第9話 恋のトキメキと苦しみの葛藤

三度目の告白で多部と付き合う事となった俺は彼女の膝の上で温もりを感じ頭を撫でられながらいつの間にか寝落ちしてしまった。


「あー!アキオ先輩、何甘えてるんですかぁ」

と優香の声で目が覚め起き上がると多部もコタツの机に頭を伏せて寝落ちしてしまった様だ。


優香の声の勢いでみゆきの胸に顔を突っ込んでしまった。


「きゃっ!」

と多部も飛び起きる。

と同時に

「いたたたたた」

と足を崩した。


「二人何してんのよ」

と優香の怪しむ目線が。


「あっアキオ先輩の青タンが痛そうで申し訳ないなぁとの思いから膝枕をしてあげたら寝ちゃった」


多部は優香に俺と付き合う事になった事を言うつもりが無いらしい。。


俺も話を合わせて

「何でもお願い聞いてくれると言うから甘えさせて貰っちゃった」

と言うと

「ふーん」

と疑いの眼差しを優香はしている。


でも何で多部は優香に言わないのだろうか。。


そんなモヤモヤも感じたが付き合う事になった嬉しさが俄に湧いてきて目がすっかり覚めてきた。


「そろそろ初詣行こうか!」

との号令と共に二人は食い散らかしたお菓子やジュースをテキパキ片付けはじめた。

二人とも寝起きだというのに機敏な動きが心地よい。


外に出るとキーンという冷たさと共に星一杯の夜空が目に舞い込んできた。

「綺麗〜!いつかアキオ先輩とみましたよね、こんな星空」


「星座に疎いと馬鹿にされた時な」


「馬鹿にしてませんよ!アキオ先輩らしいって思っただけですぅ」

一年以上前の事が昨日の様に鮮明に蘇る。


「ハイハイ、あんたらのイチャつきに付き合ってられないわ」

優香が冗談混じりに冷たくあしらう。


優香は気づいているのだろうか。


「優香ぁ、拗ねないでー私はいつでも優香のモノだからぁ」

と俺にとっては微妙な冗談を返し多部と優香は腕を組みスキップをしながら先に行ってしまう。


「こらこら、夜中の住宅街静かにな!」

と保護者の様に俺は後を追った。


神社に着くと既に大行列が出来ていた。


「アキオ先輩は何をお願いするんですか?」

優香の質問で改めて考える。


「うーん」

勿論多部と幸せな一年にしたい!

と願うのだがやはり光輝達や後輩達の事が気にかかる。


俺が緩い生活をしている今も彼らは情熱を全開に出し、時には権力者や歪になった世間と戦っている。


迷惑をかけた罰で外された俺が自分だけ平穏で幸せな時間を満喫していて良いのだろうか…


何かが胸に引っかかる。。


結局俺は多部は勿論、優香やそして光輝、後輩達が幸せな一年を過ごせる様にと願掛けをした。


「二人は何を願ったの?」

と聞くと


「そんなの言ったらご利益無くなっちゃいますよ」

とシラっと優香が言う。


「おいおい、さっき俺に聞いてだじゃねえか。」

と突っ込むと


「でも言ってくれなかったじゃないですかぁ.無口に真剣に考え出すからこっちも真剣に考えて願掛けしたんですよ」

と優香のウィンクは何か意味ありげだった。


初詣も終え.日が登りはじめた頃に解散となった。

優香の家まで3人で行き.その後俺多部を家まで送った。


「ねぇ、何で優香に俺達が付き合う事言わないの?」

暫くの暗黙の後多部が口を開いた。


「今の3人の関係を崩したくない、優香もそう願ってるはずだし」


「ずっと言わないつもり?」


「勿論タイミング見て言うよ、でももう少し待って」


「分かった、多部に任せるよ」


「ありがとう」


「その代わり付き合ってる実感も欲しいから二人の時は俺の事をアキオと呼び捨てにして」


「うん、分かった!、じゃぁ二人の時は私はみゆきね!」

満面の笑みが凄く幸せを感じさせてくれた。


そっと手を繋ぐとみゆきは頭を俺の肩に寄せる。


このままずっと一緒に居たい。

その思いもよそにみゆきの家に着いてしまう。

彼女も名残惜しいそうにしているがここは男の俺がしっかり送り届けねば。


「今日は人生で一番嬉しい日になったよ!これから宜しくね」

と俺が言うとみゆきは

「うん」

とだけ言い目を瞑った。


俺はそっとオデコにキスをして

「大好きだよ」

とだけ言いその場を去った。


家に帰りそのまま爆睡していると家の一階が騒がしい。

そうか今日は元旦だ。


元旦は毎年親戚中が家に集まり俺と歳の近い従兄弟達は恒例のトランプや麻雀でお年玉をかけて盛り上がる。

こんな俺でもこの行事は何気に楽しみにしている。

時計を見ると既に15時を過ぎていた。


顔を洗い下に降りると

「何時まで寝てんのよ!」

と母親の呆れ声が。


「おっアキオ君デカくなったなぁ」

叔父さんが声を掛けて来た。


この叔父さんはバリバリの証券マンで一から実績を積み上げ役員まで上り詰めたやり手の男、医者関係の多い家の家系では唯一のサラリーマンだ。


「おはようございます、木島の叔父さん」


「もう夕方だけどな、若い奴は寝溜めが出来ていいなぁ!」

と豪快に笑いながら場を和ましてくれた。


するとチャイムが鳴り他の親戚達も続々と集まり始めた。


父方母方の親戚6家族の総勢30名程の宴が始まると子供達に最近どうなんだと大人達の投げかけが舞う。


中学受験や高校受験、大学受験に医師国家試験、皆が目標に向かって進捗を報告する中、俺は肩身が狭く端でお節をつっついている。


すると木島の叔父さんが横に座りお酒を勧めてきた。


「飲むか


ちょっとお義理兄さん、未成年にお酒なんて


アキオ君は仕事もして社会人なんだ、俺らと同じだから良いんだよ!」

と言いビールを注いでくれた。


お酒はたまに飲むが弱いので正直あまり好きでは無い。


「有難うございます」


「大変か?」

と叔父さんの問いに俺は正直な気持ちを話した。


「何か今まで教わってきた事が本当に正しいのか分からなくなって自分が何を目指していいのか見失なっている感じですね」


「そうか、でもその気持ちや感性を持って何か行動に移そうとする事は大事な事だと思うぞ」


「そうなんですかね、親には学校も投げ出し怠け者だと思われていますよ」


「そんな事は無いと思うぞ、現にお父さんは彼は彼なりに必死に考えもがいているんだと酔っている時にポロッと本音を言ってたからな」


「ほんとですか?」


「俺ら親戚もアキオ君が怠け者だと思っ人は居ないと思うぞ、小さい頃から人一倍頑張り屋で負けず嫌いで一直線な性格は皆んな知っている事だから」


涙が出てきた…


俺一人親戚中のお荷物で爪弾き者だと勝手にへりくだって医者なんか、エリートなんかと敵対視していただけなんだと悔しさと恥ずかしさと家族の温かさが混在したからだ。


「多分アキオ君は人とは違うやり方で成功するよ!、今の情熱と諦めない気持ちを持ち続ければな!」


「有難うございます」

俺は皆に涙を見られないように暫くお辞儀をし続けた。


元旦をいつもと同じ様に親戚達との麻雀、BLACK JACKで満喫し久しぶりの家庭を味わった。


2日はみゆきも親戚との集まりが有り、俺も祖父を一次退院していた病院迄、家の車のセドリックで送り届ける事になった。


片道一時間程度の道のりだが免許取り立ての俺には緊張する役目だ。

祖父を助手席に乗せて両親にくれぐれも安全運転でと念押しをされて出発した。


祖父は痴呆が進んでいるので俺の事も幼い頃の印象しか無いのか車を運転する俺に何か違和感を感じている。


「アキオ君は幾つになったんだね?」


「18歳に成りました」


「もうそんなかね!」

と驚きを隠せなさそうだ。


それはそうだろう、前回の一次退院の時皆にお土産を持って来たのだが俺にはブドウ味の歯磨き粉ので入った歯ブラシセットだった。


小学生の低学年向けだ。。

そんなまだらボケした祖父だが、ついこの間も新聞への詩の投稿で金賞を取ったりもする頭脳明晰の片鱗は未だ健在だ。


「アキオ君は仕事は何をしたいのだい?」


おそらく俺が高校を辞めて既に社会人だとは知らないのだろう。


「まだ分からないです」

本心でもある差し障りの無い答えをすると


「焦らず自分が打ち込めて使命感を持てる仕事を見つければいい、人は必ず何かの使命を待って生まれてきているのだからきっと有るはずだ」


「そうですか?多くの人はお金を稼ぐ為嫌な仕事も我慢してしている様に思えますけど」


今まで見てきた現実を考えると仕事は生活をしていく手段としか思えない。


すると…


「確かに仕事自体に使命感を得られずお金を稼ぐ為に仕方なく働く事もあるだろう、その稼ぎで自分を守り大切な人を守るのも使命、そしてその仕事が誰かの役に立っているので有ればそれが更なる喜びに思える。そうしたら必然と打ち込める様に成るのではないかな、その喜びが出来る限り大きいとアキオ君が感じられる仕事に巡り合うと幸せだな」


理路整然と語る祖父の言葉の重みは中途半端な今の俺にずっしりと響いた。


祖父を病院に送り届け一人でセドリックを走らせているとバイクの時より更に行動範囲が広がり自由なのだと感じた。


自由な反面、目的が見えないどうしようも無い不安もよぎる。


俺は使命を見つけられるのだろうか?

もし見つけたとしても力も能力も低い俺にそれを手に入れる事は出来るのだろうか?


仮にみゆきとこのまま付き合い結婚となっても養っていけるのだろうか?


付き合ってから36時間程度しか経っていない俺が考える事では無いかもしれないけれど、とにかくこのままでは駄目だとの思いばかりが湧いて出てきた…


正月休みも最後の3日、みゆきと二人でデートに行く事になった。


改めて二人でお出掛けとなるとお互いギクシャクした態度になった。


家の車は借りれず電車での移動なので駅前でみゆきと待ち合わせをした。


「アキオ先輩! あっ違った、アキオ待った?」

と照れながらみゆきは俺を呼び捨てにした。


「全然!」

本当は落ち着かず30分以上も前に着いていたのだが。。


「どこ行きます? あっ、どこ行く?」

敬語をタメ語に慌てて変えるみゆきが可愛い!」


「吉祥寺に行こう!」


「うん!」

先に買っておいた切符を渡す。


「有難う〜、さすがアキオ!気が利いてる」

俺は照れながら手を改札に向けて降りみゆきを先導して進んだ。


今日のみゆきは白系のロングコートでスタイリッシュに決めている。


俺は洒落たコートを持っていないので寒さを我慢して一張羅のニコルのジャケットの下にベストとシャツ、そして2枚重ねのインナーの組み合わせ。

多少首元は寒いが高揚状態の俺には全く問題ない!


二人で電車に乗り込み今日の計画を話し合う。


「アキオ、わたし洋服買いたいから付き合って」


「いいよ!」

元々そのプランだった。


俺は年末にボーナスとは言えないが酒肴料程度を貰い正月も社会人だから要らないと言ったが一部お年玉も貰ったので懐は暖かい。

みゆきもお年玉を貰い同様だ。

吉祥寺に着くとサンロードのかばん屋に入った。


「これ可愛い〜」


水玉のポシェットを手に取りはしゃいでいるみゆきを微笑ましく眺めているだけで幸せを感じる。


この時間を続けたい!

このシンプルな気持ちが使命感の原動力なのだろうか。 


「ねぇねぇアキオ、この水玉のとペイズリー柄のとどっちが良いかな?」


「うーん、水玉の方が似合うんじゃない」


えー、ペイズリー柄の方が良いかなぁと思ってたのにぃ」


「えっ、そうなの?じゃあペイズリーかな」


「何か適当〜!」

とみゆきは膨れっ面になる。


これが噂の答えようの無い

<どっちがいい〜?>攻めだ。。


「玄人はどっちでも似合うよ!」

と言いつつ的確に其々の特徴と合う理由を述べると言うが俺には到底そんな技量は無い。。


雄一「怒んないでよー」と困った顔をするのが精一杯、

するとみゆきは

「困った顔のアキオって可愛い〜」

とお茶らける。


可愛いと呼ばれる男は如何なもんか…と古風な考えが頭をよぎる。

結果みゆきが可愛い過ぎてどうでも良くなる!

という色ボケ状態でデートは進んだ。


何店舗か回っているとカメラを持った男性に呼び止められた。


「すいません、撮影をさせて頂けませんか?」

俺はすかさずみゆきの前に出て遮る。


「あっーん」

ついヤンキー魂に火がついて相手に睨みを効かす。


「えっ、、怪しい者では無くてこういう者です」

名刺を見るとポップティーン編集部と書いてある。


どうやら女子高生に人気のファッション誌のストリート特集に載せる被写体を探しているらしい。


「えーどうしよう、アキオ」


「嫌なの?」


「そうじゃ無いけどアキオは嫌じゃない?」


「俺は全然いいよ、みゆきが可愛く雑誌に載るなら」


「そっか、じゃぁOKです」

気のせいかみゆきはあまり嬉しそうでは無かった。


「有難うがざいます、じゃぁお兄さんは少し離れた所で見ていて」

俺が離れるとみゆきは色々な角度から写真を撮られていく。


んっ?

何だこのモヤモヤとした気持ちは…

何故だか凄く嫌な気持ちに成った。


撮影が終わり再び二人に成ると微妙な空気が流れた。


「良かったね、人気誌に載れるなんて!」


「そう?」

そっけない返事が返る。


「どうしたの?」


「別に!」

やっぱり何か変だ。


「何か変だよ」


「変じゃないよ、ちょっと疲れただけ」


「じゃぁお茶でも飲もうかね」


「うん」

二人は喫茶店に入った。


俺は好物のバナナジュース、みゆきはアイスティーを頼んだ。


「ねぇみゆき、何か言いたい事有るなら言ってね」

暫くの沈黙の後、みゆきの口が開いた。


「アキオ、本当に私の事大好き?」


「えっ何で?」


「だって普通好きな子が他の男性に写真撮られたり大勢の男子に見られたりって嫌じゃない?」


そうか、俺のモヤモヤの原因はそれだ!

自分でもそんな気持ちになるなんて分からなかった。


「だってみゆきの折角のチャンスじゃない、俺が邪魔しちゃ悪いなと思って」


「私達付き合っているんだから、大好きな気持ちが有るなら嫌っていえばいいんじゃないかな」


「でも。。」


「好きさが足りない!」

ぷくっとまたふくれっ面になる。


今回は可愛いなぁと静観している場合じゃなさそうだ。


「そんな事無いよ、人生の中で最大に好きだよ」


「どの位?」


「このくらい!」

両手を大きく広げて見せる。


「小さい。。」 

納得してくれない。


「じゃぁこの街一杯位」


「全然ダメ」 くそっ。


「じゃあ日本、いや世界位」


「もう一声!」


「えーい、宇宙位じゃあ」 

何故か方言になる。


「よしっ」

やっとみゆきが笑ってくれた。


すぐ不安になって切なくも成るけど一気に幸せに満ち溢れる、これが真の恋愛なのだろうか。

俺はホッとしてタバコに火をつけた。


「アキオ、タバコ止めたら? 若いうちから吸っていると長生き出来ないし成長の妨げにも成るよ」

何度も親や教師に説教されて聞く耳を持たなかった俺だが素直に聞ける。


「そうかな?」


「そうだよ、私が大切だと思うのなら自分の体も大事にしてくれないと」


「分かった、止めてみる、明日から」


「止めるなら今からでしょ!」

母親の様に叱るみゆきも愛おしく感じる。


「分かりました!」

俺はタバコを止める事にした。


その後みゆきの興味のあるお店を数軒回りすっかりご機嫌を取り戻したみゆきと男性向けショップに入ると

「これ絶対アキオに似合うよ!」

とブルーのマフラーを手に取り俺の首にかけてくれた。


みゆきの顔が近づきシャンプーの香りが漂う。


ドキドキした感情を隠す様に

「そうかな」

と素っ気なく返す。


「私が買ってあげる」


「えっ、いいよ、俺も何も買ってあげてないのに」


「一日中私の買い物に付き合ってくれて荷物も持ってくれてるんだからこの位させて」 

みゆきの優しい笑顔に更にときめく。


「ほんと!凄く嬉しいよ」

みゆきは任せて!とばかり胸を叩きレジに向かう。


ずっと続くのだろうか。

幸せ過ぎると不安が過る。


つい半年前迄命を落とすか刑務所に入るかという環境に居た自分が、何も出来ない俺が、この幸せを維持していけるのだろうか。


ネガティブな思考が駆け巡る。


店を出ると今買ってくれたマフラーをみゆきが首に巻いてくれた。


「これでよしっ!」

やはり寒そうだったのだろう。


「暖かい、ありがと!」

本当に暖かい、体も心も。


「俺も何かみゆきにあげたいな」


「ホント! でも大体欲しい物買っちゃったからなぁ」

すると

「あっ!」と突然走り出す。


「どうしたぁ?」とみゆきを追うと


「これ欲しい!」

見るとアクセサリーショップの店頭にある指輪だ。


とは言っても千円位のオモチャだが。


「これ二人でしよ!」


「えー」


「何、嫌なの?」


「そうじゃ無いけど男が指輪なんて変じゃ無いかなぁ」


「今時の男子は当たり前でアクセサリー付けますよ」

金のネックレスとブレスレット位しか俺の周りにしている奴は見当たらないが。


「でもみゆきといつも一緒に居る気持ちになれると思うからいいよ!」

実際休みが終われば仕事と学校、みゆきも受験で会う時間は少なくなるだろう。


指輪を2個買いお互いの右手の薬指に嵌めた。

二人の強い絆が結ばれた様な気がした。


4日から仕事が始まりみゆきもバイトのシフトを入れた。


俺は仕事から帰りシャワーを浴びると田舎から帰ったヒロと待ち合わせしてみゆきのバイト先のコンビニに向かった。


以前の様にヒロとコンビニのテーブルを牛耳りウィンナーやお菓子を頬張る。


たまにみゆきは合間を見つけ喋りかけてくれるが店長に咳払いをされて戻って行く。


そしてバイトが終わると3人でみゆきの家まで送り届けて、その後ヒロと二人で須田の家に行き夜が更ける迄熱く語り合った。

学校が始まる迄充実した毎日が続き始業式の日にみゆきからバイトを辞める話を聞いた。

いよいよ大学受験に本格的に取り組む為に予備校にも通うらしい。 

出会って恋に落ちた時からセットであったコンビニでバイトしているみゆきの変化に寂しさと不安を感じた。


その後平日は俺も仕事と学校の毎日で会う事は出来ずみゆきの家の厳しさから電話も出来なかった。


雄一会える休日もみゆきの予備校や家の用事も有り中々時間の合わない日々が続いた。


2月に入り会えない時間が二人の距離を広げている不安が大きくなった頃、偶然みゆきと遭遇した。俺は仕事が早上がりでいつもより早いので一旦家にシャワーを浴びに帰る所だった。


汚い作業着で原チャリに乗って信号待ちをしていると男子と楽しそうに自転車で二人乗りをしているみゆきが目の前の横断歩道を遮った。


「あっ!」

と慌てて自転車の後ろから飛び降りバツが悪そうに近寄って来た。


「どうしたの?」


「仕事が早く終わったんで一度家に帰るとこ、みゆきは?」


「学校終わってこれから予備校に行くところ」


「そうか」

と言うと信号が変わり後ろからクラクションが鳴る。


「じゃあね」

俺はそう言うとそのまま逃げるように家路についた。


誰なんだろう、楽しそうに、そして俺に見られて気まずそうに…


気になるのなら何故あの場で聞かなかったのだろう。

でも万が一俺に言えない相手だとしても正直に言ってくれるのか、言ってくれたとしても聞きたく無いし知りたく無い。


またもやネガティブ思考が駆け巡る。

なんて女々しいのだろう。。


せっかく付き合う所まで辿り着いたのに今まで以上に不安で恋苦しい葛藤が芽生えて行った。

そして…

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