第38話「退室」

「それじゃあ、俺たちは魔王城へ戻るから」


 ユニは素っ気なくダイオに挨拶する。

 わたしも、「お世話になりました。失礼します」と言ってリリと共に外へ出る。

 朝に来たはずだったのに、もう日はとっぷりと暮れて月が出ている。


「それじゃあ、リリ、これで。って言っても、来たければいつでも魔王城へ来て良いし、ユニと一緒にまたちょいちょい来るとは思うけど」


「ふんっ。別に。悪魔が来なくてもいいんだけど。ただ、まぁ、悪魔の力を借りる女というのも悪くはないなって」


「確かに、ちょっとカッコイイわね」


「そうだろうっ!!」


 リリは目を輝かせ、無邪気にほほ笑んだ。


 一方で、ユニはなかなか出て来ないでいるけど、どうしたのかしら?

 ダイオとの別れが惜しいのかしらね?


 はっ! これで万が一残るなんて言われたら問題ね!

 わたしは慌てて家の壁に耳を当てて全力で聞き耳を立てた。


「……ユニ。良い顔になったな」


「なんだ、いきなり?」


「やはり勇者など止めて自由に暮らす方がお前にはあっていたんだよ。儂は優しすぎるお前が心配で、勇者を辞めるよう画策した。その結果儂らが嫌われようとも。だが、悪いのは儂であって、リリは関係ない。儂とか他の仲間は恨んでくれて構わないが、あの子だけは許してやってくれないか」


「別にもとより恨んでいない。多少の意趣返しはするが、それでチャラだ。ただ、もし恨むとすれば、ケアラにセクハラ、もといエロい事をした件だな。本当に次はないからな」


「う、うむ。肝にめいじておく」


「リリにもだ」


「もちろんっ!」


「それなら、たまには顔を見せにくるよ。ついでに掃除もしに来てやる」


「ああ、それはどうでもいいさ。自分の時間を大切にしろ。ただ儂が死んだ際には埋めてくれ。リリだと悲しみに暮れるか蘇生の秘術とか言って闇魔術とかに手を染めそうで……」


「確かにありえるな」


 二人の笑い声が聞こえ、それが静まると、どちらとともなく別れを切り出した。


「それじゃ」


 あっ、やばっ! 盗み聞いていたのがバレる!

 光の速さでリリの隣に戻ると、息の乱れを悟られないように、にっこりとした笑顔だけで良い女風に出迎える。


「さてと、ようやくね。魔王城へ戻りましょう」


 ユニは静かに頷くと、転移魔術を行使した。

 なんやかんやリリとは短い間だったけど、キャラが濃くて、すごく長い時間一緒にいたような気がするわ。

 またユニと2人っていうのは少し寂しい気がするわね。

 わたしの後ろ髪引かれる気分とは裏腹に転移はスムーズに行われた。


              ※


 バチンッ!!


 転移の最中、突如として轟音が鳴り響いて、思わず顔をしかめる。


「まずいっ!! ケアラっ!!」


 ユニの叫ぶ声と同時に思いっきり抱きしめられる。

 えっ!? 抱きしめられてる? ユニに!?

 ちょっと、まだ、心の準備がっ!!


 そう思ったのも束の間、わたしが転移魔術を失敗したときのように、魔王城の城下街の外に墜落した。


「いつつっ。わたしの転移魔術での墜落じゃないから、着地ミスったわ」


 軽く尻もちをついたようでお尻が痛いわ。

 でも、そんな痛みはすぐに吹っ飛んじゃったわ。なにせ、ユニがこれまで見せたことのない真剣な表情で、腕の中のわたしを心配そうに見つめるんだものっ!


「大丈夫か、ケアラ?」


「え、ええ。それより、ユニが失敗するなんて、どうしたの? まぁ、転移魔術は難しいから仕方ないかもしれないけどね」


 わたしは頬が緩むのを感じて、なんとか真顔になろうとするけど、ダメね。ニヤニヤが止まらないわ。


「どうやら、結界か何かに邪魔されたみたいだ」


 ユニが魔王城の方を見上げるのを、一緒に追っていくと、そこには確かにバリアが張られていた。それも超巨大で強固な。

 こんなこと出来るのは――


「……魔王さま?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る