第5話 美織、絶体絶命!(3)

[3]

 八坂神社の境内をぐるっと回って、朋美たちは、東大路通りと四条の交差点まで戻って来ました。

 この交差点も、祇園祭の頃は観光客でごった返すのですが、シーズンオフの今は、全国からやって来た修学旅行の学生たちと大型観光バスでいっぱいです。

 朱色の華やかな楼門を出て、石段を下りると、アレキサンダー君は、通りを右に少しそれて、歩道の端で「アン!」と吠えました。

「ん? どしたん?」

 朋美が尋ねた時、

「あ! 佐藤先輩だ!」

 1年生の堀口君が言いました。

 東大路通りの向かい側に、佐藤航(わたる)がいます。

 そして、その傍らには、

(アリスちゃん?)

 クラスメートの冷泉亜梨朱(れいぜい ありす)ちゃんがいるのでした。

「この間の茶道部のきれいな先輩やぁ!」

「おーい!」

 朋美が止める間もなく、1年生たちは、通りの向こうに手を振りました。

 信号が青に変わり、航と亜梨朱ちゃんが、ゆっくりと道路を渡って来ました。

「先輩! お連れ様です!」

「先輩、デートですか!」

 1年生が言うのを軽く受け流して、航は朋美に、

「何してんや?」

と、尋ねて来ました。

「航こそ、何してんや?」

 朋美が聞くと、亜梨朱ちゃんが答えました。

「うちにお茶にお招きしてん。ね! 佐藤君!」

 そう言って、朋美に笑いかけます。

「鈴野さんは、どうされはってん、男の子たちと?」

「五島カケルさんいう方を探してるのです」

と、美織が答えました。

「ちょ!」

 朋美は、慌てましたが、

「病院から、五島さんの匂いを追って、ここまで来たんですけど、ここで匂いが途切れとるんです」

と、自慢気に説明します。

「あんた! さっきまで嫌々やっとったやん!」

 朋美があわてて美織に言うと、

「ここまで来れたんは、美織のお陰ですぅ!」

 美織は、「つーん」と澄まして言います。

 航は、固い表情を朋美に向けました。

「お前、まだ、五島に関わっとるんか! やめろ言うたやろ!」

「航かて、茶道部との交流、お疲れ様やな!」

 航は、1年生たちをちらっと見ると、

「ごめん、冷泉さん! 俺、こいつらと合流するわ!」

「え!?」

 亜梨朱ちゃんは、驚いた表情を浮かべて、

「ほな、わたしも」

「いや!」

 航は、亜梨朱ちゃんに手の平を向けました。

「これは陸上部の問題やから!」

 亜梨朱ちゃんは、驚いた顔でいましたが、すぐに笑顔を見せると、

「うん、分かった。また今度ね!」

と微笑みました。

 でも、朋美たちが、アレキサンダー君の止まった辺りへ戻り出すと、一瞬、亜梨朱ちゃんが朋美の背中をじっと見つめるのに、美織はカメラアイの隅で気づきました。

「良かったん? 亜梨朱ちゃんの誘いを断って?」

 朋美が聞くと、航は渋面を作って答えました。

「正直言うと、お茶って苦くて苦手なんや!」

「ここで匂いが途切れてるって、どういう事や?」

 朋美が美織に尋ねると、

「どういうって、その通りやろう?」

 航が言いました。

「ここで車に乗ったんや!」

「車?」

 タクシーででもなければ、誰かが運転していた事になります。

 中学生にできる事ではありません。

 アレキサンダー君は、車道の路面をしきりに「ふんふん」と嗅ぎまわっていましたが、やがて、

「アンッ!」

と、声を上げました。

「車の匂いを見つけました!」

 美織が言いました。

「追い駆けられます!」

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