第29話
ミックスジュース、ネクタールLV2を口に含んだシャーロットちゃんは良い笑顔。
俺の耳にはシャーロットが様々なスキルを取得する効果音の幻聴が聞こえた。
"ミーティス、あれを。あれを俺に持ってこい"
「旦那さま、どうされました」
ミーティスは鑑定のスキルは持っていない。
"オースティンの作ったミックスジュースが欲しい"
「旦那さまの分は、私が作って差し上げます」
"違う違う、そうじゃない。オースティンがネクタールLV2を作った"
「ネクタールLV2とは」
可愛らしく首を捻る。
"ミックスジュースの事だ"
ミーティスがオースティンをきっと
「オースティン。こちらにミックスジュースをお持ちなさい」
オースティンの背中を冷たい汗が滴り落ちる。彼の
彼にとってミーティスは絶対的な上位者。絶対者。王者。火焔を吐く寸前の古龍とでも映っているのだろう。
オースティンは再び話しかけられる前に動き。ミーティスがにっこりと笑みを作る。再度話しかけられるという愚を犯せない。
オースティンは簡潔に「はい」と答え。
俺の前にひざまづき、王の御前であるかの様に面を上げずに
もちろん、その杯を直接渡せば首が胴とサヨナラするとでも考えているようだ。
ミリアとランドルフが羨まし気にオースティンを観ているが、当人はそれほど喜んではいない。
ミーティスが受け取り、杯を覗き込む。
「よろしい」
その、ミックスジュースには鑑定でネクタールLV2の吹き出しが表示されている。
木製の杯に満たされたネクタールLV2は果実を混合したとろりとした液体でネクタールLV1と見た目は変わっていない。まぁ、その使用される果実が〈黄金の林檎〉と呼ばれる世界樹の実であるわけだ。世界樹の実は全部で11種類ありすべての果汁を混合してネクタールは作られる。
人物鑑定のスキルを所持していないが、オースティンが偶然にネクタールLV2を作ったとは考えられない。なので、スキル持ちか特殊な技能を修得しているのだろう。
ミーティスが杯に口をつけ、さくらんぼの様なぷりっとした唇を舐める。
「旦那さま、どうぞ」
そう言うことをされると俺としては微妙な気持ちになる。毒味でございますと真っ直ぐな視線が返って来るのだろうけど、人の飲んだものを飲まなきゃいけないという、この理不尽。間接キスだとかって喜べるほど能天気でもない俺が間違っているのだろうか。飲み回しに生理的嫌悪感を抱いてしまう。これは、日本人である俺たちに共通だろう。
「うむ」
だがここでその様な躊躇を見せるわけには行かないのだ、俺は赤ん坊だからな。それも飛びきり良い子だと評判なのだ。この世間的な評価は相対的であり変動していく。そうだ、新星のライバル8ヶ月年下のシャーロットちゃんにベスト赤ちゃんの座を譲るわけにはいかない。
俺はミーティスが杯を傾けるのに併せてネクタールを飲み込む。
心の中に溜まっていた
すべてのステータスが更新され新しい自分が生まれる。
息を整え再び目蓋を開いた時に、世界が変わった。
スキル:マルチタスク
スキル:遠隔操作
スキル:四則演算
…を修得しました。
この、ネクタールは全ステータスを向上させる効果を持つ。さらにネクタールLV2はそれに加えてレベルアップ時スキルボーナスを追加するようだ。人物鑑定は取得出来なかったがマルチタスクを得られれば取り合えずは十分。
しかし、俺は今まで四則演算も出来なかったのか、それともスキルとして今得ただけなのか知らんが、恥ずかしい。四則演算とは足し算・引き算・掛け算・割り算のことだ。
「あんが…と」
俺は礼を言った。
オースティンが感極まった様に顔をくしゃっと歪め。
ミーティスもはっとした様に俺を見る。
「オースティンさん。明日も来てくださいね」
ミーティスがオースティンへ優しく声をかける。
「ありがとうございます」
オースティンが背を向けずに、数歩下がる。庭の段差でもよろけずにバランスを取ると天を見上げ、ゆっくりと視線を戻した。
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