第24話

魔神ましんか…

魔神になって何かメリットがあるか、いやない。

"それに俺は魔神ではない"

こんな赤ん坊に魔神かと尋ねる時点で魔神がどんな存在かを知らないか…

"俺はその道を選択しなかった"

ミーティスが一息つく。

「そうですか、違うのならば良いのです。ですが旦那さま、さきほど御覧になっていたのは魔神語ではありませんか」

"あぁ、さっきのエメラルドの石板か。あれは12の秘蹟という錬金術の知識だ"

まぁ、魔神語で書かれていた。

「読めるのですか」

目を見開く。

読めるな。

ゲームのプレイヤーは魔神語を自動翻訳で読めていたから学んだことはない。

現在も自動翻訳されている。


"この世界で魔神は嫌われているのか"

ミーティスがやれやれと首を振る。

そんな事も知らないのという事なのだろうが、俺が知らない事などいくらでもある。

だが、ミーティスが俺に話してくれた話の冒頭部分だった様だ。

「魔神は善にも悪にもなれる存在です」

俺はミーティスにこの世界の歴史を最近学んでいたが肝心な事を聞き逃して居たらしい。

そう、こちらの世界の神話か何かだろうと聞き逃してしまった部分、創世の全知全能の神々の天地開闢の御業。善神達と悪神達の血で血を洗う凄惨な戦いの物語。そして、善神も大量の流血を強いられ多くの力を失い弱体化し、悪神と言われた神も同じに弱体化し遂に考えを改め善き神々と和解した。

その大戦で結局、9柱の大神以外はほとんどアストラル体も消えてしまったのだという。

その神達に力を貸していたのが魔神だ。

魔神が持つ次元を断ち切る力で切り刻まれ、神々は血を流し倒れた。

神の存在その物は精神体でこの現世うつしよに受肉をし存在していたがその肉体に次元を断ち切る刃に抗う力はなかった。神のその肉体は永続性や様々なギフトと呼ばれる特殊能力を所持していたのだが、大戦末期に肉体を保ち続けていた神は1人もいない。

そう、その永続性やギフトと呼ばれた特殊能力は未だに大地にあまねく存在し散いつしていると言うのだ。

この世に存在するモンスターやゾンビはその時の善神、悪神とそれらを補佐した魔神の血肉の浸透した大地が生み出す異形。

それは偉大な存在が受肉していた時の器の残滓ざんしなのだと、改めてミーティスに教えてもらった。


いにしえの大戦時、善神ミーティスは魔神ハニエルの率いる第三軍に所属したハフニエル、アリエル、カリエルら100名ほどと共に現在のカーライル付近で悪神ネルガル、エレシュキガルの率いる冥界の精鋭である魔神400名と対陣。戦力差が大きく、戦況は退く事を許さない。味方の援護も来ない。

だが、戦力で劣ろうとも当初の予定どおりの遅戦は成功した。

ミーティスの号令が声高に響き、白い翼をもつ魔神が空へと羽ばたく。

「我らは既に勝利した」

光の剣が飛び交う。

ミーティスは彼らを捕捉し、ネルガルやエレシュキガルを天王山である戦に遅れさせた。

如何に悪神最強の冥界軍が攻勢に出ようとも進路を塞ぎ、堅く守り持久戦をし切ったのだ。

善と悪の戦の鄒勢すうせいは決した。

だが、局地的戦力差は覆しようがない。櫛の歯の様に1人また1人と味方は減っていく。

盟友であったハニエル…彼、彼女が神核を貫かれ、愛が溢れた時に彼女の本質が愛であったのを知った。涙が頬を伝う。神は平等であらねばならない、その想いが彼女を消滅させてしまったのかも知れない。


刹那、光と闇が真一文字に交差し行き過ぎる。

痛みはない。ただ、勝ったという記憶。次元斬は全てを切り裂き、私の光輪は明滅し力を失いまばゆい光に包まれた。


ミーティスが語ったのは長い闘争の戦闘の一場面と善神と悪神そして両陣営に分かれた魔神。なぜ争っていたのか今はもうわからないと言うのだから巻き込まれた者達は堪ったものではなかっただろう。


魔神の神核というのはケイ素で出来ていて、不安定で瑕疵きずに弱い。唯一にして致命的な弱点だ。

叡知と力に満ちたエル(聖なる)と名のつく魔神、エロヒム(聖なる人々)も神々と共に多くが忘却の彼方かなたに去った。

魔神の心臓は有限で神の心臓は無限だというが、魔神の神核こそが黄金の心臓という錬金術の奥義のひとつなのだ。瑕疵さえつかなければ永遠の命も望める。


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