第41話
後で聞くと血圧測定器の様な機器はカードリーダーという魔道具で各ギルドに必ずある代物なのだそうだ。冒険者はカードリーダーに登録して冒険者カードを発行する。職業として冒険者をするには必ず通る通過儀礼だとか。
ただ、冒険者登録でカードが作成されるには少し時間がかかる。
絶対に冒険者カード持っているはずのない、一才未満児がカードを出したら、おかしいのだ。
既に登録済みの冒険者であると言うことになる。
さらに、重ねて記入されており文字が読みにくいとの事だ。元々、記入してあったカードに新規に印刷されてしまっている様な状態で冒険者カードとして機能しているか疑わしい、再発行には手続き上数日はかかるんだって。
俺はそのカードが初見ではない。どこかで見たとかそう言うのではなくて、生まれ変わる前の日々の生活の中、アパートに送りつけられたトールからの配送品の段ボール箱に入っていた黒いカードの報奨品がこれだと思う。
今までずっと俺の中にあったらしい。
ミーティスが身体で視界を遮ぎろうと立ち位置を動いてくれたが、ギルド内を少ないとは言え冒険者が待ち合わせをしている上に、他の二人の受付嬢からバッチリ見えてしまった。
「あー、これこれ。どこにいっちゃったんだろうなっておもっていたんだよね」
俺が中空に浮き上がるカードに触れるとパッと消えた。
「あれ」
ミーティスがじっと言葉を発する事なく身構えている。
「これは…」
受付嬢のオリビアさんが元々の冷ややかな視線で観察する様に俺を見ている。いや、現在進行形でね。
「冒険者カードの再提示を要請いたします。カードは取得していない限り所持する事はありません。どちらで発行されましたか」
「かいてないの?」
これこれ、いつもの懐疑的なオリビアさんの目。
「かーどどこ?」
「冒険者カードは装置で読み取り可能な様に取り出せますが、触れると肉体に取り込まれます」
俺の場合はこの世界に無理矢理連れて来られた時に埋め込まれていたと言うことか。
この年齢で冒険者ギルドカードを所持していたら奇異の目で見られても仕方ない。だが、無駄に慌てたら、それこそなにか隠し事をしていると勘繰られるのが関の山だ。
俺は一つ大きく息を吸う。
「そうか」
ギルドの奥や待ち合い所に座る冒険者達がざわついている。
それだけだったら親が手配してよその冒険者ギルドでカード登録したのだろうですんだかも知れない。ただ、俺は果樹園成功者としてカーライルでは有名に成りつつある。おかしなところがあれば、直ぐに都市の噂になる。
俺は落ち着いた様子を心がけ、言われた通りに冒険者カードを取り出すべくカードリーダーに手を伸ばし、現れたカードを眺める。
そこに、新しく現れた白銀色の金属質のカードが虹色の輝きを放った。
これは不味い。
瞬時に閃くのはカーミングダウンの詠唱。
月の光が木陰で踊る、安らぎと静寂のワルツ、ムーンライト。
鎮静効果を持つ闇魔法第二の【カーミングダウン】を闇に紛れるほど隠密に、そして即座に発動する。
時間経過を極限まで遅延させる【タイムストップ】を発動して周囲を見渡す。
どうする。
ミーティスのカードは神聖な輝きをまとって中空に
擬似的な指パッチンの音がギルド内に響く。
書類を仕上げていた者は頭を振り仕事に戻り、ギルドに屯して杯を煽りながら仲間を待っていた者も自分が今何かをしようとしたと言うことだけ覚えてはいたが、その手は杯に半分残っているエールを飲み干した。
前からミーティスのカードは白く輝いているし、俺がカードを前から持ってるのも当たり前の事だと冒険者ギルドの皆の記憶は優しく
だが、【タイムストップ】中に指一つ動かすことが出来なかった俺は自分の力不足を実感すると共に改善していこうと誓うのだった。
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