第36話「おむつ交換」
無事に椅子へと降りたダイオ。ユニが体を支えている間に、わたしとリリで包帯で固定していく。
「これで倒れないはずっ!」
「腹に包帯は格好悪いな。あたしはしないようにしよう!」
「椅子に深く腰かけてますか?」
「ああ、たぶん。これ、浅かったら危ないよな?」
「その場合は、自分で座る位置を直せるならやってもらうし、無理ならもう一回立って深く腰掛けるか、後ろに回って引っ張り上げるかだな。このときも斜め上に上げるようにするとスムーズです」
椅子に座ったダイオは満足そうな顔をして、
「しかし、この年になっても女性に縛られるというのはなかなか良いものだな」
何を言ってるんだこいつ。
たぶん、虫けらを見るような、いえ、虫に失礼ね。汚物を見るような目でダイオを見ていると、ユニから再び、休憩の申請が入る。もちろんオーケーよ!
「待て待て、冗談だ冗談。手は出してないんだからいいだろ」
「常識的にダメに決まっているだろ。セクハラしないと話せない呪いか何かなのか? まぁ、いい。今のうちにシーツ、マット、毛布を洗って干すぞ」
わたしたち三人はそれぞれ持って外へ。
ユニの魔法で水を生み出し、水流を生む。
石けんを混ぜて、洗濯物を全て投げ入れると目の前でぐるんぐるんと洗われて行くわ。
いいわね。これ。一家に一人ユニが欲しいわね。
さらに洗い終わると、今度は火と風の魔法で乾かしていったわ。
「本当ならちゃんと太陽に当てて殺菌したいところだが、今回は仕方ないな」
しっかりと乾かされたシーツ類を持って再びベッドへ。
まるでメイドさんかと見間違うくらいの手並みでユニはベッドメイクをしていく。
「さて、それと、ミノンにお願いして特注で作ってもらったこれの出番だな。その名も防水シート!」
防水シート? 名前からして水を弾くレインコートみたいなのを敷くのかしら?
でも、そうすると、その水分は結局洋服とかシーツに流れて行っちゃうわよね。
「そう、心配そうな顔をするなケアラ。これは片面が防水加工。もう片方は普通の布だ。そして防水加工している方を下にすれば、上の布が尿などの水分を吸って、下には波及しないという便利アイテムだ」
「へぇ、色々と考えられているのね」
「俺の元の世界では介護業界の技術革新は凄くてな。戦争があると技術は進化すると言うが、介護は常に戦争だからな。そりゃ技術も進むってもんだ」
介護が戦争ね。確かに今のわたしたちの状況を見ても、言い得て妙ね。
「さて、それじゃあ、もうひとつ。これは実際にやるだろうリリが覚えないといけないんだが、おむつだ。この世界にも赤ちゃんように布おむつがあったから購入してきた」
「赤ちゃん用なのに人間に合うの?」
「そこは魔族だな。ミノタウロスに吸血鬼など色んな種族がいるからな。大きさも多岐にわたっていたぞ。とりあえずダイオに合いそうなサイズを選んできた」
おむつは一般的なT字のような形で、縦のところだけ排泄物を吸い込む為に厚手になっているわ。
「ちょっと待てっ!」
ダイオから抗議の声が上がる。まぁ、赤ちゃんがするおむつをしろって言われているのだから当然ね。
「儂はイヤだぞ! そんなのを履くのはっ! なぜこの歳にもなって赤ん坊のおむつを履かねばならないのだっ!!」
そうよね。わたしだっていきなりそんな事を言われても拒否するわね。
わたしでさえそう思っていると、ユニは深々と頭を下げたわ。
「確かにイヤだと思うのも、恥ずかしさが勝るのも理解できます。ですが、このままでは孫のように思っていると言ったリリに多大な負担が掛かります。こうして俺たちが来れる日も少ないですし、リリ一人でダイオの面倒を看るのにも限界があります。ここでダイオが我慢しておむつを付けてくれれば、リリの負担が少なくともマットを洗う分は軽減されます。ですから、どうかご理解いただければと」
ダイオは目を瞑り、思案。
流石に自分のプライドとリリの事を天秤にかけられると悩むみたいね。
本当なら悩まずにリリのことを取ってほしいところだけど。
「わかった。おむつを履こう」
悩んでいた時間は1~2分。たぶん、さっきまであんなに嫌がっていたのに、すぐオーケーを出すのはバツが悪かったから、悩む振りをしただけみたいね。
「ありがとうございます。では、おむつ交換のやり方をリリとケアラに説明しながら行わさせていただきます」
ユニは先ほどとは反対の動作でダイオをベッドへ戻し寝かせると体位交換して横を向かせてからズボンを降ろした。
でも、なぜか今回は倫理魔法は使わないようで、秘部が露わになるわ。
「排泄物で汚れているからな。まずはおむつをひとつ犠牲にして洗っていく」
おむつをお尻のところに差し込み、仰向けに戻す。
そうしてから、陰部を魔法で出したお湯で流して、石けんで洗う。石けんを流すと今度は清潔なタオルで水分を拭き取った。
「本当ならざぶざぶと大量にお湯を使いたいところなんだが、おむつの許容量があるから最低限の水量で洗って行きます。今度はお尻の方を洗いますね。お尻も同様にお湯で流してから石けんで洗う。汚れが酷いときは先に捨ててもいい布で拭き取ってからにするんだ」
ダイオに言うのとわたしたちに言うので、器用に敬語とタメ語を使い分けているわね。なんか途中でごちゃごちゃになりそうなものだけど。
「で、同様に洗って拭いたら、おむつを丸める」
おむつはさっきシーツでやったようにダイオの方へ丸めていくわね。
あっ、下斜めから折って三角にしてから丸めると、シーツも汚れないのね。
「それから新しいおむつを差し込んでいきます。このとき、ちゃんと一番上が腰骨の少し上に来るように、さらに真ん中をだいたい背骨のところを基準に合わせる。真ん中が分かりづらいときは一度おむつを半分当てるようにして腰に回すと分かりやすいな。そうしたら、今度は反対を向きますね」
一度ダイオを仰向けにしてから、反対に体位交換していく。
これってダイオ自身は動かされている自覚ってあるのかしら、水のようにスムーズに動いているのだけど。
「反対を向いてもらったら、汚れた方のおむつを抜き、タオルでお尻を拭く。そして。新しいおむつを引っ張り出して、再び真ん中になっているか合わせる。ここであまりにも違うようなら、再び合う位置にして反対を向いてもらう」
「なぁ、ユニ、そのおむつはずれていると問題があるのか?」
無邪気にリリが質問するけど、確かにずれていると何が困るのかしら?
「まず、上下だが、これは分かるな。上過ぎれば、そもそもおむつが履けないし、下過ぎればお尻が出てしまう」
わたしとリリは同時にコクコクと頷いた。
うん、そこは分かりやすいわね。
「左右だが、これは多少なら問題ない。というか完全に真ん中は結構難しいんだ。ただ、どちらかに寄って当ててしまうと、単純に漏れる。漏れる理由を今から説明すると」
ユニはダイオを仰向けにすると、T字の下の部分を山折りにしつつ秘部に被せ、股部分を片方ずつ念入りに当ててからお腹にまで伸ばす。そしてシワを伸ばしてから横の出っ張っているところを寄せてボタン止めする。
ユニはおむつが当る股のところを指差すと説明を始めたわ。
「どちらかに寄っていると、ここの部分が偏って隙間が出来るんだ。それにただ漫然と当てるだけでも隙間ができて、そこから漏れるからピッタリと当てるようにする。そのコツが山折りにしつつ当てることなんだ」
へぇ、そうなのね。というか、世のお母さま方はこんな大変なことをしつつ子育てしているのね。
今度の年始にはちゃんと実家に帰って、親孝行しよう!
「最後のズボンは簡単で腰の方まで上げたら、体位交換を左右して片方ずつ上げてっと、これで終わり」
ようやく、一通りのダイオの介護が終わったみたい。やっぱりユニでも大変なのか、その額には汗が煌めいていたわ。
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