第30話 SIDE マイア・ラムズフィールド

マイアは賑やかな声が聞こえていたので産まれたばかりのシャーロットを抱いて、隣家のマリアを訪ねた。

そのとき、三人の冒険者がいた。

特に美形で整った顔をしたランドルフと呼ばれる男の熱い視線と、ミリアという女性の品定めをする目。

オースティンはマイアを見て、一瞬驚いた表情をしたが直ぐに無関心になる。マイアが町人にしては高位のレベル保持者であるのは、同レベルまで到達している彼ら三人はすぐに分かったのだ。


ジョンの母、マリアによって紹介される。


男爵家次男、ランドルフ・カーマインレッド・ボローデール


救世連盟司祭、ミリア・トールズハウス


侯爵家四男、オースティン・ホワイトドラゴン・ハウ


「よう、俺達と冒険にいかねーか」


「何言ってるのよ。こんなお婆ちゃんに」

クスクスと笑うマイア。


「あら、良いんじゃない。夫の同僚だったのよ」

マリアの言葉にもう一度、ランドルフと名乗った男を見直す。ボローデール家の次男らしい長男に何かあれば当主になる可能性もあるのに隣家でくつろいでいる。

救世連盟のミリアの名は聞いたことがある。孤児院出身の聖女と影で噂されている。

そして、ハウ侯爵家のオースティン。北方の狼と呼ばれる、あの大貴族の四男だろうか。いやいや、そうしたら四男とは言え男爵以上かも。たまさか、大貴族の当主をこのオースティンが継ぐ事さえ可能性としてはあるのだ。

「なぁ、ねぇさん。どうだい」

とランドルフがしつこく尋ねる。


「そうね、考えとくわ」

己の左膝をチラリとみる。

声をかけてくれているのは超絶美形の男爵家の次男。

聖女と名高い司祭に、大貴族の血縁と来れば将来的には大金が絡む事も考えられる。

計算高いと批判されるかもしれないが、ラムズフィールド家はそもそも帝国宰相を輩出した準貴族だったこともある。

準貴族は貴族と言っても一代限りなので子孫は代々商人を生業としていた。

才もそれなりにある旦那に嫁いだとは言え、ラムズフィールド商会を切り盛りしていたのはマイアだ。城塞都市カーライルでは知らぬものがない。

しかし、最近は膝を痛め息子夫婦と旦那の仲裁ぐらいか…


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


結局、マイアは押しの強いランドルフに誘われるまま冒険とやらについて行くことになったのだが。


皮の鎧を着込み。

油を塗ったブーツを履き。

面頬めんぼおのある皮の帽子を被り。

ラムズフィールド商会作成の冒険者装備一式だ。


魔法使いには見えない。


湿原の入口で四人は立ち止まった。

今回の獲物はひる

前回と同じてつは踏まない。


湿原の入口で待機し、寄って来るのを待つ。

誘き寄せられた蛭は次々に倒される。


「マイア、スゲーな」

輝くランドルフの笑顔。それだけじゃない。ミリアさんもオースティンさんも私を誉めてくれる。


彼らとは曰くのある南部の湿原。大きいのと、すばしっこい小さいのがいたけど蛭を焼き払った。


「膝が良くないから…」

マイアは左膝に手を添えつぶやく。


「俺達もついこの間、酷い目にあってね。最初からそんなに深くまでは行かないようにしてるから大丈夫だ」


「そうなの?」


オースティンがうなずく。ミリアもそうなのよと同意していた。


でも、もしかしたら…

ほんのちょっと私が若くて彼らと出会うのが早かったら違う人生があったかしら。


もしもを考えても仕方ない。


あの、マリアの素敵な庭に帰ろう。

木漏れ日の下の笑顔あふれる庭へ。


初孫のシャーロットも待っている。

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