第13話
【複合魔法】インビジブルシールド、それは字面の通り完璧ではない。
ジョン・B・カーライルは身体の前方しか守れていなかったのだった。そう鉄壁ではなかった。しかし、その教訓を俺が学ぶのは余りにも早かった。
「はーい、ママですよー。おっぱいがっ、なあー」
庭の女の子を発見した母は絶叫した。
そして、俺は寝入り端にひじ掛けチェアごと母に突き飛ばされ、後頭部を強打。
「んぎゃー」
俺の泣き声が庭に響く。
間一髪、風魔法ウインドを発動しなければ馬鹿になっていたかも。
その後、母と少女は向かい合って微動だにしない。
いや、母の左足の爪先が内へ回り、重心を変えている。バックステップ、ただそれは見せかけの準備動作で、本命は右足で踏み込んでサイドからの攻撃か。
「どなたかしら」
少女のほうが及び腰になっているのか、慎重に話しかけた。
「この子の母です」
表面上、実に穏やかな会話に見えるかも知れない。ただ、観る人が観たら息が止まるほどの緊張感。
「あら、おかあさまな…の」
隙のない、息を呑むような右。
だが、少女の動きも警戒を怠ってはいない。
円を描く様に歩法を用い相手の攻撃の軌道を双方が拳が出る前に僅かにずらして行く。
どちらも相手を叩き潰す決定的な隙を窺っているのだ。
俺の経験では母は威勢では勝っていても、地力で少女と大きな差がある。母は言うなれば雛鳥を蛇から守るため飛びかかる小鳥か。
その膠着状態は暫く続いた。
それで、俺はのそりと浮かび上がった。風魔法2位フライで身体を姿勢制御する。11個のスフィアを背後に従え、火、水、風、土、金、闇、光、暗黒、神聖の1位魔法を準備状態でお手玉。
それを観た少女はあんぐりと口を開け、母の拳を溝尾に食らった。
7、8才児ほどの少女のHPはまだ残っていたが、俺の手加減したソイルウインド【スキル】峰打ちをこめかみに食らった為にHPはレッドゾーンへ。峰打ちその名がつけば死なないという謎スキルだ。
少女が意識を失ったのを確認すると母が振り返った。そして、俺を観て悲鳴をあげたのだった。
「はーい、よしよし。恐かったね。ママがあなたをまもるからねー」
俺は母にあやされている。
お気に入りの俺のひじ掛けチェアは半壊、今は寝ている少女に占有されている。
俺は母と少女の立ち会いを観てこの世界の歪さをひしひしと肌で感じた。MMORPGのトールのレベルシステムがこの世界に当てはまるならば、レベル4の親父はレベル8の子供に軽く叩かれただけで大怪我だ。最悪、亡くなるという事実があるのではないだろか。
凄く歪だ。
そんな事を考えながらも俺は【複合魔法】インビジブルアーマーを作成した。新作である。インビジブルシールドを両面に展開し後背の憂いを修正。この家に現在いる俺、母それにあの少女に勝手に魔法インビジブルアーマーをかけておく。また喧嘩されたら堪ったものじゃないからな。
ただ試行錯誤は付き物だ。
ん。やべぇ、母さんのおっぱいが吸えない。
インビジブルアーマーの透過性が低いのが原因だった。さっきの後頭部強打が心にまだ残っているせいか、土魔法1位ソイルが強めだったようだ。おっぱいを吸えるように調整していく。
俺は母に言った。
「だぁだ、ぷい」
「もう、ダメよそんなの」
ダメもとで言ってみたんだが通じてるのか。
「あの娘を嫁にもらうだなんて、あなたにはまだ早いわ」
え…なに言ってんの。
「確かに年上女房もありと言えばありかも知れません。でもね、ジュニア。ママは反対です」
「きゃっ、くわ」
いや、そんな事言ってな…
「ダメって言ってるでしょ。婚約者だと言い張る気なの」
言ってない、言ってないよ…
この娘何処かにポイしてこれないかなって言っただけなんだ。
早いこと【スキル】念話を覚えないとな。
「ちょっと、そこで薄目を開けてる貴女」
「はひっ」
少女は飛び起きて畏まった。
「うちの子どうかしら…」
母さんが少女に話しかける。良く見れば黒髪に餅のような顔。全然、俺の趣味じゃない。
「凛々しいお顔立ちで、聡明。目から鼻に抜ける様な才をお持ちかと存じます」
母がうんうんと頷く。
「良いでしょう、あなたもわたくしと勝負が出来るなら中々ね。」
「ありがとうございます。お義母様」
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