第28話

「まだまだ、ありますからどうぞ召し上がって」

母が太陽の様に優しい笑みで飲み物のミックスジュース、ネクタールLV1を振る舞う。

ランドルフ、ミリアとオースティンが遠慮なく二杯目を手に取る。

二杯目となると俺も穏やかではいられない。マジで貴重なんだからね。


「いやぁ~、死ぬほど喉が渇いてたんだよ」

ランドルフがゴクゴクとネクタールを一気に飲み干す。


本当に死にそうだったヤツにしては言葉が軽いな。

ミリアさんは静かに両手でカップをつかみ、ゆっくりと飲んでいる。

良く味わってくれたまえ。


オースティン、コイツはまた渋い顔で飲み始めたのは良いが…案の定、言いました。

「不味い、もう一杯」

不味いなら飲むなよ本当に。俺のだから。

もう、帰れ。


ランドルフ達三人は暫く我が家に滞在していたが、思い出したようにギルドへ向かった。


ふぅ、もう来るなよーと安堵している時がありました。


◇◇◇◇◇


木製のガラガラを片手に猫なで声を出すランドルフ。

「あばばばば、ランドルフおにいちゃんですよ~」

やめろ、ウザい。

赤ん坊に絶対零度の塩対応をされるランドルフ。


そこに得意気な顔をしたミーティスが母さまの母乳を溜めた哺乳瓶を手にやって来る。

「ランドルフさん、嫌がっているではありませんか。やはり、私の出番ですね」


艶やかな黒髪は肩の辺りで纏まり、瞳は闇夜を映したかの如く輝き。落ち着いた雰囲気は静かな湖畔を想わせる可憐な少女が赤ん坊を慈しむ所作の一つ一つに美しさを内包する。


「さぁ、旦那さま。たんと御上がりなさい」

哺乳瓶が俺にあてがわれる。数日前に天井をぶち壊したのが嘘の様な滑らかな動き。


ミリアがため息をついて、その優美さに感嘆している。


オースティンもいますよ。先ほどまで世界樹の実を収穫していて、今はネクタールを母さまと一緒に作っています。


「しっかし、ここが隊長の家だとはな。ビックリしたぜ。縁ってのはマジであるのかもな」

「確かにそうかもね。でも、手懸かりは無いかとこっちまで来たんだから…」

ミリアは頷きながらも、全てを縁で片付けようとするランドルフに同調はしない。

「ジョン隊長、幸せ言ってた。赤ちゃん出来て嬉しい」

オースティンは愉しげだ。


「大きくなったら魔法を教えて、剣を鍛えてやるって言ってたのにな」

ランドルフが寂しく笑う。


そう、彼ら三人は王家親衛隊。いや、元王家親衛隊と言うべきか。王家親衛隊は東西南北と四隊あり、そのうち西面のジョン・B・カーライル隊長率いた第二隊の隊士だったそうだ。ジョンは実力ある人物を招聘しょうへいしていたのだが、次期隊長は家名や財力のある隊士を募り、家格の低い男爵家の二男、孤児院出身の正に実力のみで地位を得た司祭や王家に従わない侯爵家の四男などの肩を叩き、隊から追い出したそうだ。まぁ、それはそれで見方によっては王家の安全を高める可能性はあるだろう。

放り出された三人は冒険者をしながらカーライルへ流れて来たわけだ。


◇◇◇


「こんにちは」


ラムズフィールドさん家のマイアおばあちゃんが赤ん坊を抱いてやって来た。

先日、隣家のラムズフィールドさん宅で産まれたシャーロットちゃんを抱いている。


マイア・ラムズフィールド

38才

LV14

魔術師


シャーロット・ラムズフィールド

0才

LV1

赤ちゃん


マイアさんが入ってくると、にわかに空気が緊張する。三人の様子が変わったのだ。ただ、シャーロットは両手を広げて満面の笑み。きゃっきゃしながら腕の中でもぞもぞしている。


「あら、マイアさんどうしたの。シャーロットちゃん、こんにちは」

母さまがオースティンとミックスジュースを作る手を止めてマイラさんを手招きする。


「さぁさ、いらっしゃい。今ジュース作ってるから飲んでいきなさいよ」

早速、カップにはネクタールが並々と注がれる。

シャーロットがマイアに分けてもらい口にしたそれはネクタールLV2であった。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る