第15話

現在、カーライル南西の森は静かだ。

スフィアを用いてミーティス召喚の調査を行っている。常時、11個のスフィアが編隊飛行を行い見敵必殺と巡回しているのだ。しかし、現在は隅々まで詳細データの収集もしている。

森林の奥、人の生活圏から外れたそこは今や魔境と化していた。多くの魔物の魔石は結合し巨大な岩の様な結晶の塊が放置されている。

近いうちに回収しなくてはな。

見逃されるのは小動物のみ。

人の踏み込むエリアのさらに奥なので無いとは思うけど、人が侵入しても攻撃しないつもりでいる。

そして、一番の関心事はあの少女、ミーティス復活の調査。神族召喚という神スキルはないので、ここが神域である可能性がある。ミーティスの言っていた沢山の生け贄ってのは、ここで討伐したアンデッドモンスターの事だろう。

森林をスフィアで上空から観察した結果、かつての砦跡らしき遺構を発見した。上空から観察したからこそ発見できたと言ってよく地形の高低から割り出されたのだ。

しかし、その建造物が機能していたのは遥か古の事であり、現在は既に廃墟としてそこにある事が分かった。

では、ミーティスはどこから来たのか。調査の結果、詳細は不明だがモンスターの殺戮、大量発生したアンデッドモンスターの再殺戮。それがミーティスを召喚する引き金になったことだけは確かだ。

城塞都市カーライル防衛のためほぼ半月型に設置した堡塁の中心が召喚場所であると考えるのが妥当だろうか。


なんて考察をしながらも、俺は抱っこ紐という世紀の大発明を堪能している。良い、コレは佳いものだ。

母のボリューミーな胸に押し付けられるこのフィット感、確実に天使の羽布団を超える。しかし、その時。市場への買い物に連れて来てもらっていた俺は、今もっとも求めている果物を見つけた。

「あんあー、あうあう」

母さま、あれ買って。

母さま…

まって、待って。あの果物を買ってください。

〈黄金の林檎〉、世界樹の果実はみんな黄金の林檎という。俺のトール知識では、あの洋梨の様な形は知力の実だ。そして俺のステータスは知力1、是非とも手に入れたい。

その果物の値札をよく見る…なんだって、金1ガイエスだと…

他の果物はキロ売りしているのに。

母の目には例え目の前にあろうとその高価な果物は目に入らない。

高額商品だ、俺が喚いても、もがいても微動だにされなかった。

「お義母さま、ご子息がこちらの果物を所望しております」

「あら、ちょっと固くないかしら…」

「いえいえ、お義母さま。離乳食には最適でございます。磨り潰して食べさせましょう」

「わかったわ。コレをくださいな」

ミーティスの意見はすんなり通った。そして、ミーティスが母にそっと金1ガイエスを渡している。

ミーティスが俺に顔を寄せる。

「旦那さま、魔石回収を急ぎましょう」

「うっむ」


その日俺は早速、知恵の実をミーティスに磨り潰してもらい、スプーンで食べさせてもらった。

うまい、とろける甘味と酸味の絶妙なハーモニー。

俺はほんの少し、ミーティスを見直した。俺の言葉を理解しているかのごとく知恵の実の果物を買ってくれたからな。


ジョン・B・カーライルのステータスが知恵の実により知力が1上昇したことで全てのステータスは2になった。蓄積された経験値を使ってLV2へレベルアップさせる。そうすると各ステータスにレベルアップによって能力値上昇が可能になる。各ステータスは現在一律で2だ、そして次は各能力の世界樹の実を食せば3まで上げられる。それが上昇しない時は能力値の上限でカウントストップ。

逆十字星霜プリン逆十字の時は運が20でカンストして皆に不運な男と笑われたものだ。


俺がやっていたMMORPGゲームのトールでは世界樹が枯れた事によってゲームバランスが崩壊した。何故か、それはステータスアップに世界樹の実が大きな役割を果たしていたからだ。ただ単にレベルアップすれば強くなるという事を製作陣が否定したからだと思っていたが、この世界で世界樹の実を食してステータスアップしてみれば、この果実にこそ能力値に恩恵をもたらす効果を感じる。経験値を貯めレベルを上げ果実を食す。キャラクターステータスの伸ばしかたは単純だ、多くの経験値を積み世界樹の実の効果を取り入れるそれが強さを追究する事に繋がる。

ゲームのトールとこの世界の違いは世界樹が枯れてない事だ。そして世界樹の実が果物屋に並んでいる。

ゲームでも世界樹の守護者の称号を得るほどのガーデナーだった俺だ。

再びガーデニングの達人と呼ばれるのもやぶさかではない。







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