第13話「介護士拳」
わたしたちは戦いの場として裏庭へと通される。
花や木々なんてオシャレなものは一切なく、武骨な岩が並ぶ。
「赴きのある良い庭だな」
ユニは感心したように、本心から言っているようだけど、本気?
わたしにはちょっと良くわからない美意識ね。
「なかなか、見る目があるようだが、それと勝負は別問題だ」
ダヴは庭の中央を指し示すとそこだけ一段高く土が盛られ、リングを形成している。
ユニは一礼してからそのリングへと上がった。
「ルールは?」
「んなもん、実践と同じ、何でもありだ。降参・気絶で勝負あり」
「オーケー。理解した」
ダヴさんは大斧を持ち、真剣勝負に挑む為か眉をひそめながらリングに上がる。
外見の屈強さもさることながら武器も見るからに重く強力そうね。
それに対してユニはいったいどんな戦法をとるのかしら? 勇者だしやっぱり獲物は剣かしら? そう思っているとユニはなぜかエプロンを装着する。
「ちょっ!! なんでエプロン!? それただの布よ。防具にすらならないのよ!!」
「俺は戦いに来た訳じゃない。介護をしに来たんだ。相手を傷つけることなんてするわけがないだろ? 転生前は介護に武力は必要だなかったけれど、郷に入っては郷に従えと言うしな。勇者と介護士、その2つが融合して生まれた介護士拳を見せてやるよ」
介護士拳? いったいどんな武術なのよ?
固唾を飲んで見守る中、2人の勝負が開始された。
「うおおおっ!!」
ユニに向かって大斧が振り下ろされると、
「ソッキン!!」
ユニが叫ぶと共にダヴさんの背後に回り込む。
は、早いっ!! あの動きは東方の国に伝わるとされる瞬歩に似ているわ。
「この技は、転倒しないように瞬時に腰を支えるための動きを取り入れた回り込みの技。転倒防止にその斧はちょうど良い杖になりそうだな」
「このっ!!」
ダヴさんは斧を離し、ユニに向かって振り向きざまに拳を振るうが、なんだかその動きは鈍い。どこかケガでもしているのかしら?
案の定、ユニには避けられ――。
「杖から手を離すのは感心しないな。大人しく横になっていた方が良い。イジョー!!」
懐に入り込むと、相手の力と自分の力を合わせて、そのまま地面へと寝かせる。
こ、これは相手の力を使ったアイキかジュージュツと言う技ね! 修練に膨大な時間を使うと聞いたことがあるけれど、それを使いこなすなんて、さすが勇者ね!
「これは動けないヒトを椅子からベッドへ寝かせる動きを取り入れた投げ技だ」
ユニはダヴさんの頭を掴むと上体を上げさせ、
「ショッカイ!!」
斜め下から鋭い手刀が首元手前で止まる。
今のはわたしでも辛うじてしか見えなかったわ! 近接格闘術の中でも殺人術に長けているカ・ラテの貫き手に近いように見えたわね。
「これは食事を食べさせる動作から取り入れた突き技。まだ続けるか?」
「い、いや、降参だ。実力の差があり過ぎる。まさか、オレに一度もダメージを与えないで完封するなんてな。約束だ。煮るなり焼くなり好きにしろっ!」
「そうか、それなら、メリットさんは四天王だかを後任に任せて、リハビリをした方がいい。その左足は膝関節が悪いんだろう?」
「そんなことも分かるのか。介護士ってのは大したもんだな」
「段差や急激な動きのときに辛いのは膝関節変形症の疑いがあるな。完全に治すのは無理だが、少し良くする手伝いくらいはしてやれるはずだ。まぁ、家族の協力が必要だがな」
ユニは尋ねるようにミノンちゃんを見ると、ミノンちゃんはコクコクと頷いた。
「膝が痛いから、あまり動こうともしなかったのだろ? ミノンが心配していたぞ。それから、動かない時間が長かったようだな。足のむくみが酷い。これじゃあ、辛かっただろう。ここまでむくむのは、動くのが辛いやつくらいだ。何か足に異常があると思うのは自明だな。
まずはむくみから改善だな。足をマッサージして、それからついでに足を洗っていこう。結構今の戦いで汚れたし、何より日本家屋に上がる前には足を洗うもんだしな」
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