第31話 巨乳病

俺はシャーロットのベビーカーを作成しながらスフィアから送られてくる映像を観ていた。


作成方法は魔法だ。錬金術で土から粘土を生み出し、庭の木材をブルーフレイムで炭素と酸素に分ける。

ベビーカーには振動を吸収するためにスプリングを備え、軽量で耐久性もある炭素でカーボングラファイトで作成していく。カーボン繊維はキズに弱いので、シリカかセラミックで補強を考えた。今回は材料がすぐ手に入る粘土を焼成しフレームを作り、カーボンでコーティングする。対腐食性は落ちるが金属や有機物も選択肢にあるはずだが、これというのが思いつかなかった。次、作ることがあれば考慮に入れることにしよう。日除けの幌を付ければ完成なのだが…


シャーロットにフライの魔法をかけ移動させる。


な、何だその顔は…泣くのか。

いや、何か喜んでるかも。


首が折れると不味いので、さっさとベビーカーに移動する。


シャーロットはニコニコして俺を見つめている。

超美麗なフランス人形みたいな赤ん坊だ。

俺がその美しさに息を飲んでいると、母さまがやって来て言った。


「あら、良い椅子ね。この娘も可哀想にね、こんなに醜いなんて。ジュニアに甲斐性があればもらってあげようかしら」


なんて言った。

醜い。

どこが。


「ジュニア、ダメよ。そんなにジロジロみたら」

母さまが憐憫れんびんの視線をシャーロットに送る。


"ミーティス、どうなっている"


俺の影が薄くのっぺりと伸びる。

影の中からすらりと左足が伸びたような錯覚と共に、滑るようにしなやかな白磁のような右手が肩に触れる。

「旦那さま、お呼びになりましたか」


どこからやって来た、こん畜生。心臓に悪いんだよ。


ふふふ

「以後、気を付けます」


"このシャーロットとやらは何故に醜いと言われているんだ"


「旦那さまにはお分かりになりませんか」


"わからんな"


「この娘は左目の下に黒子ほくろがあります。今はわかりませんが、さらに深刻なのは巨乳病です」


"くわしく"


「そもそも顔に黒子というのは本当に可哀想ですね。メラニンという色素沈着が原因…」


"あ~、そっちはいいや。もうひとつの方を頼む"


「巨乳病ですか、説明もなにも胸が大きくなり過ぎる病です。皮下脂肪や内臓脂肪として脂肪を貯蓄せずに、胸に集中して溜まり運動能力を物理的に阻害します。襲われた際に逃げ遅れたり、命を落とし易くなります」


"ん~、それでどのくらいまで大きくなるんだろう"


「お母さまを心配していらっしゃるのですか。大丈夫です。巨乳病は酷いとお母さまの三倍、四倍は膨れてしまいます」


"三倍、四倍だと…"


"そ、それは可哀想だな。魔法で治らないのか"


おっぱいが大きくなると聞いて鼻の下を伸ばし浮かれていたが、結構大変な病の様だ。


「何故かバッドステータスに分類されないので、状態異常回復で改善できず不治の病です」


確かに巨乳は元の世界だったら、女性達の憧れかもしれないしな。


"バッドステータスちっパイとか作ったら良いんじゃないかな"


「控え目な乳房というバッドステータスですか、バッドステータスによる治療法。そうですね、治療法として確立すれば画期的ですね」

ミーティスが考え込む。


とにかく、この世界の女性がスタイル抜群なのは身体バランスの均整がとれている個体が生存してきたからなのか。さらに美男美女ばかりだ。


これだけ美しいシャーロットという赤ちゃんが左目の下に黒子があるだけで醜いと言われるのはさすがに行き過ぎな気がする。


俺は右手の人差し指に魔法を集め、シャーロットの左目の下の黒子を触る。

黒子の除去、成功したと思う。

醜いと言われるよりずっと良いだろう。


◇◇◇


スフィアの映像ではシャーロットのお婆ちゃんのマイアが火属性の魔法で蛭を焼いている。それに加えランドルフの斬撃、オースティンの刺突、ミリアの風魔法と回復魔法。


マイアが加わり広範囲を攻撃出来るようになり安定性は格段に向上している。


炎の矢が狙いをあやまたず命中し、蛭が炎上する。


心配で観てたのだが、全く問題ない。強いて言えば左膝が悪いのか、痛めてる様だ。


後でエクストラヒールをかけて治療しておくか。

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