第48話 ユリア 陥落寸前

結局、この1ヶ月、イオリはダンジョンをソロで過ごすことになる。


イオリは悔しかった。


ここぞという時に自分だけ帰されてしまったことに。


もちろん、俺の手を汚すことのないように気を使ってくれたということは分かっている。


それでも、リノア先生やユーリに頼りにして欲しかった。


もっと強くなりたい。

俺が守ってあげられるように。


2日後、ユーリから入ってくる熟練度に上位職『暗殺者』が加わるようになったのに気付き、その想いはさらに強固になった。




この1ヶ月で大きな変化がいくつかあった。


1つ目はユリアの成長速度である。

今までも『錬金術士』のLV上げの努力をしていたが、しっかり前を向き、これまで以上に熟練度上げに力を入れるようになった。

レベルが上がれば、街を守る為の攻撃アイテムが作れるようになる。

村民との時間も減らし、黙々と取り組むようになった。



2つ目はブランカの姿勢。


今までも強くなりたいと思い、努力は重ねていたものの、まだまだ与えられた環境に応じてだった。

しかし、魔物からの村の襲撃を目の当たりにし、自分から能動的に行動するようになった。

以前までの彼女は「彼の隣で戦いたい。」その想いしかなかった。


しかし、今は違う。

リノアのように目の前の全てを守れる力が欲しいと思うようになっていた。

自分にできることは限られているからこそ、その限られた物をより精一杯やるようになった。



3つ目はリノアの村への覚悟である。


今までは村へのこれ以上の投資は避けていた。

しかし、今回の襲撃で追加融資を決定し、本格的に村の防衛力を高める方向に舵を切った。


・村の周りを囲うように柵を配置。

櫓を建て、交代で見張りを配備。

・人材の育成


イオリの為にならない事に興味を示さなかったリノアが、自分の熟練度稼ぎを中断し、人材の育成を始めた。

これは今までのリノアでは考えられないことであった。


村で魔物と戦える者を5人集め、中級ダンジョンで戦えるように鍛え出したのだ。

数ヶ月後、その5人がそれぞれリーダーとして人を育てるようになり、村の防衛力は上がっていく。


リノアもまた、この村で過ごすうちに、村に対して愛着と責任を感じるようになっていた。




そして、最後にユリアとユーリの関係性だ。。。


弱っていたユリアをあのユーリが献身的に支えた。

以前のような欲望を全面的に押し出した形ではなくだ。

もちろん、ユリア限定ではあるが。


若干?ボディータッチが多いようには感じるが…

そこは抑えきれない何かがあったのだろう。。。


ユリアも意識的にか無意識にか、何かあれば、ユーリを頼ることが増えた。

周りに人がいても、「ユーリお姉様」と普通に呼ぶようにもなっていた。


ユリアは、頼りにはなるが、どうしようもない姉の世話を焼く感覚で。

ユーリはもう嫌われないように、着実に距離を詰めていくイメージだ。


最近、ユリアがあまり怒らなくなった事をいいことに目に見えて、ユーリは距離を縮めに掛かっていた。


最初は毎日、食事を取るところから…

そのまま、ユリアの家に泊まり込む日を増やした。

この前はユリアが寝付いた後、添い寝にチャレンジした。

昨日はどさぐさに紛れて、一緒にお風呂に入ろうとして、、、追い出されたところだ。。。


病巣が体を蝕んでいくかのように、ユーリはユリアの日常に入り込んでいく。。。


当然、ユリアもユーリの気持ちは分かっている。

相も変わらず、真っ直ぐに気持ちを伝えてくるのだ。


ユリアでなくても意識してしまう。

昨日、お風呂に忍び込んできたユーリを見て


お姉様、キレイ…。


そう感じてしまった事により、ユーリをより意識してしまっている。


◆ユリア視点


最近、ユーリお姉様の手口がいよいよ露骨になってきました…。


「あいたたた、村を守る為に魔物と戦った時の傷が痛むわ。」

「皆を治療する為にMPを使い過ぎて、フラフラするわ。」

そう言って、わざとらしく、甘えてきます。。。


もちろん、傷一つ付けられていないし、傷付いても瞬時に回復魔法で回復できる。

MPは十数人治した所でびくともしない。

しかし、ユリアはそれを知らない。


「村を守る為に、皆を治療する為に」

そう言って甘えてこられると、どうしても強くでれません。。。

それに最近、ふとした時に顔を近付けてきて、ニッコリと微笑んできます。

あれをされるとドキドキしてしまうというか…


イオリ様…

さらに距離を詰められれば、もう持ちこたえられそうにありません。

このままお姉様と…

そう思っては首を横に振る。


イオリという婚約者の存在だけが、心の最後の砦になっていた。

陥落寸前ではあるが。。。


もちろん、あのユーリがこの好機を逃すハズはない。。。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る