第7話

父が俺の隣で寝ていた。この一週間俺にべったりだ。話に聞くと母のお腹が大きくなった頃にも帰郷したのだとか。まぁ、実際。初対面だったわけだが、アイツからしたら待望の我が子か。そうだな、息子か…俺にも息子がいたら同じようにしてしまうかもな。愛情ってやつなんだろうか。寝ていると日の出と同時に父が起きて俺の額にキスをした。そして、自分のシャツを脱いで俺に掛ける。

「風邪引くなよ」

優しい声だ。親父…。俺の意識は微睡みの中に沈んで行った。


その日、母に別れを告げると父は王都ハウザンへと戻った。半年に2週間の休暇で片道3日の旅程だ。


俺は物心ついた時からステータスウインドウを弄っている。弄っているが思うがままにはなっていない。 未だに謎ステータスと化した逆十字星霜プリン逆十字へのステータスウインドウの切り替えは成功しない。

人物鑑定のスキルを取得できていないので父や母のステータスも覗けていない。ジョン・B・カーライルの各属性魔法やスキルのラーニングも進捗が悪い。必須アビリティを取得できていないからだが、この幼い身体では如何ともし難い。ラーニングを進め、現在上げられる上限まで魔力総量を伸ばし将来に備えるぐらいか。


カーライルが城塞都市と呼ばれる意味や、父と俺が同じ名前だという事も、その時はそんなこともあるのかなと深く考えていなかった。


それから数ヵ月後のある日、母が泣いていた。王都ハウザンから手紙で父の訃報が届いたのだ。王からの下賜だと木の箱を賜り、中には父の遺品として父の物ではない中古の鋼の剣と鋼兜、鋼鎧、破損した鋼の小盾が入っていた。使者の話では父は胸部貫通刺創で亡くなったそうだ。欠損した装備品は破損が激しく交換したとの事。王都ではヴァンパイアが市中を騒がせ、遂に王城に現れたが、見事に王家の親衛隊が討ち取った。しかし、父を含め親衛隊にも被害はあったのだ。王が鎧兜と剣を下賜したのは、後にその家の子孫が健康に育てば取り立てるという労いの意味である。使者は王から父への勲しとして金100ガイエスを下賜、さらに遺族給付金として月々の金5ガイエスを約束する書状を渡して帰って行ったのだった。


俺は声を上げた。

「あう、あう。はっぱ。ぱっぱあう。いうりる」

母が涙を拭って飛んできた。

「ジョン。パパ大丈夫だから絶対そんな事ない。大丈夫。大丈夫だから…」

笑顔はぎこちなく、俺を抱き締める身体は冷たかった。


王からの使者は俺にとっても青天の霹靂だった。父が死んだ。嘘だ、ありえない。まだ若いのに。そう思いつつも、この世界の命名からして同じ名前とか死亡フラグだよな。

それだけ、簡単に身近な人の命の灯火が儚く消えてしまう。城塞都市の外壁だって襲ってくる何かから、都市を守ってるんだって事を俺はどこか無意識に考えない様にして、幸せがいつまでも続くと錯覚していた。

親父…じぬなよ。なんで、死んじまうんだよ…


俺は哀悼の意を込めて粛々とステータスの俺の家系図を開く。ああ…あった。ジョン・B・カーライル、ジョン・B・カーライル、ジョン・B・カーライル享年54才。これは灰色。ん。

いやまて、ジョン・B・カーライルが俺でジョン・B・カーライルが親父、で祖父ジョン・B・カーライル、大叔父リチャード・B・カーライル…

亡くなってる方は灰色に色分けしてある。

ジョン・B・カーライル 0才、あ、コレ俺でジョン・B・カーライル25才、コレが親父。親父と俺の表示アイコンは青い。




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