第8話サイコパスとお仕置き
カインの主席合格の報が届いて三日が過ぎた。この三日間は魔法を練習するでもなく、剣術を学ぶわけでもなくベッドの上でだらだらと過ごしていた。
しかし、今日はだらだらしている時間などない。午前中から入学式があり、その後教室でオリエンテーションが開かれる。朝はいつものようにメイドに起こされ、新品の制服に袖を通す。制服には所謂、付与魔法などは付いていない。自分の身は自分で守れということなのだろう。
護衛のシルフィーと共に学院に到着し馬車から降りる。すると近くにいた学生が近づき、お辞儀をしてくる。受験だった日は、皆んな遠目から様子を伺っているだけだったが、僕がこの学院に入学することが噂で広まっているようだ。学生はお辞儀をするが話かける者はいない。次代の皇帝に決まっている皇太子、しかもハイエルフに話かけるのはとても恐れ多いことなのである。
赤いレンガ造りの学院に入り講堂室に移動する。入学式は一時間程あるが僕が特にすることはない。主席合格は普通、新入生代表挨拶なるものをしないといけないらしいが、勿論断り、柔らかい椅子にもたれかかってうたた寝を楽しむ。壇上には自分の代わりにヒューマンらしき黒髪が拡声石に向かって何かをぶつぶつとつぶやいてる。
「はぁーー」と間が抜けた欠伸がでた頃、ようやく学院長の長い話が終わり、各教室に移動することにする。カインは三階に登り、受験でも使用したA○一の教室に入る。すると中には既に二人の生徒が椅子に座っていたが、こちらに気づき立ち上がってお辞儀をしてくる。一人はツインテールに特徴的な赤い瞳を持つ少女であり、もう一人はカインの代わりに代表挨拶をしていた黒髪のヒューマンであった。
「お前は確かどこかで……そうだ!筆記試験の前の席のツインテールか」
「ご機嫌麗しゅう、殿下。覚えていて下さったのですね。光栄ですわ」
「自己紹介をしてもよろしくて?」
「勝手にしろ」
「では、お言葉に甘えて。私の名はクリス=ラベンダー、ラベンダー伯爵家の長女ですわ」
挨拶を言い終えた少女と目があう。
するとカインは彼女の顔に手を伸ばし、頬をそっと撫でる。まるで何かに導かれるように。
「まぁ!嬉しいですわ、殿下」と言って柔かに微笑み彼の手に自分の手を重ねる。それと同時にカインはハッと我に帰り、彼女の手を払いのける。
カインはこの状況を冷静に見つめ直す。
試験の時もそうだったが、彼女と目が合うと意識を奪われるような感覚に陥るのだ。なるほど、あの特徴的に赤い瞳は魔眼の類ではないのかと予想する。
「君の瞳は綺麗だね。率直に聞くがそれは魔眼だろ?」
「いえいえ!魔眼なんて……そんな大層なものではございませんわ」
「ふむ、どうやら君の魔眼は魅了系なのだろ?知らないで使ったとは言わせないよ。何せ魔眼は目に魔力を集めないと発動できないからね」
「そ、そんな、そんなことはございませんわ」
カインは冷やかな笑みを浮かべ彼女のツインテールを力任せに思いっ切り引っ張る。「きゃぁぁ」という悲鳴が上がるが、それには一切の興味も示さず、彼女の身体を引き寄せ正面から強く抱きしめる。「後でお仕置きしてやる」小声でそう言い残し、彼は席に座った。
授業開始の鐘が鳴り教室に男の教師が入ってくる。「まずは自己紹介をさせてもらう。君たちの担任になったモースだ。ここは上位三人の特別クラスだから、自由度は高い。試験で点数を取れば授業に出席はしなくても良いからな。因みに俺は古代魔法の専門だが、それ以外もできる筈だ。気軽に質問に来てくれ」
その後、一通りの教科書と三人分の杖が配布される。「杖の先端についてる黒い魔石はランクCの魔獣オークだ。君たちもオークを単独で討伐できるくらいになると一人前の魔法使いだ。これから五年間頑張ろう。では解散、自己紹介は各々しといてくれ」モースはそのまま教室を出て行った。
「おい、そこの冴えない顔の黒髪ヒューマン。お前の名は?」
「は、は、はい。えっと、申し遅れました。私の名前はレオンと言います。苗字はありません」
「苗字が無いということは庶民か。よく上位三人の中に入れたな」
「はい、一応固有魔法持ちなので。あの…全く大した能力ではないのですが。何故かここに……」
固有魔法とは生まれつき備わる物で、後天的に得ることはできない。固有魔法を宿す者は帝国内でも非常に少ない。カインも【言霊魔法】という極めて有効で強力な固有魔法を持っているが、エドワードには口止めをしているため、それを知るものはいない。固有魔法を得て生まれてきた者は貴族、庶民に関わらず優遇されるのだ。しかし、それだけではこのクラスに入るのは難しい。おそらくレオンも筆記試験は満点かそれに近い点数だったのだろうと予想がつく。
「お前はさっさと家に帰れ、ヒューマン」
「は、はい。ではお先に失礼します。」
レオンを先に家に帰らせ、これから何が始まるかというと勿論、クリスのお仕置きである。自分の魔眼の能力を知りながら、皇太子に使用した罪は大きい。恐らく伯爵である父親に皇太子を籠絡してこいとでも言われたのだろう。
「ツインテール!お前は伯爵に言われて僕を惑わそうとしたのか?」
「いえ、それは違いますわ!あの、殿下のお顔がとても素敵なので、つい」
「わかった、そういうことにしてやろう」
カインはクリスの後ろ側に立ち、学院指定の黒いスカートを力づくで降ろす。すると、サクランボがあしらわれた年相応のパンティーが出てくる。しかし、それすらも引っ剥がす。「な、な、何をなさるのですか⁈」その問いには答えもせず、白く透き通った小さいお尻を思いっきり叩く。一回、二回、三回と。白かったお尻は真っ赤に腫れ少女は泣きべそをかいている。「痛い、痛いです、殿下。申し訳ございませんでした!」と叫ぶが、お尻ぺんぺんはなおも続く……。
放課後の鐘もとっくに鳴り、閑散とした学院内で、お尻を真っ赤にしている少女とそれを触りながらニヤついている少年の影は異様に映った。
「こんなことされるとは思いもしなかっただろう?」
「は、はい、あのもっと簡単にいくと……」
「僕の父上に言って伯爵家を取り潰していいんだぞ」
「本当です!本当に私一人でやったことですので。私の父はその、殿下と仲良くしろとは言いましたが、ただそれだけで……。魔眼のことも知りませんし。今回のことは全て独断でしました。魔眼を使えば手っ取り早いと思いまして。申し訳ございませんでした!私は煮るなり焼くなりして貰っても構いませがどうか家の取り潰しだけはどうか……」
「なるほど、お前の父も魔眼については知らないのか。もういい、お前の尻は堪能した。明日僕に賄賂とお前の身体を寄越せばチャラにしてやる。」
「ほ、本当ですか!ありがとうございます!」
美しい夕日が沈みかけている。
オレンジ色に照らされる燕たちはいったいどこを目指して飛ぶのだろうか。
カインは気分良さげに馬車に乗り込み、シルフィーと共に帰宅するのだった。
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