とある町の小学生

「れん! 今日も行くぞ!」

 ひろくんが、ぼくのランドセルをたたいて言った。ぼくはしかたなく「うん」て、へんじする。

 さいきん、ひろくんとぼくは、毎日池に行く。メダカやザリガニつりじゃなく、さがしているのはメダマちゃん。




 メダマちゃんは、ヨーチューバーのターノって人が、池でぐうぜんつかまえたなぞの生き物で、丸くて目玉みたいだから、メダマちゃんて名前にしたらしい。

 ぼくは、その動画を見たことはないけど、新しいはいしんがあると、ひろくんは、かならずその話をする。話だけ聞いてると、気持ち悪くてぜんぜんおもしろくないのに、ひろくんは、いつもおもしろそうに話す。

「すげーこわかったんだぜ! だんだんターノがおかしくなってさ、さい後のはいしんは、おかしくなったターノが、水そうにかぶせてたぬのを、カメラにかぶせちまったから音だけになったけど、なんか、あらそったような音と悲鳴がして、少ししてから、はいしんが切られたんだ。ターノのメダマちゃん動画、全部消されて、ネットじゃターノは、メダマちゃんに食われたんじゃないかって、大さわぎだ!」

 ひろくんは、自分で見たように話すけど、きっと、ひろくんのお兄さんに聞いた話を、ぼくにしてると思う。


 だって、本当に自分で見てたなら、メダマちゃんをさがそうなんて、言うわけないと思うから。




「れん。メダマちゃんいるか?」

「いない」

 ぼくは、池の中をさがしながら言った。池には、虫や魚がたくさんいるけど、目玉みたいなお化けはいない。いなくてほっとする。

「あ、メダカ」

「なに? どこだ?」

 ひろくんは、あきっぽい。メダマちゃんが見つからなかったら、すぐにべつの生き物にきょうみがうつる。今日は、メダカのむれを見つけたから、メダカとりになった。

 ひろくんは、あみをのばしてメダカをつかまえようとしたけど、しっぱいした。かわりに、てきとうなえだで、ザリガニつりをした。さいきん毎日、ザリガニをつっている。今日は、3びきしかつれなかった。

「ほらよ。ちゃんと、持って帰れよ」

「うん」

 ひろくんは、何をつっても、ぜったいに持って帰らない。お母さんが、ダメって言うらしい。だから、メダマちゃんさがしのついでにつった魚やザリガニは、全部、ぼくが持って帰ることになる。

「カメ、元気か?」

「うん。元気だよ」

 カメは、先週この池でつかまえた。ぼくの家には、今は何もかっていない小さな池があるから、かえってひろくんに言われて、仕方なくかってる。

 ないしょでカメを池に入れたけど、お母さんにはまだ見つかってない。池はあんまりきれいじゃないし、カメが、池のそこにかくれてるからだと思う。




「でもね、すごい大食らいで、すぐ、おなかすかすんだ」

 池でつれた小魚やザリガニも、全部池に入れている。カメは、ザリガニより少し大きいくらいだったのに、小魚もザリガニもみんな食べちゃうみたいで、1ぴきも泳いでるのを見たことがない。

 それでもたりないと『ハラヘッタ ハラヘッタ』て、言ってくる。


 ひろくんと、ならんで歩いていると、『ハラヘッタ』て声が聞こえてきた。もう、おなかをすかせたみたいだ。

「ひろくん。カメ、見においでよ」

 ひろくんの手を引っぱると、ひろくんはすごくおどろいて、何か言った。だけど『ハラヘッタ』て声が大きすぎて、よく聞こえない。


 きのうの夜も、『ハラヘッタ』て声がうるさかった。

 うるさくてねむれないから、こっそりエサをやろうと庭に出たら、池をのぞいていたネコが、おどろいて池に落ちちゃった。

 しばらくバシャバシャしてたネコは、池にしずんでしずかになった。『ハラヘッタ』て声も、止まった。

 カメが、自分より大きいネコを食べたんだと分かってびっくりしたけど、うるさくなくなって、ほっとした。




「……! ……!!」

 ひろくんが、おこって何か言っているけど、それどころじゃない。声がうるさすぎて、頭がガンガンする。

「うるさいな! すぐ帰るって! すぐ持って帰るから、待ってろ!」

 ぼくは、ひろくんをつかむ手に力をこめ、急いで家に帰った。

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メダマちゃん OKAKI @OKAKI_11

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