第七話

「単刀直入に言う、お前の息子リュートを城で預からせて欲しい」


「断る」


「おいおい即答かよ…まぁまぁ話を聞けって」


「聞かなくたって分かる、リュートを鍛えさせて国の戦力にしようと言うんだろ?俺の大事な息子を危険な目に合わせるわけにはいかん」


父上…それにしても城で預からせて欲しいって、絶対ろくな事にはならない予感しかしない。現に俺の胃がそう訴えかけるようにキリキリと痛んでいる、痛い


「鍛えさせるのは合ってるが国の戦力に加えたりはしないさ、ただな…これからする話が本当になればきっと大勢が死ぬ事になるんだ、どうか話だけでも聞いてくれ」


「…なんなんだその話ってのは」


父上の顔つきが徐々に強ばってくる。部屋の空気が沈んでいくのが分かる


「お前はなんで今になって光の適性者が出たと思う…?ただの偶然だと思うか?」


か、神様の気まぐれとか…?


「光の適性というのは勇者だけが使えた特別な物だ、これは偶然なんかじゃないんだよ」


「おい…まさか」


「文献にな200年前…魔王が現れた時より12年前に、魔界と人界の境界線がある濃霧の森から動物の死骸と目視出来るほどの濃く…黒い魔力が発見されたのは知ってるな?」


「ああ…」


「それが先日、同じく濃霧の森で見つかった」


「な…」


「文献通りなら今から12年後、魔王の称号を持った者が現れる」


嘘だろ魔王がまた、現れるの?どうして…勇者が倒したんじゃ…


「おいおい冗談じゃない、魔族とは平和協定を結んでるじゃないか、それに境界線にはどちらかが協定を破らないようにと結界があるだろ?」


「俺も最初は信じなかったさ、だがお前が言った結界がな…報告によるとヒビが入っていたらしいんだ」


「ヒビだと?!そんな馬鹿な…!」


「…もし結界がそのまま壊れて魔王の称号を持った者が攻めてきたら人界は間違いなく滅ぶだろう」


「だからソイツをリュートが倒せと…?ふざけるなよ!200年前勇者がどうなったのか王族の、国王のお前なら分かるだろ!」


「ああ!分かるさ!だが魔王を倒すには光魔法と光の適性者に授けられる勇者の称号が必要不可欠なことも分かるだろう!魔王をほっとけばこの国も!他の亜人族達の国も滅んでしまうんだぞ!」


俺が魔王を倒さなきゃいけない?それに200年前の勇者がなんだ?無理だ…俺なんかが魔王を倒すなんて

無理に決まってる!


「それでも…!自分の息子を死ぬと分かってる所に送る親がいるか?!」


「気持ちは分かる…だがこれはお前がどうこう言ってどうにかなる問題じゃないんだ」


「それでも…!」


父上の反応を見るともしかしたら200年前の勇者は何かしらの理由で死ななければならないのだろう、その重荷を俺が背負えるだろうか?


「それに最近教会の奴らがきな臭いんだよ。教会は光の適性を自分達の物にする為ならなんだってやる奴らだ。だが国で保護すれば教会も手出しは出来ない、頼む分かってくれ」


「教会までも…くそ…」


「強制はしたくないんだ、俺もお前やリュートに危ない目にはあって欲しくないさ。でもこれは避けて通れないんだよ…アルト…」


国王陛下…もし父上がこのまま断ってしまって、俺が勇者にならなかったら教会の奴らが屋敷を襲うかもしれないのか?


もしそうなったら俺は自分を憎むだろう…くそっどうすれば…


「俺は…俺はレギオス領の領主だ、領や民の事を常に考えよくしようと日頃努力しているつもりだ。その領民が魔王に殺されるかもしれない…そうならない為に領主としてリュートを預けるのが正しいのかもしれない。」


父上…


「ああ」


「だが俺は領主の前に父親なんだ…!息子を…死なせたくない!」


…!


「…」


「今人として最低な事を言っているのは分かる、だが息子を勇者として戦わせる事はできない!」


俺はこのまま父上の言う通り勇者にならず領に戻っていいのか?魔王を倒さず大勢の人を見殺しにしてでも?俺は…


「こ……が…運…の…道…失…許…ない」


「ぐぅぅ?!」


この声は…あの時の!頭が割れる!くそ…話しかける度に頭痛くなるのどうにかしろよ!


「おい大丈夫かリュート!どうした!」


「どうした!城の者を呼ぼう!」


「大丈…夫です…!」


嘘ですめちゃくちゃ痛いです!あいたたた…


「ここが…運命の…」


「ここが運命の分かれ道だ、失敗は許されない。」


運命の…分かれ道…?


「はぁ…はぁ…」


お、治まった…


「本当に大丈夫か?城の者を呼んだ方がいいんじゃないか?」


「ええ…何とか治まりました」


「そうか、良かった…痛かったら我慢せずに俺に言えよ?」


「ありがとうこざいます父上、国王陛下」


「なに、アルトの息子だ心配もするさ」


「お前は未来の勇者だから、じゃないのか?」


父上がジト目で国王陛下を見る


「そう言うなよ、言ったろ?お前の気持ちは分かるって。はぁ…本当に城で預からなくていいんだな?アルト」


「ああ…すまないなルーデルク」


ここが運命の別れ道…


「しょうがない魔王の件はどうにかして別の対策を探し…」


「…俺勇者になります!」


「な、リュート?!」


「…本当かリュート?」


「はい、父上や母上姉上達を守れるのなら俺は…勇者になります!」


これでいいんだ…そうだろ謎の声、運命の分かれ道なんてわかんないけどやってやるよ勇者。


世界も家族も全部守って見せるさ、前向きな性格だけが取り柄の俺を舐めるなよ!そして死ぬ運命すらも変えてみせるぞ…!



文章を修正しました

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る