最終クエスト 緊急事態

第39話「安否確認」

 わたしは目の前のバリアに茫然としていると、ユニは突然バリアを軽く小突いた。

 わたしから見たらたったそれだけの軽い動作に見えたのだけど、バンッ! と音が鳴り響き、びっくりして目を閉じちゃった。


「うわっ! びっくりした。何しているのよユニ」


「いや、どれくらいの強度かと思って軽く触れただけなんだが、誰も寄せ付けないし出さない仕様みたいだな」


 勇者の手の甲が赤くひりついている。ユニに傷をつけられる強さのバリアと見るに完全に魔王さま製で間違いなさそうね。


「本来訪問しても中に入れないときは電話やFAXなどの通信手段を用いて中にいるかを確認するんだが、この世界だと魔術での通信だったな。ケアラ、中のいる誰かに連絡はとれるか?」


 ええっと……。これもわたし苦手なのよね。だいたい大音量で相手に繋がって、もはや攻撃って言われるんだけど……。

 でも、そんなこと言っていられないわね!

 全集中して、連絡魔術を行使するけど……。


「…………」


 ダメみたい? そもそもわたしが未熟だからなのか、それとも魔王さまのバリアがそうさせているのかわ分からないけれど、とにかく中と連絡がとれない。

 そのことをユニに伝えると、


「なら、他に得意そうなやつはいるか? そうすればこのバリアが原因かケアラが原因かくらいは分かるが」


「それならメイバランかな。中に仲間の吸血鬼もいるわけだし」


「なるほど。確かに」


 ユニは転移魔術を行使しると、わたしを置いてメイバランの元へ向かった。


 急に手持無沙汰になったわたしはバリアの中をぼぉーと見ていると、見知った人影が。


「えっ!? 魔王さま? なんで城下町に?」


 わたしは魔王さまに全力で呼びかけたけど、こちらの声は聞こえないのか、そのまま通り過ぎていく。


「魔王さまが魔王城から出るなんて……」


 言い知れぬ不安に押しつぶされそうになりながら、それを振り払う為、決心する。


「このバリア、破壊するわ」


 ユニを待っている時間はない!

 さっさとぶっ壊して、魔王さまを、皆の安否を確認しに行く!!


「コォォォ!!」


 気合を入れてバリアを蹴り飛ばした。

 けど――


「痛っ!! さすが魔王さま製、これくらいじゃビクともしないわね。でも、魔王側近として諦める訳にはいかないわ!! もう一発っ!!」


 さらにもう一発蹴りを叩きこむけど、全然ダメね。

 逆にわたしのクツが壊れそう。


「クツの一足や二足、また買えばいいんだから、どうってことないわ!」


 さらにもう一回、蹴りを繰り出そうとしたとき、


「おい。何してる?」


 ガシッと足を掴まれた感覚と共に、ユニの静かだけど、どこか怒っているような声が響いた。


「何って、いまそこに魔王さまが歩いていたのよ! 中で何かあったに違いないわ。もしかしたら皆に危機が及んでいるかも。早く中に入らないとっ!!」


 わたしは捲し立てて一息に言うと、


「大丈夫だ。さっき中と連絡が取れた。だから一度落ち着け。中の状況を説明する。それに、この足を見ろ」


 自分の足を見ると、クツはとっくに壊れていて、足からは血が滴っていた。

 えっ? こんなになっていたの?


 自覚したとたん、急に痛みが襲ってくる。


「くっ! ううぅ」


「ほら見ろ。もう一回蹴っていたら危ないところだっただろう。緊急事態だったのはわかるが、こういうのはプロに任せた方がいい。俺の世界でもレスキューとか消防を呼んで窓をぶち割って入っているんだ」


 地面へ座るとユニはわたしの足にハンカチを巻きながら中の状況を説明してくれる。

 それによると、魔王さまが急に、「ナイッ!!」と叫んで、うろうろしだしたと思うと、外へと飛び出したそうね。それからバリアを張ると、誰一人出れなくなっただけで、いまのところ城にも城下町にも、もちろん魔王さまにも被害はないみたい。


 とりあえず、誰もケガなどないみたいで、ほっと胸を撫でおろしていると、さらにユニは続ける。


「あ~、それと、メイバランも通信魔術は使えなかったぞ。この結界の所為だな。今回連絡がとれたのは吸血鬼同志の意思疎通魔法らしいから、ケアラは決して失敗したわけじゃない、かもしれない」


 ここで、そのフォローいる?


「そりゃそうよ! この側近のわたしがミスするはずないじゃない!! そういうの無駄な気遣いよ。それくらいでネガティブになるような女じゃないんだからっ!!」


 ちょうどユニの応急処置も終わって、わたしは立ち上がる。


「壊すのはプロに任せるっていうなら、それこそ適任がいるわよね!」


 そう、わたしの友達にして怪力持ちのミノタウロス族がっ!!


「ああ、すでにメイバランから連絡を取ってもらった。もうすぐ着くだろう」


 ユニの言葉と共に、完璧なタイミングで彼女は到着した。


「ひさしぶりね。2人とも」


「ミノンちゃんっ!!」


 大きなバトルアックスを肩に掛けながら、女子力たっぷりの笑顔で手を振ってこちらに近づくのはミノタウロス族のミノンちゃん。

 彼女さえいれば、このバリアを壊すくらい出来そうね!!

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