そいつらが出口を塞ぎ、出られない


「なんだ出たいのか?ならお座りして靴を舐めろよ、そしたらどいてやるよ!クハハハハ!」


「…」


イリスさんが床に座る、少し震えていた


「とろい犬だぜ、さっさとしろよ?」


もう限界だった、初めて人に殺意を覚えたかもしれない。こいつは1発ぶん殴る!いや1発どころか100発ぶん殴ってやる!


「やめろよ…!これ以上イリスさんを侮辱するな!」


「ああん?んだぁこのガキ、俺はガキだからって容赦しねぇぞ?」


「リュウ…いいんだ、やめとけ」


「でも…!」


「野良犬風情がガキを庇ってんのか、これは笑えるぜ、ほら笑わせてくれた褒美に水をやるよ。飲め」


貴族の男がイリスさんの頭上から水をかけた


「…くっ…」


「クハハハハ!おらこぼれてるぞ飲めよ」


「このやろ…!」


もう無理だ耐えられない!


「リュウ!やめ…」


「うちの店で何やってんだい!」


「ああ?」


店員さんがいつの間にか立ち上がって睨みつけていた

さっきまでの気だるそうな感じではなく、別人の様だった。


「問題を起こすならよそでやれ!ここは防具と武器の店さね、買わないならさっさと出ていきな!」


「んだと?!俺様はウロヤソク男爵の息子ベン様なんだぞ!」


「だからどうしたんだい?男爵だろうが公爵だろうが店で問題を起こすやつは問答無用で出ていってもらうよ」


「ちっ、おいお前たち。分からせてやれ、俺に歯向かうとどうなるか」


「「はい」」


「そういう事だ女、怪我する前に謝っといた方がいいぜ?」


「ベン様は女子供だろうと容赦しないからなぁ?」


「私とやるってのかい?」


その時、店員さんからとんでもない圧が放たれた。初めて経験した、まるでとんでもない怪物が目の前にいる様な錯覚を覚える


「ひっ…」


「お前、何もんだ…?!」


「そんな事はどうでもいいだろう?やるんだね、この私と」


「す、すみませんでした〜!」


「おい待て!クソっ!覚えてろよ!」


悪党が言うようなテンプレのセリフを吐いて去っていった


「はん、あんな気色悪い顔忘れたくても忘れられないよ」


一体何者なんだこの人は…


「ほらあんた達ももう帰りな、また絡まれたりしたら嫌だろう?」


「は、はい!そうですね」


「…ありがとう…ございました…」


イリスさんはお礼を言うと店を出ていった、俺もそれに続いて出ていく


「…」


イリスさんはまだ震えていた、その姿を見ていると自分の無力さに悔しくて怒りで頭がぐちゃぐちゃになるような気分になった


「…ごめんな、みっともない姿見せちまって…」


「いえ…そんな…」


「でもあれが普通なんだよ…獣人族に対してはあれが普通なんだ」


イリスさんは悲しそうに微笑む


「酷い時は殴られたり蹴られたりするし、今日はまだ良い方なんだ…」


「なんで…どうして…」


「獣人族は野蛮で能無し、魔物と一緒で食べることしか頭にない、それが人族の考え方なんだよ」


それはあまりにも酷すぎる、ただ少し見た目が違うだけなのに…?


「もちろん人族全員がそう思ってるとは言わないけど、人族の貴族や1部の人族はそう思ってる」


「そんな…獣人族も人族も同じ人間じゃないか…」


「はは、お前はやっぱり変わったヤツだな…でも嬉しいよ、ありがとな」


頭を優しく撫でるイリスさん、まだ手は震えていた


ちくしょう…俺なんも出来ないじゃんか…勇者になろうと必死に訓練して死にかけて、でもイリスさんをあいつから守れなかった。


あいつの方が普通ってなんだよ、そんなのは間違ってる…でも、今の俺じゃどうしようもない。それがとても悔しかった


「…なんでお前が泣いてんだよ」


「ずみません…でも!ぐやしくて!イリスさんが言われてる時俺なんも出来なかった!大切な人を守る為にずっと!訓練してきたってのに!」


涙が止まらない、1番悔しいのはイリスさんのはずなのに…でも何も出来ない俺に腹が立って、悔しくて

ただただ悲しかった


「そうか…お前は良い奴だなリュウ…お前がパーティーメンバーで良かった」


静かに頭を撫でてくれた



強さだけではどうにもならない事に、俺は勇者になれば解決出来るのだろうかと少し疑問に思った。






「俺が全部力でねじ伏せればいいのか…」








…?今俺なんか言ったか…?最近なんかなんとも言えない違和感を感じるんだよな…









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