第6話

俺は今日も耐え難い羞恥プレイに耐えている。またしても母にオムツを交換されているのだ。その時、首の座っていない俺に出来る事など全くと言って良いほどない。


「あぁ、ジュニア。元気にしてたかい」

なんだ、コイツ。ジュニアって誰だよ馴れ馴れしい。頬を擦りよせるな、気色悪い。

ソイツが近づいて来ていたのは空間把握で察知していたが、俺と親しい間柄なのか。

俺の頬っぺをツンツンしている。ウザい。

「いないいないばぁ、パッパだよー」

満面の笑みを浮かべている。


パパだと…

居なかったのはお前だよ。親ならずっと家に帰って来ないってどういう事なんだよ。

俺は俺の母が処女懐胎したと信じてたのに。

「ちょっと、やめてよ。ちょっかい出さないで。もう、ジョンったらー」

明るい朗らかな母の声。

ジョンだと、俺もジョンなんだが…

それで俺はチビちゃんのJrという意味でジュニアと呼ばれたのか。


父の名はジョン・ブルーアルケミスト・カーライル。まさか、息子に同じ名をつけるとはな。

父は今朝、出張から帰って来た。いや、言い方を変えよう。休暇で1週間ばかり家に戻ってきたと。

王家親衛隊の1人で城塞都市カーライルを治めていたカーライル家の血筋ではあるらしく、カーライルの外郭に住んでいる。まぁ、嫡流ではなく傍流なのだろう。カーライルの旧市街の住宅街に住んでいた良家の娘であった母とは羨ましいことに恋愛結婚であったようだ。仲睦まじいことこの上ない。


今日は日曜日なので母と父は俺を連れて家の外に出掛けた。教会で礼拝があるのだ。

母はとびきりオシャレして一張羅を着る俺を抱いている。父はどこかそわそわと俺を見ていた。

コイツもしや大人だと言うのに俺のおっぱいを奪う気かも知れない。くっ 、奪われてなるものか。

さて、教会へ到着した俺は美しい女神像を目にしたのだが、何故かわからんが恐ろしく感じる。その古風な可愛らしい独特な衣装を纏った姿を観ていると身体の奥から怒りと絶望が湧き出してくる。さらに身体の調子が悪くなり、脂汗が吹き出した。

父は俺の異変に気づき、俺の額の上に左手の掌を下方に向け添える。

「月の光が木陰で踊る、安らぎと静寂のワルツ。〈ムーンライト〉」

魔法をかけられそうになった俺は手間取ったがレジストを解除する。長々と詠唱されなければ魔法抵抗で弾いてしまうところだった。魔法を突然かけるときは呪文を詠唱する規則か。とにかく、助かった。

沈静化の効果をもたらす闇魔法第2位カーミングダウンの正式発声魔法か。改めて魔法を学んだ気分だ。しかし、しっかりと効果があるのな。教会という公共の場でも当たり前の様に使用され、神聖である教会で闇魔法を用いても非難されない。

だが、あの石像であるはずの女神像の顔の表情は今にも変化して

「あらあら~ねぇ、坊や。もしかして私が見えてるのかしら」とでも話しかけて来そうな気がする。うー恐っ。


それにしてもジョンには今朝方、あの旅装でこの都市に帰って来たということは徹夜だろうに俺の事を気にかけてくれるなんて、見直しても良いかも知れん。


そのように思ったのもつかの間

「おー、よちよち。だいじょぶでちゅか~」

先ほどまでの父の凛々しい姿は見事に崩壊し、赤子を相手にはぁはぁしている。ちなみに俺は男の子だぞ、見境なしか。くっ、ヤメロっ。ほっぺをつつくな。けつを撫でまわすな。







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