第26話「介護士拳Ⅱ」

 リリは体を傾けたと思ったら同時に動き出し、いつの間にかユニの懐に入り込む。


「喰らえ! 漆黒の左腕ダークネス・サウスポー!!」


「介護士拳。カンサツ」


 カンサツって観察かな? さっとリリの攻撃を避けている様子をみると、ただの見切りね!!


「まだまだぁ!! 裏拳デルニエール=フィスト!!」


 ただの裏拳をすごく格好良く言ってるっ!?

 けれど、それもユニにギリギリでかわされているわ。


「流石、勇者!! この程度じゃあ、触れることすら出来ないようね。ならば、とっておきだ!!」


 バッと飛び退き、距離を取ると、右手に力が集まって行くのが分かる。

 これから、渾身の一撃が右手から放たれるのね!


 ぐっと身を屈めると、全身のバネを使ってユニへと突進する。


穿うがてっ!! 光輝の右手シャイニング=ライトぉぉぉっ!!」


 そんなっ! この一撃は相当な威力よ!! 防御は考えないで避けるべきだけど、リリのスピードがそれを許さない。まさしく必殺の一撃っ!!

 ユニ、どうなっちゃうの!?


「介護士拳。タイコー」


 ユニは突き出された右手を肩を押していなす。

 避けるでも防御でもなく、逸らす選択をしたユニ。確かにそれがベストだわ!

 リリは自身の威力そのままに壁へと右腕を突き刺す。


「タイコーイジ」


「ちょっと、お尻触らないでよっ!!」


「人聞きの悪い事言うなっ! ちゃんとギリギリ腰だろ」


 リリの腰と肩を押して壁へと押さえつけている。

 不思議なことにそれだけでリリは身動きが取れないようで、

 

「なんで、動けないの、そんなに強い力じゃないのにっ!! うぅ、負けちゃいけないのにぃ。なんでよっ!!」


 なんとか暴れようと試みているけど、ユニの拘束からは逃れられそうにないわね。

 というか、やっぱりだけど、泣きそうになってるわね。


「これが介護士拳だ。で、ちょうどいいから、そのまま話を聞け。さっき、今の俺は無理だって言ったんだ。これから魔王の介護をする同僚を探す。それから、すぐに出来る介助をお前に教えつつ、さらに今後リリが介護出来るように、介護も教えてやる。俺じゃなく、お前がダイオを介護するんだ」


「えっ、それって。つまり、ユニは魔王軍に魂まで売った訳じゃないってこと?」


「俺は俺だ。困ったヤツがいれば出来る限り助ける。それが敵でも動物でもだ」


「そう……よね。ありがとう。ユニはそういう奴だったわよね。ちゃんとあたしのこと助けようとしてくれてたんだね。勘違いしてごめん」


「リリの妄想癖はいつものことだから気にしていないさ」


「ところで、早くお尻から手をどけてくれないかな? あたしはいいんだけど。そこの悪魔が鬼の形相で見てるんだけど」


 べ、別に鬼の形相でなんて見てないわよ!!

 た、ただ、ちょっと密着しすぎなんじゃないかなって思っただけよ!


 慌ててユニはすっと退けると、無罪だと主張するように両手を上げた。


「えっと、なんかよく分からんが、今後の方針を決めたいと思うんだが……」


 戸惑いつつもユニは提案を述べていく。


「まずはリリへ指導。その後ダイオまでの足の確保。そして求人だな」


「あっ。介護に向いてそうな魔族ならわたしに当てがあるわよ。ただ受けてくれるかは分からないけど」


「それは求人と言うのか?」


「ど、どうだろ?」


 ま、まぁ、これでとにかくの方針は決まりよね! ならあとは行動あるのみよ!

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