第32話

マイア・ラムズフィールドは痛む脚を引きずりマリアの家の庭まで帰ってきた。

若い三人に最後は肩を借り、ほうほうの体での帰還だ。

強がっているが相当に痛むのだろう。


そんなマイアを見てシャーロットがキャッキャとはしゃぐ。


シャーロットはお婆ちゃんが帰って来たと、きちんと認識しているようだ。


お婆ちゃんとは言っても容姿は八頭身のモデル顔負けで、肌も髪色も艶々している。

そんなマイアが膝をつく。


「怪我をされたのですか」

マイアの様子を見てミーティスがミリアを一瞥いちべつする。回復役の司祭が居てどうなっていると言う視線だ。

ミリアが首を振る。


「ミリアさんが悪いんじゃないんだよ。私は前から膝が悪くて、やっぱり若い子にはついていけないんだねぇ」


マイアが片膝をつき、左膝の皿の下辺りを苦痛に顔を歪め親指で揉んでいる。


ミーティスが慈母の様に微笑み。


「マイア、こちらへ」

五光の差しそうな所作で俺の元へとマイアさんを手招きする。


「旦那さま、何とかなりませんか」


"エキストラヒールとかその辺で治るんじゃない"


「作用ですか」

ミーティスの演技が臭い。

大根とは言わないけど…


ジョンが魔法を発動する。

何、無詠唱だと…

と遊びながら、そう誰も驚かない。

聖属性、光属性、火属性、水属性、金属性。

五属性が渦巻き膝に吸い込まれる。


"エキストラヒール"

と俺は両手をゲームのラスボスの大魔導師の様に広げた。


いやいや、もう魔法はかけ終わってます。こういうポージングをかっこいいからとやるのはちょっと恥ずかしいか。


ミーティスとミリアは顔を見合せる。それがエキストラヒールではないと瞬時にわかったからだ。


マイアが膝を見てる。


"もう、治ったんじゃないかなぁ"


「治療は終わりました」

ミーティスが代わりにマイアさんに告げる。


最初は魔法を感知して身構えていたが、子供達のちょっとした冗談とでも思ったのだろう。


「そうだよね。治るわけないよね」


マイアが膝をかばい立ち上がる。

「ん……あれ…」


「痛くない…」


しばらく、動きを止め確かめる様にゆっくりと動かす。


目を見張り。

そして、背筋を伸ばして立ち上がる。


「神父さまでも、治せなかったのに…」

何だか晴れやかな目で見つめれた。


おっと、まだ手を上げたままだった。


神父さまってあれですよね。全てヒールで解決しようとするあの教会の方。

私も一回かけてもらった事がありますよ。

金貨2枚もかかったし、ヒールしか使えないみたい。比較対象が酷いだけでこれはギリギリセーフでしょう。

俺は目立ってないはずだ。


マイアさんはカーライルで指折りの実力者だし、レベルも高いからね。

仲良くなっておいて損は無い。


「本当に痛くない」


マイアは大きな声をあげて、喜んでいる。

そりゃ、治したんだから痛くないだろう。


まぁ、確かに膝を痛めてると動く度に痛いとかで、わずらわしく嫌になるかも。



ミリアが小声でミーティスに声をかける。


「今のは何ですか…」


一時ミーティスが話しても良いものかと、言葉に詰まる。


「私も信じられないのだけど、五つの属性魔法をほんの少しづつ練って効果を高めた治癒魔法ね。とてもじゃないけど真似出来ないわ。レベル1からレベル2程度の属性魔法を混合して患部へ的確に浸透させてる」


「なっ」

驚きに息を飲むミリア。


「あの魔法、欠損部位の修復が可能かもしれないわね。慢性的な痛みを伴う膝痛は身体欠損と同義、身体の接続が切れてしまっているのよ。それに普通、魔力操作をあそこまで上手くは出来ない。悔しいけど私が同じ事をしようとしたら五属性を扱いきれずに爆散するわ」


「あの、魔法は普通発動しなければ、霧散するのではありませんか」


「どうも、そうじゃないみたいよ。初めてジョンに会った時、まだ形に成ってない九属性の魔法でお手玉してたわ。今となっては笑い話だけどね。」


魔法という体を成さない半解除状態でも、魔法はそこにあり続けるという事だ。


「それは、言葉も無いですね」
















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