第37話「介護練習」
「違う! そうじゃないっ!! もっとキツく、きゅっとだ!」
もはやわたしは心を無にして、身を任せていた。
「ユニ、この悪魔、羽根が邪魔なんだけど」
リリは弱音をあげるけど、わたしの方があげたいのよね。
「頑張れ! 今回やったことは練習が必要だ。移乗は落としたら問題だし、おむつ交換は失敗すると片づけが大変だ。こうして練習に付き合ってくれるやつがいるうちに覚えるんだ」
そう。その通りよ! 何より実験台もとい、練習台にされているわたしの犠牲を無駄にしないでほしいわ!!
わたしたちは外に出て、ユニの魔法で簡易ベッドを土で作ると、そこでおむつ交換や移乗の練習をすることになったの。
戦闘技術も高いリリは移乗は少しの練習で完全にマスターしたんだけれど、おむつ交換に苦戦している。
わたしはわたしで意外と介護をやられるのも勉強になりそうなんだけど、本当に正しい手順・技術のユニの介護は、なぜか申し出ても頑なに拒否されるのよね。
なぜなのかしら? 理由を聞いても『セクハラ』とかっていう謎のワードしか言わないし。
「ちょっと、リリ、もう少し頑張って押せないの、わたし倒れないようにめっちゃ腹筋使ってるんだけど!!」
「ふんっ、悪魔なのに、この程度も耐えられないなんて、軟弱ね」
カチーン! この協力しているわたしに向かって、その言いぐさ。
わたしの真の腹筋力を舐めないでもらいたいわね。
「ふんっ!」
斜めの姿勢でも、強靭な腹筋を生かして、その場に留まる。
「いや、ケアラ、そんな利用者いないからな。普通に力を抜いてくれ、リリの練習にならな。リリもリリでせっかくケアラが協力してくれているんだ。文句を言うもんじゃないぞ」
「う、うう。でも、ユニ、これ結構大変だよぉ」
それでも何度も挑戦するリリ。そのガッツだけは認めてあげてもいいけどね。
「ねぇ、ユニがもう一度お手本見せた方がいいんじゃない?」
「くっ、仕方ない。俺は直接触らないから、訴えるなよ!」
「なんの話かわからないけど、大丈夫よ。訴えないわよ」
仕事で触られて訴えるってどんな世界なのよ!
「本当だな。言質とったからな! 倫理魔法! 証拠保存っ!! これでさっきの一連の流れは保存されている。あとでセクハラされたって言っても聞き入れないからな!」
「もう、どうでもいいから、早くしてっ!」
ユニは覚悟を決めたようで、その顔は介護士としての顔になっていて、不覚にもドキッとしちゃう。
おさらいとしておむつ交換をしていくんだけど、ユニの手が肩や膝裏に触れていく。
わたしの髪が目にかかったときも、スマートにさっとどけてくれる。
「…………っ!」
こ、これは、わたしの方が恥ずかしいかも。
これは仕事よ。介護よ。
集中よ!
わたしも頑張って仕事モードになると、ユニの細やかな配慮がわかる。
ときおりリリが代わりに手を出して、最終的に、今までで一番しっかりとしたおむつ交換が行えた。
おむつの当たり心地も悪くないし。これがプロの技なのね。
その後、再びリリだけでおむつ交換を行うと、ユニほどではないけれど、しっかりとおむつが当る。
「おっ! いいんじゃない、リリ」
「ふふんっ、あたしに掛かれば、この程度造作もないさ」
リリは腕を組んで、偉そうにふんぞり返る。けど、微妙に顔がそっぽを向いてるのは何故?
「…………その、……悪魔、ありがと」
「えっ? なんて?」
ありがとって聞えたような気がしなくもないけど。本当はなんて言ったのかしら?
「も、もう言わんっ!!」
リリは完全に背を向けてしまっんだけど。
「さっき言った言葉なら、俺の倫理魔法で保存されているぞ。ほら」
『…………その、……悪魔、ありがと』
との言葉が再生されると、リリはぷるぷると震えている。背を向けているから顔は見れないけれど、耳が真っ赤だから、きっと顔も真っ赤ね。
「いいわよ。お礼なんて、わたしも勉強になったし。あっ、そうだ、それならわたしのおむつ交換の練習に付き合ってよ。どうせついでよね」
こうして、わたしたち2人は移乗とおむつ交換を完璧に行えるようになり、いよいよお別れの時間だわ。
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