第11話 仲間達との再会
数日後の日曜日、俺とみゆきとヒロを含めた3人は俺の部屋で何をするでも無く一日まったりと過ごしていた。
3人は未だにセットされたコタツに足を突っ込みテレビを見たり漫画を読んだり落書きをしたりと各々好きに過ごしていた。
大好きなみゆきと一番の親友と過ごす何気無い時間はみゆきと付き合って以来一番落ち着き最高の日であった。
こんなにも落ち着き幸せな時間が運命の歯車を切り換えるキッカケになる事など知る由も無かった。
「ねえアキオ、ノート何冊かある?」
突然みゆきが閃いた様に聞いてきた。
「あるよ」
「そしたら皆んなで今の気持ちとこれからを未来の自分に対して手紙を書こうよ」
「えー面倒くさいよ、あんた1人でやって下さいな」
ちょっと素っ気なくもふざけた感じでヒロが突き返す。
「あー、冷たい、アキオ!ヒロ先輩にいじめられたよ!」
口を膨らましながらヒロと俺の顔を交互に睨みつける。
可愛いぃ…
と俺は色ボケしながら「コラっ!」とヒロを叱りつける。
「うゎ…、ダッサ」
完全に尻に轢かれている俺にヒロは冷ややかな目で返してくる。
「ダサく無いよねぇー、アキオはいつでもどんな時でも私を守ってくれるんだもんねー」
と頭を俺の肩に乗せてイチャついてくる。
「チェっ、やってらんねーなー」
ヒロが呆れた顔で言うと「プッ」っとみゆきが吹き出す様に笑った。
それに釣られて俺も何故か無性に可笑しく成り笑い出すとヒロも釣られて笑い、3人でどんどんと笑いが込み上げてきた。
凄く楽しそうなみゆきは、時には小悪魔風な顔を覗かせいつも以上に魅力的で引き寄せられた。
俺もみゆきに乗っかり未来の自分に手紙を書いた。
そこには当然みゆきの事が多く占めるが、それと同じか若しくはそれ以上に光輝達との時間が書かれていた。
みゆきとの幸せな時を過ごせる今は最高な筈なのに、何故か光輝達との別れが段々と大きく心の空洞を広げている様に感じた。
弱く力の無い俺が理不尽な世の中に納得出来ずとも何も行動出来ず、雄一何かを打ち破ろうと一歩踏み出した光輝達との時間も自分の不甲斐なさで切られる事になった。
このままでいいんだろうか…
またもや胸が締めつけられる様に葛藤が湧いてきた。
誰にも見せないとお互いに決めた未来のノート、俺もみゆきも見せ合う事はしなかったがふと見えたみゆきのノートの1ページには表題の様に大きく「あんたと呼ばないで!」と言う文字が見えた。
楽しい時間はあっという間に終わり、その後らみゆきが期末試験で暫く会うのを控える事に成った。
そんな時、偶然光輝と出会った。
「よう、アキオ!久しぶり」
まるで何事も無かった様に笑顔で声を掛けてくれた。
「久しぶり光輝」
俺は後ろめたさも有りテンションの低い返事を返した。
「何だ元気無いな! 女にでもフラれたか?」
「そんなんじゃ無いよ」
「最近どう?、皆んなは元気にしてる?」
「まぁ相変わらずバカやってるよ」
「そうそう、和人が年少から出てきて今は真面目に仕事してるから会いに行ってやってくれよ」
「保護観の間は俺ら連めないけどアキオなら平気だし和人も喜ぶよ!」
「分かった!会いにいってみるよ」
「それと来月俺ら解散集会で最後だから引退したらまた皆んなで連もうな!」
まるで俺の心の空洞が見えている様に今の俺に最高に響く言葉をかけてくれた。
「有難う、光輝…」
俺は涙ぐむ顔を見られ無い様に俯きながらお礼を言った。
次の休日、俺は早速和人に会いに行った。
和人の家が有るマンションの6階に上がりベルを鳴らした。
するといかにも寝起きなボサボサな頭の和人が顔を出した。
「おぉー、アキオ久しぶり!どうした?」
「いや、この間光輝と会ったら和人が年少出てきてるって聞いたから」
俺は照れ臭そうに言った。
「あの時はお互い大変だったな」
菊池が警官に叩き落とされ大怪我を負い、その警官に殴りかかって少年院に送られた和人と、ただ叫び続けていた俺とでは全く違う代償なのに、相変わらず仲間意識の強い和人らしい言葉だった。
「お帰り!」
俺は素直にその一言が出た。
「まぁ上がれよ」
和人に即され俺はお邪魔することにした。
「親父は出掛けて居ないから適当にリビングのソファーに座ってくれ」
和人は親父さんと妹の3人暮らしだ。
「和人、なんかひと回り大きくなったんじゃ無い?」
元々身長も高くがっちりした体型だった和人だったが更にたくましく成っていた。
「まぁ年少でお茶摘み位しか毎日の仕事が無くて体が鈍るから毎晩腕立て、腹筋をメチャクチャやってたからな」
前から思っていたが彼らのストイックさはハンパ無い。
何事もとことんやり遂げる。
元々頭がキレるタイプが多いし、もしこの力が勉強に向かったらかなりの成績を残すのだろう。
でも彼らはその流れに従わず世の中の理不尽や矛盾にぶつかって行く。
不器用な生き方と言えば簡単だが、明治維新や世の改革は与えられた環境が全てでは無く、権力者の都合や策略に刃向かい改革をして行く力が文明を進化させている。
きっとその様な遺伝子がそうさせるのだろう。
和人の少年院での話、俺の敵対チームの捕虜を逃してチームを抜ける事になった話など、懐かしい思い出話も合わさり時間があっという間に過ぎて行った。
夕方に成ると和人の妹が学校から帰って来た。
俺らの2個下で高校一年生らしい。
「あっお兄ちゃんのお友達来ていたんだ、こんにちは!」
強面の和人とは似つかずまだ幼さも残る可愛らしい子だ。
「こんにちは、俺はアキオ、宜しくね」
出来る限りの笑顔を醸し出し挨拶をした。
「私は優佳里です、アキオさんはお兄ちゃんの友達っぽく無い爽やかな人ですね!」
人懐っこい感じで笑顔で返してきた。
「らしくないってのも俺に失礼だな!」
ニヤけながら和人も返してきた。
妹が可愛くて仕方ないという感じが伝わってきた。
人懐っこい妹も会話の仲間に入り今時の高校一年生話に盛り上がり更に時間は早く進んだ。
「もうこんな時間だ、そろそろ帰るわ」
俺が時計を見ながら言うと
「えー、まだいいじゃ無いですかー、私これから晩御飯作るので食べて行って下さいよ〜」
優佳里が手を合わせてお願いポーズで頼んで来た。
「アキオ、何か用事あるのか?」
「いや、別に何も無いけど」
「だったら飯食って行けよ、俺と優佳里もいつも2人で寂しいからたまのお客は凄く嬉しいんだよ!」
「和人もそう言ってくれるなら喜んで!」
俺は晩御飯をご馳走になる事にした。
「親父さんはまだ帰って来ないの?」
「あー親父はいつも午前様だからな」
「そんなに仕事忙しいんだ」
「それも有るだろうけど飲みも多いからな」
「じゃぁ和人が少年院入ってた時は優佳里ちゃんは夜も一人だったのかね?」
「親父も多少は早帰りを努力していてたみたいだけど優佳里はかなり不安で寂しかったろうな、でもあいつはそういうの見せないから」
和人は優しい目で台所に立つ優佳里の後ろ姿を見つめていた。
こんなに思いやりあう兄妹も居るんだ、俺は無性に切なく感じていた。
「はーい、出来ましたよ〜」
優佳里は大盛りの唐揚げと肉じゃが、ご飯に味噌汁を手際よくをテーブルに並べて声を掛けてくれた。
「すっげぇ旨そう!」
お世辞では無く高校生が料理したレベルには見えない安定感のある食卓だ。
「そうですかぁ、何か庶民感丸出しで恥ずかしいですけど」
「いや! 凄く家庭的だし落ち着くし優佳里ちゃんは良い奥さんになると思うよ!」
「本当ですか! じゃぁアキオ先輩の奥さんに立候補しちゃおうかなぁ」
まだ幼いながらの優佳里の発言にドキリとしてしまう自分が情けない…
「勘弁してよ!和人の圧が怖すぎるから!」
とお茶らけて誤魔化してみたものの何故か心臓がバクバクと鼓動を早めていた。
アットホームな一時はあっという間に過ぎ、和人の親父が帰って来る前に失礼する事にした。
「アキオ先輩!また来て下さいね!!
絶対、絶対ですよ!!」
こんな俺を受け入れてくれる優佳里に家族的な感情が芽生えていた。
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