第10話 芸能デビューと大切な人との別れ
みゆきと微妙な距離感となってしまったアキオは優香との関係を疑われ更に二人の関係が悪化する。
そんな時みゆきの親友美兎が芸能界デビューの為に彼氏との別れを決断しその手助けを二人でする事に。
愛し合う二人の切ない別れにみゆきとアキオは淡い刺激を受けていく。
本文
悶々とした気持ちを持ったまま数日を過ごしていると駅前のでコンビニで優香と会った。
「久しぶり〜アキオ先輩!」
「おー久しぶり優香!」
「お正月以来ですね」
「そうだねー」
「みゆき、、多部とは最近会ってる?」
「ちょくちょく会ってますよ、受験で忙しそうにしてるからいつも短時間だけど」
「優香は受験大丈夫なの?」
「私はそんなオツム持って居ないから即就職ですよー」
「そうなんだ」
「それに働いている方が性に合ってるし」といつものクールビューティーなウィンクをしてくる。
「確かに優香らしいね」
「それってオツムの方じゃ無いですよねー」と冷ややかな目で睨む。
「当然オツムでしょ」と言うと
「ひっどーい」と二人で爆笑し合った。
「あれっアキオ先輩指輪してますね?」
流石に女子は目敏い。。
「あっ、あー最近は男でもお洒落でするんだよ」
と適当に誤魔化すと
「知ってますけどアキオ先輩ぽく無いですよね」
やはりみゆきは優香に俺達の事を言っていないらしい…
だとしても同じ指輪をしていれば目敏い優香なら気付くのでは無いだろうか。
「まっ最近優香とか多部さんと遊ぶ様になって二人のアクセサリー見てたら興味持ってきてね」
「そうなんですねー、でも私は好きだけどみゆきは一切そう言うの付けないですけどね」
「あれっ?この間付けていなかったっけ指輪」ブラフです聞いてみると
「えっ付けてませんよ、ついこの間も少しは指輪とかピアスとかお洒落しなよーと説教してたんですから」
「そうなんだ…」
「どうかしました?」
「いや、なんでも無い」
みゆきはもう指輪をしていない様だ。
やはりこの間の男子が関係しているのだろうか。。
「ところで多部さんは学校とかで好きな人とか居るのかなぁ」
「どうかなぁ、でも相変わらずアキオ先輩はみゆき推しですねぇ」
ニヤけられながらマジマジと顔を覗き込まれる。
「そんな事無いよ!」と心にも無い事を流れで言ってしまう。
「まぁアキオ先輩モテるだろうから沢山推しもいるんでしょうけどねぇ」と憎まれ口を叩き舌を出す。
確かにみゆきが居なければ何気に好意を持ってくれる女子を俺も好きになるだろう。
現に優香からも多少の好意は感じ、二人で話して居ると楽しいし可愛く思える。
どちらかと言うとみゆきと居るときより落ち着けて不安も無く純粋に楽しいという気持ちだけが残る。
俺とみゆきの相性がイマイチなのだろうか。
「そうだ!アキオ先輩、美味しいお団子有るからうちに来ませんか?」
「えっ今から?、遅い時間にマズくない?」
「うちは全然平気ですよー、溜まり場みたいなもんだから色んな人が昼夜問わず出入りしてるから」
「そっか明日休みだし寄って行くかな」優香と話しているとネガティブでモヤモヤとした気持ちが忘れられる。
このまま一人でいたく無いので有難い誘いだった。
優香の家に着くと誰も居なかった。
「またあいつら飲み歩いてるなぁ」
優香の両親も離婚し、今はお母さんとお母さんの彼氏と住んでいるらしい。
「まぁ適当に座って待ってて」と言うとパタパタと下に降りてお団子とお茶と灰皿を持って来てくれた。
「ありがとう!でもタバコは止めたから灰皿は大丈夫」
「えっアキオ先輩タバコ止めたんですか?何で?」
「えっ、、体に悪いかなぁと」
「えーらしくない〜」
優香はゲラゲラと笑う。
「そうかなぁ。。」と
バツを悪そうにしていると
「何か色々悩んでますねー」と俺の心を見透かす様なドキリとする事を言ってきた。
「そんな事無いよ、」と慌ててお茶を一気に飲むとメチャ熱かった。
「あちち!」思わずお茶を思いっきりこぼしてしまった。
「あらあらー」と優香がすかさず雑巾を持って畳と俺のズボンを拭いてくれる。
優香に触れられてふと二人っきりである事を意識した。
そう言えば女性と二人っきりで家の中なんて無かった事だ。
そう意識するとあろう事か心臓がバクバクして来た。
それを優香も感じたのか暫く二人の間に沈黙が走る。
「やっぱり、タバコある?」
「あれっもう断念ですかぁ」
「まぁね俺意志弱いから」
辱そうにするとスッと優香のタバコを差し出してくれた。
緊張をほぐす様に思いっきり吸い込む。
久々なので頭がクラクラするがやっぱり美味い!
「やっぱ美味いなぁ」
と心の声が漏れると
「あまり無理し過ぎるとアキオ先輩らしさ無くなっちゃいますよ」
といつものウィンク攻撃に心が揺らぐ。
するとチャイムが鳴った。
「はーい」優香がパタパタと階段を降りて行く。
ガチャっと玄関を開ける音と共に
「優香ぁ」
とみゆきの声が。
「あら、みゆき!丁度アキオ先輩来てるよ」
「えっ!何で」
と驚きの声が。
嬉しさと後ろめたさが交差する。
「誰と来てるの?」
「えっ?アキオ先輩一人だよ」
「そうなんだ」
間違いなく機嫌の悪い声だ…
「上がって行くでしょ?」
との優香の問いに
「勿論!」
と言って心なしか力強い足音で階段を上がってくる。
入って来たみゆきは今までに無い睨みを効かした顔で俺をエグる様に見てきた。
「よ、よう!みゆ…、、多部さん、久しぶり」
俺は目をオロオロさせながら挨拶を交わす。
「あら、大変ご無沙汰しております、アキオ先輩」
静かな冷ややかな挨拶が返ってくる。
「お邪魔でしたか?」
みゆきの怒りを抑えた口調に流石の優香もう何かを察した様に
「偶然駅前のコンビニで会って美味しいお団子が有るからって半ば強引に連れて来ちゃった」
と舌を出しながらメチャ有難いフォローを入れてくれる。
「優香も恋多きにも程々にしないと」
みゆきは珍しく優香に対してもトゲトゲしい口調を放つ。
「あら、仲良く二人でタバコ吸って寛いでたのね」
優香から貰ったタバコだが灰皿に向かい合って口紅の付いた吸い殻と何も無い吸殻とが並ぶ光景に鋭いみゆきの推測は逃れられない。。
「あー禁煙してたんだけど最近モヤモヤが溜まって我慢出来なくなって優香に貰って吸ってたんだ」
みゆきの行動に嫌味も兼ねた回答を試みると逆に優香の不思議そうな顔が際立つ。
「えっ二人とも何か変だよ?」
優香の問いにみゆきは淡々と
「実はアキオ先輩と色々と約束した事があって、ちょっと話し合いたいからアキオ先輩借りて行って良い」
「えっ全然いいし、私の所有物じゃ無いからご自由にどうぞ!」
何か優香に突き放された感じだが丁度良い機会だ。
やはりみゆきは指輪もしていないしこっちの方こそ色々確認させて貰うぞ!
と意気込み優香の家を後にした。
暫く無言でみゆきは前を歩く。
三歩後ろを俺は様子を窺いながら付いていく。
「何かした?」
と冬の寒さに負けない程の冷めた口調で質問が飛んできた。
「まさか!あり得ないでしょ!」
俺はキッパリと身の潔白を訴える。
「ふーん、二人っきりの女性の家に上がり込める人の言葉信用してもいいのかなぁ」
「何か言ってんの、優香じゃないか」
「優香は立派な女性、しかもアキオに好意を持ってるしね」
「好意って友達としてじゃないか」
「どうですかねぇ、前にアキオの童貞は私が頂くとか言ってた事も有りますからねぇ」
「何それ、そんな冗談間に受けてるの」
「冗談かもしれないけど好意を持っているアピールとも取れますからね」
「そんな根も葉もない事言ってるけど大体みゆきはどうなんだよ!」
「どうって?」
「この間男子と仲良く自転車二人乗りしててさ、俺に見られたら慌てて気まずそうにしてだじゃないか!」
「何それ! 放課後クラスの決め事で遅くなって予備校に遅れそうだから送って貰っただけだし。
アキオが居たから嬉しくて慌てて飛び降りて駆けつけただけだし。
気まずそうなのはアキオにじゃ無くて急いで送り届けようとしてくれたクラスメイトにだし。
アキオの方が全然私の事信用してくれてないじゃん!」
「そんなのこの間から時間もあったし幾らでも言い訳準備出来るじゃないか!大体今だって指輪してないじゃないか!」
「学校にアクセサリーとか禁止だし、その後そのまま予備校だし、していける訳ないじゃない」
なる程…
「大体それと夜に女性と二人きりで部屋にいる事と比べものにならないと思うけど!
タバコの約束も優香と2人の時に破ってるのは優香に気持ち流れたからじゃ無い?」
「そんな事無いよ!それにそんな優香との事が不安なら俺達が付き合っている事言えばいいじゃないか!」
結局お互いの言い分のみが先行し二人で納得し合う話し合いは出来なかった…
俺は何故優香に未だ言えないのか理解出来ないし、みゆきが何を考えているのか分からず不安だった。
恐らくみゆきは俺が彼女を信じドンと構えて包み込む事を求めているのかもしれない。
だけどちっぽけな俺には彼女の求める大人な対応は出来ない。
そんな二人のスレ違いが解決しないままみゆきの家の前に着いて
「もう帰らないと親が煩いから…」
とみゆきは帰って行った。
更に悶々とした日々を一人で過ごし、恋愛なんてしなければ良かった…
と後悔もよぎっていった。
そしてみゆきと付き合って初めてのバレンタインを迎えた。
2月14日みゆきから電話が来て駅前のコンビニでも待ち合わせをした。
「はい、コレ」
みゆきからバレンタインのチョコを差し出された。
今まで何度かバレンタインのチョコは貰っていたが大好きなみゆきから貰ったチョコは俺にとって間違いなく人生最高のチョコだ。
ただ二人の微妙の距離感はさほど埋まる様子は見せない。
「ねぇアキオ、今の関係疲れて無い?」
「えっ!そんな事ないよ。」
とは言ってみたものの見透かされ感がハンパ無い。
「正直言うね、私は付き合う前のアキオとの関係が堪らなく好きだったけど今はいつもモヤモヤしてるの」
俺は何も言えない…
「でもね、アキオの事凄く大切な人と思っているから傷つけたくない」
「どう言う意味?」
みゆきはもしかしたら別れたいのだろうか。。
「私にも分からない、ただ胸が苦しい」
「俺もみゆきを凄く大切な人だと思ってるよ」
「うん、知ってる」
「何だろうね、お互いそう思い合っているのに何で苦しいんだろう」
「きっと依存しすぎて自分が見えなくなりかけているんじゃ無いかな」
「そうなのかな、だとしたらお互い色んな事に力を入れて恋愛依存度を少し下げた方がいいかもな」
「そうかもね、アキオは何か一生懸命になれる事あるの?」
「分からない、有るとしたらそれを見つける事かな」
「私はね、今一生懸命に成ろうと思えるのは親友の事かな」
「芸能デビューする子?」
「うん、彼女が一生後悔をしない為にも今の彼氏と最高のお別れが出来る応援をしたい」
「好きあっているのに別れなきゃ成らないなんてキツいね」
「多分世の中好き合うだけでは一緒に居れない人達って大勢居るんだと思う」
「皆んな苦しんでるのかね」
「苦しさも有れば幸せも感じられるのが恋愛なのかもね」
「じゃぁまず俺はみゆきの頑張ろうとしてる事を手伝うよ」
「ホント!嬉しい」
「よし、じゃぁ作戦会議だ!」
二人はみゆきの親友が望んでいる彼氏にバージンを捧げるプランを練る事にした。
既に親友にはマネージャーが付き纏い中々自由な時間は無いという。
「決行は親も寝静まる深夜だね!」
「そうね、じゃぁ私が彼女を連れ出すのでアキオは彼氏の家まで車で送って」
「了解!そしたらうちの離れに二人を連れて朝まで時間をあげよう」
俺とみゆきは夢中になって第一プラン、第二プランと話し合った。
一週間後、プランを決行する時が来た。
まずみゆきの親友の家に行き彼女の部屋に小石を投げた。
するとスゥ〜っと部屋の窓が開いて部屋の明かりを背景に逆光の中でも可愛いらしい子が顔を出した。
彼女は靴を片手の指に掛けながら窓によじ登り一階の屋根に降り立った。
静かに屋根の縁まで来ると壁の上に乗り腰をかけると靴を履いてストンと飛び降りた。
「みゆき、ありがと!」
なる程、アイドルデビューするのが当たり前の様に今まで会ったどの子よりもダントツ可愛くテレビで見るべき子だ。
勿論、俺にとってはみゆきの方が可愛いがやはりドキッとしてしまうのが男の性と言うものだろう。。
「噂のアキオ先輩ですね! 初めまして、里村美兎です、いつもみゆきから聞かされています」
と、また凄く愛らしい笑顔で語りかけてくる。
「俺は神野アキオ、美兎ちゃん宜しくね、ところでどんな風に聞いてるの?」
と不安も過ぎり聞いてみると
「初めて会った気がしないくらい的確で想像通りの雰囲気の人ですよ!」
どう捉えて良いかは分からないが取り敢えずこの場に長居は無用だ。
「まぁいいや、とにかく車に乗って!」
二人を車に乗せて足早にその場を離れた。
「彼氏の家は北町の方なんだよね?」
「はい、北町のマックの裏辺りです」
「了解!じゃあ取り敢えずマックに向かうね」
俺は絶対に事故らない様に慎重に車を進めた。
「本当にみゆきがいつも話してくれるアキオ先輩そのものだよね」
「そぉかなぁ」
少し照れながらみゆきが答えているのが愛らしい。
「それって良いイメージなんだよねぇ?」
「勿論ですよ!それもかなり良い方」
「まぁ、嬉しいし深く聞くのも怖いから俺の話はこの位で」
「匠君の家は夜抜け出せるの?」
「匠のお父さんは警察官で凄く怖い人だから兎に角バレない様に抜けださなきゃならないけど裏口から壁乗り越えて裏の家通り抜けて来るらしいから家の前で合図したら裏の道に回って欲しいの」
警察官と聞いて何気に反応してしまう。
「アキオ、家の前で彼の部屋に小石を投げてあげて」
「了解!」
「美兎、今日は二人をアキオの家の離れに連れて行くけど何時まで平気なの?」
「明日は朝6時にマネージャーが迎えに来るから5時には家に帰らないと」
「あまり時間が無いね」
既に12時を回っているので彼氏と合流して送り迎えを考えると二人が過ごせる時間は3時間も無い事になる。
「急ごう」
俺は少しアクセルを強目に踏み込んだ。
彼氏の家に着くと彼の部屋以外も煌々と明かりがついている。
「どの部屋?」
美兎に聞くと2階の一番奥の部屋だとの事。
思いの外、遠いい‥
俺は車から降りると少し大きめの小石を選び窓をめがけて遠投をした。
「ビシッー」と音と共に窓ガラス一面にヒビが走った。
「ヤバい。。」と思った瞬間
「バァーン」と音と共に凄い勢いで木刀を持ったいかつい親父が飛び出て来た。
「オラァ、何やってんだお前はー」
警察官というよりまるでヤクザの風貌だ。
俺は反射的に「すいません!」と言いながら車に飛び乗り急発進させた。
「ごめん、美兎ちゃん面倒な事になっちゃって」
彼氏の家から勢いよく離れながら謝った。
「逆にごめんね、何か面倒な事に巻き込んじゃって」
美兎が申し訳無さそうに謝る。
「私お父さんの所に行って正直に話して謝って来る」
美兎が決意の目をしながら言うとみゆきが制した。
「駄目だよ!もう今日しかチャンス無いんだから、アキオどうにかして!」
みゆきの嘆願にどうにか応えたい。
俺は少し離れた場所に車を置き偵察に行く事にした。
「私も行く!」
と美兎は言ったがアイドルデビューする子を夜な夜な外で連れ回す事は出来ない。
「騒ぎになったのは俺のせいだから任せてここでみゆきと待ってて」
そう言うと俺は逃げた方向の逆から彼氏の家の方に近づく様に裏から遠回りして向かった。
彼氏の家手前の曲がり角の陰からそっと様子を見ると玄関前にウロウロとしている姿が見える。
暗くて良く分からないが親父だろうか。
どうしたものか試行錯誤していたその時、背後から肩を叩かれた。
ぎくっ、
として振り返る。
そこには背の高いイケメンの青年が立っていた。
「みゆきちゃんの彼氏さんですか?」
半ば確信している様に声をかけてきた。
「そうだけど、美兎ちゃんの彼氏?」
「はい、三浦です」
「匠くん、だったよね?」
「はい、」
「ごめんね、家のガラス割っちゃって」
「いえ!逆に驚かせてしまってすいません、うちの親父は血の気が多いので」
血の気の多い警察官は如何なもんだろうか、と思いもしたが人の親の事を悪くは言えないので言葉を飲み彼を即した。
「取り敢えず急ごう!」
来た道をUターンし彼氏を連れて車に戻った。
彼氏を後部座席に乗せると俺は直ぐに車を出した。
「匠、家大丈夫?」
美兎が心配そうに聞くと
「分からないけど明日帰ったらとにかく謝るよ、なので今は考えるのやめよう」
匠くんもあと数時間でで別れなければならない僅かな時を無駄にしたく無い様だ。
「20分位で着くけどそれまで俺らの事気にしないで二人で思う存分話してて良いよ」
と俺が言うとみゆきも大きく頷いて
「そうそう、タクシーに乗ってるつもりで運転手無視してて良いから!」とぬかすので
「つうか助手席のお前も邪魔だろ!」
とツッコミを入れると車内が爆笑と成りトラブルの沈んだ空気を一掃する事が出来た。
無事に家に辿り着き離れに二人を見送るとみゆきと二人沈黙が走った。
「ありがとう」
ボソッとみゆきがお礼を言ってきた。
「ごめん…、失態して恥をかかしちゃったよね」
俺も真摯に自分の失敗の詫びを入れた。
「ガラス代二人で弁償しようね」
と愛らしい顔で慰めてくれるみゆきが改めて愛おしいと感じた。
「美兎ちゃんと匠くん、好き合っているのに別れなければならないなんて辛いよね…」
と俺がボソッと言うとみゆきはゆっくりと語り出した。
「人って愛し合っていても一緒に居られなかったり左程好きでも無い相手と共に過ごさなければならなかったり思い通りにいかないものなんだと思う」
「そうだね。。」
俺が頷くと
「でもね、それも一度きりの人生の中の一ページでどんな環境、相手でもお互いに思いやりを待って少しでもプラスになれる繋がりで居る努力が大切なんだと思うの」
とみゆきは真剣に語る。
確かに同性、異性問わず合う人間、合わない人間が居るけれど自分に大きな害を与えて来る相手以外は価値観や考えが違くとも理解をする努力をして責めるのでは無く共に進める道を模索する事が大切な事だと思える。
自分の事さえ理解出来ずコントロールしきれない自分が他人を責める事なんてするべきでは無いと切実に感じた。
そんな会話の中、俺とみゆきはこれからどの様な未来が待っているのだろうと思いにふけた瞬間、街灯に照らされる早咲きのカワヅザクラが風になびかれパッと花びらが散り、2人の終わりを予感させた。
車内でみゆきとウトウトしていると「コンコン」と窓を叩く音で目が覚めた。
美兎が目を腫らしながら匠くんと立っていた。
「色々有難う、もう大丈夫だから」
美兎は寂しげに言うと後部座席に匠くんと2人乗り込んだ。
車内は重い空気の沈黙のまま匠くんの家の裏に着きバックミラーを覗くと美兎と匠くんはキスをしていた。
その美兎の目からは涙が溢れている。
こんなにも切ないキスも有るのだと心に染みた。
「じゃあね」
と美兎が告げると
匠くんは静かに車を降りて運転席の俺と助手席のみゆきに何度もお礼を言い去っていった。
「大丈夫?」
みゆきが心配そうに声を掛けると美兎は嗚咽を混じらせ泣き崩れていった。
自分の夢を追いかけるタメとはいい17歳の少女にとって大きな岐路に立つ選択をして大切な人との別れを選んだ道は相当の覚悟もいただろう。
その実感と愛する人との別れを小さな身体で必死で堪えようとしていたのが崩壊してしまったのだろう。
みゆきは後部座席に周りそっと美兎を抱きしめ思う存分泣かしてあげた。
俺は車を静かに走らせ美兎の家の近くに停めて彼女が落ち着きを取り戻す頃合を見て声を掛けた。
「そろそろ行かないと」
「はい」
覚悟を決めた顔つきに変わった美兎は大きく深呼吸をして家へ戻って行った。
「別れるのって辛いね」
みゆきがボソッと呟く。
「そうだね、密度が深いほど別れの時は苦しくて、期間が長いほど辛い思いを打ち消す時間が必要なんだろうね」
俺とみゆきは眠さも有り、美兎と匠くんの別れの哀愁を引きずり沈黙のまま帰路についた。
分かれ際にみゆきが
「折角の二人の今の時間大切にしようね!」
と俺の目を真っ直ぐに見て語りかけてくると自然に俺たちはキスをしていた。
「じゃぁ、またね」
みゆきは車を降りて帰って行った。
美兎と匠君の切ないキスに刺激を受けて二人の関係が少し好転した様に感じた。
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