第16話

世界樹と聞いて皆が思い浮かべるのは空を支えるほどに枝を伸ばした1本の大樹だろうか。しかし、この世界での世界樹はトールでそうだった様に人々の身近にあり、恵みをもたらしてくれる。世界樹は必ずしも巨木と言うわけではない。

ガーデニングを始める前に魔結晶を南西の森から庭に運ぶ。少し時間はかかったが11個のスフィアを媒体としてフライを用いて飛翔、インビジブルアーマーによって隠蔽した。庭は結果として魔結晶の山、かまくらの様に積むことにして真ん中でガーデニングする。

苗木や種の状態の世界樹をステータスのアップする能力毎に苗木と種を分けウォーター(出水)で生み出した水に更にピュリフィケーション(浄化)をかけて種を入れ、さらにホーリーワード(聖なる言葉)を唱える。そうすると種が十分に水を吸い発芽率100%になると言う。苗木はその水を再利用して丁寧に綿で拭いた。ミーティスが手伝ってくれるのは実にありがたい。知恵の実の種もきちんと保存してくれていたのだ。

とにかく、市場に出回る果物がまばらで種類も少ない。知恵の実は生まれて初めて見たほどだ。自分用だが黄金の林檎の生産に漕ぎ着け供給を安定させるのが目標だ。

ゲームの時はマイスター300という10号鉢を用いていた。クリエイター製作アイテムで直径30センチ、高さ20センチ。サイドにはスリットが入り陽光の効果により根が廻りにくく、根腐れ防止になる。俺は毎日の水やり、病害虫の駆除に雑草の除去を思い出した。今回、俺はプロの腕前を魅せると意気込んだのだが、地植えにしたらとんだイージーモードで拍子抜けするほどだった。苗木は1時間後にはイキイキしており、種は翌日に芽が出た。

ミーティスの独り言に聞こえていたかも知れないが、俺とミーティスが鉢を作成する話をしていると、種なら庭に植えなさいよと母さま。母さまの助言は素晴らしかった。

ほぼガーデニングを終えると、ちょうど母さまが颯爽と現れ、物凄い勢いでゴンと空間に衝突。

その場でぶっ倒れる。

「あんあー」

お母さん、ごめんなさい。

間髪を入れずに光魔法1位ヒールを発動し母の頭部を癒す。

うむ、不味いな。見えない魔結晶が邪魔すぎる。

サクっサクっとディメンションスラッシュで地面を切断し埋めようとしたが、ゲームと違って土への効果が薄い。俺はミーティスへと視線を移したが、ミーティスに力業は望むべくもない。なによという顔で澄ましている。

結局、俺が母さま自慢の庭をその日ひっくり返し魔結晶を埋めた。良く見たら花も潰れてた。


そして、ミーティスが母に怒られている。本来ならばやーいやーい。このちんちくりん、ざまぁ。と囃し立てるところだが如何せん、全て俺が悪い。母さま自慢の庭を別物にしてしまっていたのは俺だ。


庭を眺めながら、俺は各ステータスを上げるにはバランス良い食事が大切だと改めて思った。そう、ミルクを飲んでも知力が上がらないのは母さまの能力値不足である可能性もある。内陸なので魚など魚介類が食卓に上る事が少ない。様々な要因はあるだろうが要は梨型の黄金の林檎を代表として知力アップの効果を促す食べ物は、ほぼ全てが王家によって買い取られ一部の特権階級や魔術師に割り当てられているのが主な原因か。そして、カーライルでは知力アップを促す食材や黄金の林檎が市場に出回らないので知力アップの機会がそもそも少なくなってしまっているのが現状なのだろう。

その知力向上の効果をもたらす知力の実を家の庭で育てれば、スムーズにレベルアップ出来る。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る