第26話 引き続きカーライル南部の湖沼地帯 蛭&蛙 出没注意
先ほどまで降っていた雨がぴたりと止み、肌を焼く陽射しが照りつけ大地を焦がす。南方の湿地が牙を剥くのは中天に太陽が昇る時間帯だ。午前の雨が空気中にねっとりと残り、水中で呼吸をする様な感覚。身体中の毛穴から汗が吹き出す。
ランドルフの左足が小型の蛭を踏み、大剣がで
「ミリア、あちーからヒールかけてくれ。頼むよなぁ、死にそうだよ」
「死んだらヒールかけてあげるから、その時声をかけて」
冷静な声とは裏腹に、ミリアは杖を前に構え完全に腰が引けてしまっている。歩く速度を落とさずについて行くのがやっとだ。
度々、ミリアはヒールを自分の右足にかけている。しかし、革のブーツで見えないが右足は水分を含んで脹れ、皮膚が擦れて裂けて痛むのを繰り返している。
オースティンの鎧に沼の水が跳ねると鎧についた水が音をたてて蒸発する。触ったら火傷をする熱さになってしまっているのだ。想像するに肩や背の皮膚が鎧の内側の革を貼っていない部分に貼り付き血が滲んでいる。
腹を蛭に吸い付かれた牛蛙が仰向けで転がっていた。
前衛はオースティン、中衛にミリア、後衛にランドルフ。身体の重いオースティンが湿地で前衛を務めるのは水没の危険があるが、湿地から逃げ帰るにはランドルフが後衛に回る必要がある。
ランドルフの絶妙な大剣の軌道が光を放ち一閃、後方から飛沫を上げ飛びかかる小型の蛭を凪払う。
道なき道を切り開くのはオースティンの槍とミリアの風魔法だ。待ち伏せて奇襲をかけてくる多数の大型の蛭を縫う様に抜けながら、倒して行く。
「おい、ミリア。咬まれんじゃねーぞ」
「わかってるわよ」
と怒気を含んだ返事がかえる。互いを見る余裕が無いのだ。
目を奪われるほど美しい湿地の景色を、飛沫を上げて迫りくる禍々しい蛭の群れを退けながら駆け抜ける。
この蛭の恐いところは唾液に血液をサラサラにする成分を含み。さらには鎮痛、鎮静の効果のある麻痺を分泌するため、吸い付かれたのに気付かなければ本人も知らぬうちに出血死する。また、人の放射する赤外線である熱と、呼吸で排出する二酸化炭素に反応し集まってくる。
後、もう少しで湿地から抜け出せる。
オースティンが襲って来た蛭を突き刺し捻り一歩踏み出すと、しっかりとした大地の反発があった。
「もう少しだ」
オースティンが振り返る。
「進め、進め、振り返るな。行け」
ランドルフの声、そして必死に走るミリア。
オースティンには土石流か津波が真後ろまで迫っている様に見えた。
「来い、ランドルフ」
間に合わない。
明らかにランドルフは死ぬ。
ミリアが恐怖にひきつった顔でランドルフを見る。
ランドルフが走りながら後方を切り裂く。
「ミリア、ヒールかけてくれよ」
それが最後の言葉になるはずだった。
上空より黒く光沢のある髪の女が現れた。
「主人の命により助勢いたします」
右手を蛭の大群に差し伸べ、
幾筋もの熱線が蛭を焼いた。
ランドルフにはインビジブルアーマーがかけられ早速、蛭のギザギザのアギトを寄せ付けない。
三人はミーティスに助けられ湿地を抜けた。
牛蛙、ブルフロッグの三体の討伐は成功した。討伐部位は得られていないが蛭、リーチは数えられないほど倒したはずだ。だが、討伐部位の切り取りなどしていたら生きてはいなかった。
危うく
世界樹の木洩れ日の下、俺はミーティスにお願いして三人の冒険者を助けに行ってもらった。
俺は安堵する。スフィアで観ていないところで亡くなるのなら仕方ない。弱肉強食は世の習いだと見捨てることが、自然の摂理と語る人も居るかも知れない。
だが偽善と言われようと、出来るならば俺が人を救っても良いだろう。
ご褒美は添い寝を約束させられた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます