第11話 仁義なき闘いの幕開け

◆第三者視点


「殺シテヤル!殺シテヤル!殺シテヤル!」

この世の天国から地獄へと叩き落とされ

その感情の全てが殺意に染まった女と


「クックックックックックックックック」

愛した男を奪えず、自爆攻撃により愛した男もろともライバルの女を木っ端微塵。

悲しみと狂気から、泣きながら笑うことしかできない女。


狂っている。。。


目撃者がいれば、そう表現するしかないこの状況。


だが、この2人のちっぽけな名誉の為に言っておきたい。

彼女達は治癒院でも人気の美人女医であり

生まれも育ちも、平民上流階級のお嬢様。

見合いの申し込みも殺到しており

本人達がその気になれば貴族に嫁ぐ事も難しくない。


しかし、その深き愛ゆえに

醜い争いにより彼女達は壊れてしまった。



「フフフフフフ、燃やしてやる。切り刻んでやる。

私が『魔女』として成長を遂げたのはこの日、貴女を倒す為だ!」

殺戮マシーンと化した女が火炎魔法(小)と風刃魔法(小)を唱える。

一部訂正すれば、『魔女』が成長したのは魅了魔法を毎日唱え続けただけの話ではあるが。


「なっ、『プリースト』と『魔女』の中級職ダブルだと!?

クックックックック。

私の精神のステータスがいくらあると思ってるのよ。

その程度の魔法、効かぬわっ!!」


『医者』の最も伸びるステータスである精神は魔法防御と回復力向上に作用する。

魔法攻撃ではダメージを与えるには相性が悪いと言えるだろう。



「オラオラオラオラオラ!」

大したダメージが出ないと分かっていても

その憎しみから唯一の攻撃魔法で火炎・風・水・土魔法(小)を鬼の形相で乱れ打つ女と


「ムダムダムダムダムダ!」

魔法をくらい続け、体には大したダメージは無いが

服はボロボロに裂け、泥まみれ。

もはや美人女医の欠片も残っていない女。



この見るに耐えない闘いは

つかみ合いと罵り合いにて第2ラウンドを迎える。


「あなたさえ!あなたさえいなければ

私は今頃、イオリ君と…シングルベットで!

さっさと死になさいよっ!」

「何がシングルベットよ!

1人で寝ていなさいな。

あんたの方こそ!

あのまま泣きわめいていれば良かったのよ。

あともう少しで!

もう少しで私の勝ちだったのに!!」

「やっぱりワザとやってたのね!?

なにが何もしないと保証するよ!

このウソつき!」

「何もしない訳ないでしょーが!

考えなくても分かるでしょ!

馬鹿なの?」


15分後


「ふぇぇぇぇん、イオリ君会いたいよ。寂しいよ。」

「グスッ、人生で一番好みだったのに。」

2人はただ泣いていた。

憎しみでは解決しない。

醜い争いの末、失った物の代償を思い出したのだろう。



◆リノア視点


職場に行くのが嫌だった。

サラさんに会うのも辛かった。


お金はいくら掛かってもいい。

もう一度会うチャンスが欲しい。

つい30分前。

最後の希望である冒険者ギルドにイオリ君の救出依頼を出したが

誘拐でしかないと断られた。。。


私の未来が奪われたのに…


どうすればいいだろう。

うん、サラさんとアレクさんに、会わせてもらえるまでお願いしよう。

もう彼無しでは私は生きていけない。



「リノア先生、昨日は申し訳ありませんでした。」

「あの…彼は…イオリ君は…

グスッ、イオリ君は…グスッ…どうしていますか?」

「頑なにリノア先生に会いたいって叫んで

夫に掴み掛かっていました。

あんなに物分かりの良い子だったのに…

よほどリノア先生のことが。」

「あぁぁぁぁぁ、イオリ君!イオリ君!」


私はサラさんにしがみつき泣き崩れた。

サラさんもそんな私を見て涙を流してくれる。

私が…私がもっとしっかりしていれば…


「何とか一目だけでも…ヒグッ…彼に会わせて頂けないでしょうか?」

「ぇぇ、最後に会ってあげてください。

11時発の王都行きの馬車に」

「最後って!?どういうことですか?」

「夫が王都バリの全寮制の学校に連れていくと。

このままリノア先生に会えないまま

王都に連れられて行くには、あまりにもあの子が不憫で…」

「サラさん。いえ、お義母様。

私も彼が、イオリ君がいないとダメだって気付きました。

いつか改めて、謝罪に参ります。

だからどうか、イオリ君とのお時間を下さい。

このまま彼と旅に出ようと思います。」

「リノア先生…

もしイオリを連れ出せたのなら、お任せします。

どうか、イオリをよろしくお願いします。

夫には私から説明します。」

「治癒院の皆には何か適当に言っておいて下さい。

しばらく帰ってこないと思います。

それでは時間も無いので、失礼します。」



私は装備品を取りに家に走った。

お金はギルドカードに入れてある。

イオリ君に会いたい!会いたい!

私の気持ちも、魅了魔法も、『魔女』の事も会って全てを伝えよう。


はぁ…はぁ…はぁ…

何とか11時発の馬車に間に合った。


見つけた!

アレクさんじゃない。

王都に向かう兵士に連れられている。


馬車が出発した。

フードを被り、彼の様子をうかがう。

次の町でイオリ君を連れ出すチャンスを伺おう。

しかし、3人の兵士に囲まれている。

私1人では助け出すのは厳しいかもしれない。

今夜、助けだせなければ、明日には王都だ。

そのまま、全寮制の学校に閉じ込められて

もう会えないかもしれない。

嫌だ!死んでも嫌だ!!


「相棒、私を忘れていない?

お薬は持てるだけ持ってきたわ。

夜に宿で仕掛けるわよ。」


ぶっっっ、飲んでいた水を吐き出してしまう。


えっ、なんでユーリが隣にいるのよ!?

しかも、誰が相棒だっ!

…昨日、殺し合ったばかりですけど?


しかし、今は最も心強い仲間と言えるかも知れない。

彼女の薬物があれば、3人ぐらいどうとでもなる。



イオリ 10歳

職業:寄生虫LV5

擬態職業:プリーストLV5

熟練度:

寄生虫 LV5(209.01/500)

プリースト LV5(337.11/500)

魔女 LV1(69.25/100)

医者 LV1(5.59/100)

寄生先:2(2/2)

親密度:リノア(70/98)

   ユーリ(29/91)

スキル:寄生 回復魔法(微・小) 毒回復(小)

浄化魔法(小) 火炎魔法(小) 精神異常耐性

精神安定(小) 解熱(微)



ステータス(↑プ+魔+寄)

HP 44/44

MP 50/50

体力 25

力  19

魔力 52

精神 52

速さ 23

器用 29

運  34

寄生 14

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