第34話

ミリアとミーティスの会話は神学に通じるものがあったため、神学者ではないマイア・ラムズフィールドには良くは理解出来なかった。


ただ、聞こえてしまったのだ。マリアの息子ジョンにはトールの香りがすると。

それは、救世連盟の司祭。聖女とも言われるミリアとミーティスと言う少女の話だった。だが、敬虔なトール信者であるマイアには特別な話に聞こえたのも事実。

司祭であるミリアがミーティスに最上位の礼儀をもってうやうやしく接している。さらに、マリアの庭の果樹は童話の挿し絵の様な立派な大木へと育ち、木の葉の間から優しい木洩れ日が踊る。


「…ジョン…トール…祝福…」

マイアの耳にミリアの言葉が木々の葉のささやく声と共に聞こえてきた音が残っていた。


◇ジョンはトールの祝福を受けている◇


何と言うことでしょう。

ジョンはトールの息子だったのです。

という盛大な勘違いへの一歩はここから始まるのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


翌日、マイア・ラムズフィールドの手でカーライル家の裏の空き地は買い取られ、今朝から大工が測量をし、建て物を建てる準備をしていた。


左隣は最初からラムズフィールド家の若夫婦の家であったが、左隣もラムズフィールド家に買い取られてしまい。今朝からこちらは解体している。建て直しを終わればマイアとその夫のベン・ラムズフィールドが引っ越して来る。


ミリアとオースティンもお金を持ち寄って一軒家を借りるかして、近場に引っ越して来ようと計画していたらしいが、マイアの方が一足早かった。


隣家に住んでいたアリオン爺さんはぎっしりと金貨の詰まっているとおぼしき皮袋を胸に抱えて満面に笑みを浮かべ。手を振って、その日に出て行ってしまった。


カーライルの中心部から外れた郊外の土地を購入するのは安価であるはずだ。


次の左隣の家の主はベン・ラムズフィールド。俺の中では宰相を輩出した家系だというのと隣家の息子との不和を聞き知っていたので、もっとこうなんていうか厳しいイメージがあったんだけど、完全にマイアさんに尻に敷かれている気がする。マイアさんの言いなりにうちのお隣さんになるらしい。


城塞都市カーライルの郊外は総囲いの内部とは言え市街地より安全ではない。マイアほどの大店の女将さんが市街地から郊外に引っ越して来るのは理解に苦しむし、旦那のベンも本当に何を考えているのやら。普通は安全が金で買えるなら払うだろう。この世界で城塞都市の市街地に住むのと、郊外に住むのとでは安全性に隔絶した差があるのだ。


単に息子さん夫婦と一緒に暮らしたいけど、謝るのは嫌だという事なのか。


そもそもが息子夫婦が親に頼らず己の収入で郊外に住居を構え、郊外に住み始めたのが喧嘩の始まりなんだったかな。



まぁ、マイアさんは今日の午後もうちでシャーロットちゃんをあやしながら四人で寛ぐ。


ランドルフ、ミリア、オースティンとマイアさんは今日もうちで南の蛭退治の報告をギルドへしている。そう、午後になると冒険者ギルドから女性職員が派遣されて来るのだ。

流石はカーライル一の冒険者達なのだろう。


その他大勢の冒険者は東のちょっとした林の点在する草原でボアという野生の豚か猪の様なモンスターの狩猟をこなしている。食肉を得られ討伐証明部位をギルドへ持ち込めば僅かながらでも討伐報奨が獲得できる。


蛭退治は人気が無い。だが、冒険者ギルドが推奨しているのは危機管理に繋がる行いだ。あのまま、増殖して行けば大変危険なのは誰にでもわかる。しかし、蛭は食肉にはなら無い上に危険なモンスターであり、生息地の地形も湿地で気を付けないと大地に空いた穴へ落ち。滑り泥濘ぬかるみに嵌まる。蛭の分泌する麻痺性の毒というのも恐怖に拍車をかけ冒険者を寄せ付けない。


そうだな、南西部の死の大森林に次ぐ、不人気ぶりらしい。


こう言うことがわかったのは、うちに冒険者ギルドから職員が来てくれているから自然と耳には入って来たんだ。盗み聞きじゃないよ。


南西の森のカーライルから三十キロほどの所はゴーレムであるスフィアで防衛線である保塁を築きカーライルへ押し寄せるゾンビごと焼き払ってしまったので植林を考えていた。現在は発見した遺跡の地を中心にうちの庭から世界樹の苗木を移植し果樹園でもつくろうかと思っていたんだけど、そんなに恐ろしい所だとはね。

よし、ゾンビロードとかそんなのが出て来ても対処できる様に警備面でも強化するべきだな。












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