第25話「相談援助(リリ)」

「はっ!! ここはどこ? あたしは誰? いやいや、あたしは分かるわ。でも本当にどこなんだ?」


「あっ、起きたようね。良かったわ。ユニ起きたみたいよ」


 魔王さまの介護の間、休憩で紅茶をすすっていたユニを呼び出す。

 まぁ、あまり気乗りしないのは分かるけど、そんなゆっくり立たなくても良くない? というほど、スローなペースで立ち上がる。


「お久しぶりです。リリーフさん。今日はどういった御用でわざわざ魔王城までご足労いただいたんですか?」


 うわっ。完全に営業用の他人行儀な挨拶。せめて元パーティだったんだから、わたしとみたいに砕けた感じでいいのに……。ん? っていうことはわたしのことは仲間って思ってくれてるんだっ!

 唐突な喜びを噛みしめながら、顔に出ないように唇を嚙みしめる。


「ちょっと! なぜ、村人対応をするの……、あっ、いやいや、この偉大なる力を秘めた、このリリーフ=エリエールには慇懃無礼な態度こそ正しいわ!!」


 慇懃無礼って、丁寧すぎてかえって失礼って意味だけど、いや、この状況にあってはいるけど、たぶん、間違った意味で使ってるわよね。


「で、どういった御用で?」


「ふふんっ。この全てを見通す邪眼は全てを見通しているぞ。ユニ、あなたは魔王軍に囚われ、やりたくもない仕事を負わされていたのだろう。このあたしが解き放ってしんぜよう。ただし、その対価として、貴様には我の願いを聞いてもらうぞ」


 全てを見通すって2回言ったわ。ちょっと、可哀そうな子なのかしら?

 でも、内容としては、何かユニにお願いがあるみたいだけど……。


「その案件は、承諾出来かねますので、お引き取りください。お出口はお部屋を出て右にある階段からどうぞ」


「そうだろう。そうだろう。あたしに感謝して、なんでもやる気になっ――。えっ!? そんな、今、あたし、帰れって言われた?」


 なぜかこっちに訴えかけるように見てくるんだが。いや、こっち見んな!


「ええ、そのようにおっしゃいましたが」


 ユニの追撃っ!! 無血の勇者は毒舌だった。


「そもそも、ここに囚われてなどおりませんし、そのような事実無根なことを吹聴されるようですと、こちらも出るところに出させていただきますよ」


「あっ、あっ、じゃあ、それはいいの! それはいいから。お願い、お願いだけ聞いて。ねっ! それくらいならいいでしょ?」


「いえ、お帰りください」


 顔は笑顔だけど、怖っ!


「うぅ、いいじゃん。かつての仲間の話くらい聞いてくれたって! あたし、すんごく頑張って魔王城まで来たんだよっ!!」


「まぁまぁ、ユニ、話くらい聞いてあげてもいいんじゃない?」


 確かに、人間の国からここまでくるのには以外と大変だしね。

 4か所関所があって、その全てで税の徴収があるし、今は魔族は襲ってこなくても、魔物と出会えば戦闘にもなったかもしれないし。

 それに泣かれるの弱いのよね。


「ケアラがそう言うなら、話くらいは聞いてやるか」


「ぐすっ。ありがと、あんた悪魔なのに良いヤツなのね」


 額当て外して普通に両目の涙を拭ってるけど、あえてツッコまないようにしておこう。


「で、どうしたんだ?」


「あのね――」


 リリは静かに語り始めた。


「賢者のダイオ=アテントが倒れちゃったの。もう80歳越えの年だったから、それ自体は仕方ないと思うんだ。で、ダイオは自分は大丈夫だから、皆は魔王軍と戦ってくださいって。あたしたちはその通りに魔王軍と戦おうとしたんだけど、ユニとダイオの抜けた穴は大きくて、何度も敗走することになったわ。

で、それから少しして、急に魔族が休戦を言い出してきて、あたしたちは無理に戦わなくても良くなった。他の剣士や格闘家、魔法使いはそれぞれ元の冒険者に戻ったのよ。で、あたしだけはダイオが心配で一旦様子を見に行ったら、その……、えっと……、ヒトが住むような環境じゃなくなっていたと言うか」


 リリは口ごもっているが、ユニはそれとなく想像がついたようで、


「倫理魔法。ジシュ=キセイ!! これで言いにくいことはピーという音になるから、好きに言って大丈夫だ」


「あ、ありがと。えっと、トイレにも行けてなかったみたいで、部屋中、尿や糞便の臭いがすごくて。ごはんもカビの生えたパンとか食べてて。ピーーーーーーーーーーーーーーーでも、あたしじゃ、どうしていいか分からなかったの。ごはんは置いてきたけど、そのまま逃げるように立ち去っちゃって。それで、誰に相談しても、もう寿命だから、とか、本当に困ったら自分でなんとかするさとか言うし。もう頼れるのがユニしかいなくて」


 これまで辛かったのを思い出したようにリリはグスグスと泣き出す。


「事情は分かった。が、今の俺は無理だ。魔王の介護があって、ここを何日も空けられない」


「そ、そんな……。くっ!! 見損なったぞ勇者っ!! お前は心まで魔王軍に売ったんだなっ!! ならば、あたしの全ての力で持って、無理矢理にでもお前を連れて行ってみせるっ!!」


 リリは額当てを完全に外し、両目を見開く。


「封印解除っ!!」


 さらに左手の包帯も取るけれど、えっと、シリアスなところ、本当に申し訳ないけど、何もないわよね?

 目はまだ分かるわ。片目塞ぐことで闇夜でも見えるようにしたり、あえて不利な状況で自分を鍛えたりとかあるけど。腕はなんの意味が?


 そんなわたしの疑問に答えるように、ユニは口を開いた。


「こいつは中二病だ。深く気にするな。封印もされてないし、邪眼もない」


「ちゅうにびょう?」


「つまり、妄想癖だ」


 なるほど。でも両目開いたのは面倒そうね。本当に強くなっている訳だし。

 でも、2対1なら余裕よね。


 わたしも構えを取ると、


「ちょっと! 2対1はないよね。こういうときはあたしとユニの1対1が王道でしょ!!」


「そうなの?」


「知らん。俺なら2対1で倒す」


「そうよね」


 リリの意向は完全に無視され、2対1の構図となる。


「ひぐっ。ずるい~~!! 普通1対1なのぉ~~」


 この子、すぐ泣くなぁ。


「じゃあ、ユニに任せるわよ。それでいいでしょ」


 リリはパァ~と顔を明るくする。なにこれ、可愛い!!


「良し。それなら、勝負よ。ダイオの為にも負けないんだからっ!!」

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