第37話

トントントンと木槌で大地を叩く音が小気味良く聞こえてくる。

建物を建てる土地を一度掘り返して干した植物の繊維を混ぜ、土地に歪みのでないように工夫している様だ。

太めの木材を親方が立て、職人達が三人相談しながら細く割いた竹を組み合わせ軽くこしらえた足場を利用して深く打ち込んでいく。

しかし、どう考えても段取りを含め全ての効率が悪いのだ。


俺がのんびりと眺めているように思えるかも知らんが、今日の俺は超不機嫌だった。


こうした方が良い。ああした方が良いと改善案が幾つもある。


それだけじゃない。お母かあさまが俺はもうすぐ乳離れする時期だと言うのだ。


さらに、ミーティスは俺を置いて午前はランドルフ達のお守りで同行してしまっている。

しかし、俺が彼らの安否を気遣うものだから、彼女がお守りしているという状況なのに何故かイライラが募る。


ふぅ、俺は今一度穏やかな気持ちを保つよう努め、ミーティスが用意してくれた肘掛け椅子に座り隣の土地に家が建てられるのを眺めている。


俺は愛情に飢えていたのだろうか…。乳離れイコール母との繋がりの喪失と考えてしまった。

俺は母が好きだ。だが、このモヤモヤは何なのだろう。


柱は合計八本、三本の柱と柱の間に竹を編んだ柵を設け、粘土に灰と枯れ草を混ぜ練ったものを壁として塗り込んで高くされている。出入口の戸も木枠に同じような工程を経て粘土を塗り込み乾かせば出来上がり。

家の壁が完成に近付くにつれ、大きな窓が無いことに気づいた。外壁の上部、屋根を葺く辺りの壁に風を通すための装飾された穴が職人によって粘土が乾く前に空けられている。

その間に親方は天井の木組みを造り、屋根を支える木材を小刀でもって調整しながら嵌め、屋根を支える構造を完成させた。


たぶん、窓が無いのは外敵から身を守るためだろうか。しかし、あの飾りを施した天井付近の穴は暑い空気を排出するためのものなのだろう。屋内で火を使った場合換気口が無いと一酸化炭素中毒になるというが、あの穴は家というものを台無しにしている。俺はそう思う。だって、ある程度の大きさの虫が入ってきそうな大きさなので、あり得ない構造物だ。蛾や百足、蜂や蟻が簡単に出入りできそう。それに、あんなものが空いていたら冷房も効かない。


もしかしたら、高いところにあれば入ってくる害虫はいないのか。

いや、そんな事はない。



うん、見た目は立派な、それなりの平屋が建つ様だが…


ホントになんで壁に穴空けて虫が出入り出来る様にするんだろう。


我が家の壁にも探してみれば確かに同じものがあった。採光のためか換気か、虫の出入りする穴は塞いでしまいたくなる。


網を嵌めてしまえば良いだろうか。ミーティスが帰ってから聞いてみよう。


網戸、良いじゃないか。


◇◇◇◇◇◇◇


何かが違う。

毒々しい色をしたぷっくりと肥えたストロベリーモルファスと言う蜘蛛が例の装飾を施した換気口に今、ネットを張っている。


家の壁に空いた穴への俺の意見はミーティスに伝えるとミリアやマイアに賛同された。

だが、解決方法はお母さまが言うにはあるとの事で用意されたのが、毒々しい色をした蜘蛛だ。


確かにそうなのだ。こう見て見ればあの蜘蛛で良い気もする。だが、そうじゃないという感覚が半端はんぱ無い。


人の家に対して文句を言うのは、もう止めよう。見学出来たので良い学びになった。


また、ストロベリーモルファスという蜘蛛は苺ほどの小粒な蜘蛛だが、寿命が長く体長20センチを超える大きさになるとの話だ。


家にもいるのだろうかとキョロキョロ探してしまったが、家には見当たらない。その代わりにトカゲが壁を歩いていた。


◇ニズヘグ

0才

LV5

ドラゴン



え。

直角の壁に爪をたて難なく登っていく。


俺は自分の中の常識というのをぶち壊していかないといけないのかも知れない。














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