第12話「ダヴ=メリット」
わたしたちは少し歩いてから、ミノタウロスの街、『ビオレ』へたどり着いた。
ビオレはその名前の由来、『満ち足りた生活』の通り常に娯楽に溢れた街になっている。
街の中央には円形闘技場があり、日夜魔族たちが血をたぎらせ、カジノや賭場も盛んだ。さらに夜になると歓楽街は喧噪を増していく。
はじめてここを訪れた魔族は、まるで迷宮に迷い込んだように中々出て来れないとまで言われている。
正直、わたしはそこまで好きな街ではないけれど、魔族の観光産業の大きな市場であり、税収もかなり良いため、聖域扱いになっている部分もある。
そんな街に四天王の一人が居るのは当然の流れと言えた。
「おっ、ようやくケアラちゃん来たわね~」
街の入り口には転移を無事に行ったミノンちゃんが手を振って出迎えてくれた。
ミノンちゃんの顔パスでわたしたちはビオレの門をくぐる。
「でも、さすが、勇者ね。ケアラちゃんの転移で傷一つないなんて~。私たちミノタウロス族は強いオスって好きなのよね~」
じぃ~と舐め回すように見つめるミノンちゃんとの間に割って入ると、話題を変える。
「で、ユニはミノンちゃんのお父さんになんて言えばいい訳?」
「んっ? あっ、そうそう、それなんだけど、やっぱりちゃんと動いて身の回りのことくらいやって欲しいのよねぇ。だいたいお父さんがそんなだと、私もおちおち嫁にも行けないじゃない」
えっ! えぇ!!
どういうこと、結婚する予定とかあるの?
わたし、聞いてないんだけどっ!!
「えっ、ミノンちゃん、結婚する予定とかあるの!?」
思わず聞くと、
「う~ん、どうかしら。私にぞっこんの彼がいるんだけど~。お父さんがこんな調子だし、人間との戦いもあるし。先行き不明って感じ?」
た、確かにミノンちゃんはグラマラスで美人さん。わたしなんかより9倍くらいモテる。むしろ今まで結婚話が出なかった方が不思議だ。
くっ、友達だから祝福してあげたいけれど。悔しさの方が強いっ!!
わたしなんて、仕事一筋で結婚相手どころか彼氏すら出来たことないっていうのにっ!!
いや、いいのよ。別に。仕事が恋人みたいなものだし、それくらいで頑張らなきゃ側近なんて地位にはなれなかっただろうし。魔王さまは認めてくれているし、そりゃあ、それはそれで幸せよ。女の幸せは結婚だけじゃないっていうのは周知の事実だし。でもでも、甘いロマンスを期待したっていいじゃない、女の子なんだし。
身近にいる男といえば、料理長かユニくらいかな。魔王さまは流石にないけど。いやいや、そういう問題じゃねぇ!! 切り替えるのよケアラ! 側近になったときにミノンちゃんは祝ってくれたし、わたしもここは割り切って祝うわ。うん、そうしましょう!! 他人の幸せを恨んではダメよ!! 幸せは分かち合うもの!! 魔族皆兄弟の精神よ!
「おい、なんか、めちゃくちゃごちゃごちゃ考えてないか?」
「へっ!? ちょっと、なんで分かったのよ!! 読唇術的なスキル持ち!?」
いまの考えが見られていたらマズイ!! 最悪、この勇者の頭を殴って記憶を消去するしか。
「いや、完全に心ここにあらずだっただけだが」
「そ、そう。心が読めるわけじゃないのね。安心したわ」
「ところで」と言ってユニはわたしに耳打ちしてくる。
ひゃっ! と声を上げそうになるのを抑え、ユニの言葉に神経を向ける。
「俺には牛頭のミノタウロスは魅力的に映らないんだが、魔族の世界ではモテるのか?」
あ~、確かに人間とは美の基準が違うかもしれないわね。
「ええ。人間の基準だとそうでもないかもしれないけど。魔族基準なら超絶美人よ」
「なるほど。そんなもんか……」
ユニは少し複雑そうな表情を見せながらも納得した様子だった。
「あっ、2人とも着いたわよ~」
無駄話をしている間にどうやら目的地であるミノンちゃんの家へと到着。
「……なんで、異世界に純日本家屋があるんだ?」
「へぇ、ユニのところにもこういう家あったんだ。これはミノタウロスが好んで建てるタイプの家よ。ところどころに色んな仕掛けがあって家人以外は十中八九迷うと言われているわ」
ここまで大きい家はそうそうないけれどね。
「あ~、そう言えば、ミノタウロスって迷宮が好きなんだったか。だからと言って、ニンジャ屋敷みたいにしなくても」
ニンジャ? またよくわからない言葉を使うけれど、説明する様子もないから介護には関係ないのね。
「そうね。昔はダンジョンで暮らしていたらしいから、ヒトが迷う構造の家が好きみたいね」
わたしたちはミノンちゃんの後ろにぴったりとついて行く。
しばらくすると大広間に出る。
「父さん、いま帰ったよ」
「おうおう、この不良娘が。どこ行ってやがった」
ドスの聞いた声。
その声の主は広間の奥にドカッと座ったミノタウロス。
体のあちこちに傷跡があり、歴戦の勇だと一目でわかる。
「ちゃんと連絡したじゃないの~。ケアラちゃんのところよ。ほら、ケアラちゃんもいるんだからしっかり座ってよ。もう」
「おう、ケアラちゃん、久しぶりだなぁ。いつも娘が世話になってるぜ」
「いえいえ、こちらこそ、いつもお世話になってます」
わたしは深々と礼をする。
いつもと変わらぬ姿に、本当に足とか痛いのかなと疑問に思う。
なんだったら足は昔よりも太くなったようにさえ思えるわね。
「で、そっちは?」
ユニのことを示しているのだろう。この中で唯一の初見だし。
「俺は一介の介護士、ユニって言います。えっと、確か四天王のミノタウロスといえば、ダヴ=メリットさんでしたね」
「ああ、オレがそのダヴだ」
「失礼ですが、メリットさんは戦線を離れるべきです。最低でも医師に診てもらうべきですよ。そもそも、その足では歩くのも難しいでしょう?」
いやいや、ユニ、知らないとはいえ、それは失礼すぎるでしょ!
戦いが生きがいみたいなダヴさんにそんなこと言うなんて。
「あぁん。オレが戦えないだと? ふざけるなよ」
ダヴさんはユニを睨みつけるが、全くたじろぐ様子も見せない。
「ふんっ、その度胸だけは認めてやる。だがな、オレたちミノタウロス族に言う事を聞かせたかったら力を示すことだ!」
「わかりました。お相手いたします」
ユニは神妙に頷いたのだった。
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