第39話

フォングリには辟易へきえきしたが、今朝も砕いて粉にしたものを少し口にした。考えを変えピーナッツだと思えば良いじゃないか。ピーナッツアレルギーは聞いたことある。この世界では少しづつでも口にすれば、毒耐性が上がり無害になるはずだ。お砂糖で甘めにしてくれたら案外食べやすい可能性もある…


そして今、目の前にあるのはバン。

フォングリは入ってないやつだ。


懐疑的に思いつつも、少しは期待して食べてみた。


ボソボソの食感に淡泊な味わい。口の中の水分を全て持っていく。

スープと共にしょくすスタイルが定着するわけだ。

パン屋を呼び出して怒鳴り付けたいほどの出来。これは、もしパン屋にあったら言いたいことが山ほどあるぞ。


発見としてはフォングリ入りが刺激的だとしてもその油分が口当たりをなめらかにして、香りと食感を高めていたのだ。


まぁ、俺のしょくへのこだわりをつらつらと語っても仕方ない。


それがきっかけではあるのだが美味しい食事を探すために、お馴染みスフィア型の単眼ゴーレムを四方に放った。

とりあえず、スフィア一つ一つには自衛のために魔法のシールドを張ってある。モンスターに壊されると造り直すのに手間がかかるからね。


モンスターは索敵に引っかかるが、暴走に発展しそうだった南西は鎮静化し南はランドルフ一行で対処出来ている。


特に周囲で問題は発生していない。


だが、美味しそうなものは特に見つからなかった。

スフィアの一つが映し出したのはカーライルの一流レストラン。会食する紳士と淑女、そして上品に食しているのはフォングリバンと芋のスープ。確かにレストランで出されるサラダは瑞々しく新鮮に見えるし、美しく飾られた皿はシェフの遊び心が感じられる。


だが、フォングリバンかただのバンか、それが問題だと言わんばかりの食事情だ。


◇◇◇◇◇


嘆いていても仕方ない。

俺は気分を変える為にミーティスに駄々をねて外に連れていってもらう事にした。

ミーティスがきちんと母さまに許可をもらい俺は手を引かれ外に出る。道路脇にある側溝は郊外だけあって蓋をされてないので、足を踏み外したら水中で呼吸が出来ない限りは危険だ。


脚を上げ下げる、そしてまた片方の脚を上げ下げる。まだ、意識の片隅に動作のイメージを持っていないとスムーズに身体が動かせない。立ち上がりバランスをとるという単純な動作がこれほどに難しいとは。

そして、体重を移動して脚をを引き付け、俺は後ろを振り向いて理解した。とてもじゃないがこんなペースでは目的地には着かない。一つ一つの動作は力強く速くなっているが幼い身体がついてきていない。


「つ…」

ミーティスと繋いだ手に力が入ってしまった。


「旦那さま、大丈夫ですか」


「ん」

大丈夫じゃなかった。力は強く身体は出来ていない。


俺は身体を痛める前に魔法フライを己にかけた。通常、己にフライをかけた場合消費MPは三分で6ポイント、経過観測しなくてもすぐにMP切れが起きると思うだろう。だが、俺は魔法のかけ方を知っている、己にという部分を己の周りの空間にすれば消費MPは著しく低減する。


膝に負担がかかり痛める前に飛翔フライする事を思い付いて良かった。身体は子供でも意識が大人な弊害だろうか、柔軟な思考を心掛けよう。


カーライルの商業区へ向かうだけだ。俺は飛翔フライを用いて歩行を偽装する。手を引くミーティスにはバレバレだろうが、脚をスムーズに動かすには今しばらくの修練が必要な様だ。


商業区へ近づくと雑踏のざわめきがリズムを奏で耳に入ってくる。商店が建ち並び店先では売り子が客を呼び止め、商品を勧めている。

ちょうど、街の住民達が食品や生活雑貨を買いに出てきていた。

この時間帯はいつもこんなだったかと人混みを掻き分け進むミーティスと手を繋いだまま、先を進む彼女の背を追う。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る