第7話サイコパスと入学試験
薄桃色の可愛い花びら達が宙を舞う。
花は自ら、その時期がくるまで待つ。
鮮やに散ることを事を心待ちにして。
カインが剣術の訓練を始めてから、かれこれ五年が過ぎようとしていた。身長も既に百五十センチと五年前に比べ五十センチ以上も伸びた。黄金の肌に整った顔も健在で、お母さん似の瞳は人の心をどこまでも見透かすようなブルーである。
「殿下、遂にこの季節がやってきましたなぁ」
「あぁ……やってきたなあ、少し緊張してきた…」
カインは晴れて十歳となり国立シークリー魔法学院に入学するための準備を進めていた。無論、入学するには受験をして合格しなければならない。王族だからと金とコネで入学できるほどこの世界は甘くない。カインは例の腰抜けエドワードと勉強の最終確認をしていたのだ。
「計算問題も完璧、帝国の歴史もしっかり身に付けておられます。後は殿下の魔法で学院が消し炭にならないことを祈るばかりです」
「僕がそんなことするわけないだろ…買い被り過ぎだ」
「買い被ってなどおりません…」
学院の受験科目は簡単な計算、帝国の歴史の記述問題、その他に魔法の実地試験もある。魔法学院なので、当然といえば当然なのだが。カインは五歳の時、既にLv6の【石槍】という魔法が扱えたためエドワードからもお墨付きを貰っていたのだ。
暫くすると僕を呼ぶ声が聞こえた。受験までにはまだ少し時間があるが早めに行った方がいくみたいだ。エドワードと王宮で別れ、階段を降りて庭に到着する。そこには父と母、護衛のシルフィー、使用人一同が並んで立っていた。見送りをしてくれるらしい。
「カイン、頑張ってきなさい」
「カイン君、頑張って頂戴ねぇ」
「皇太子殿下、いってらっしゃいませ」
「殿下、それでは参りましょう!」
両親に応援され使用人にも一斉に頭を下げられる。応援は必要ないが頭を下げられるのは非常に気分が良い。
シルヴォード王家の家紋が入った豪華な作りの馬車に乗り込み、ソファーにもたれかかる。内装もかなり凝っており長時間の移動でも全く苦にならないだろう。シルフィーはカインの向かいに座り、背筋を伸ばしている。
「殿下も学院に通われる日が来ようとは。なんだか感慨深いものがございます」
「お前とはまだ五年しか付き合いがないだろ」
「何をおっしゃいますか殿下!こんなにも立派になられて……」
「わかった、わかった。そう目をウルウルさせるな」
やがて試験会場である学院に到着し、カインは馬車を降りて辺りを見回した。学院は赤レンガ造りの建物で非常に美しく、壊しがいがありそうだある。人はそこまで多くないが、自分が注目されているのはよくわかる。しかし、特に気にすることなく一人で会場に向かう。護衛は会場内には入れないからだ。その後、受付にいた教師らしき人に受験票を見せる。
「はい、受験番号を確認しました。三階のA-1教室に向かって下さい」
教室は所謂ふつーのって感じであり、変わってることといえば黒板もレンガで出来ており赤板と呼べばいいのだろうか。
多くの受験生が集まってきだした頃、ツインテールの少女がこちらに一礼をして僕の前の席に座る。一瞬目が釘付けになるが、鐘の音が鳴り教師の合図で筆記試験が始まった。
問題自体はなんのこともない。
全てエドワードに教わったことばかりでさらさらと解答用紙に答えを書いていく。
次に、魔法試験場という場所に全受験生が集められた。教師の話によると、この建物には強力な結界が張られており、魔法が暴発しても、びくともしないんだとか。それなら僕でも全力で魔法を放てる最高の舞台である。
「受験番号三十五番の方こちらへ!」
「それではあの的に向かって魔法をかけてもらいます」
「わかった」
カインは一切の躊躇いもなく二十メートル先の的へむけてLv6【石槍】を放つ。すると、一本目の槍で的が粉々になり二本目、三本目は結界に吸い込まれていく。十本目を放ったあたりで結界に亀裂が入り始めた。すると、慌てた教師が何やら言ってくる。
「あっあわわわ、もう大丈夫です。魔法はしっかり見させ頂きましたので」
「いやぁ、まだ足りないだろう?まだ足りないと僕の中の僕が疼くんだ」
「いえ!もう充分ですので!」
「そうか、それならしゃあがないなぁ」
教師達はほっとした顔で次の受験番号を読み上げる。カインは残念そうな顔を浮かべて会場を出る。ズボンには中途半端なテントを張ったまま……。その後、カインが会場から出るまで喧騒が止むことはなかった。
それから一週間後、王宮にはカインが主席で合格した事が記された通知書が届けられた。エドワードの話によると筆記試験も実地試験も満点だったという。実はこいつが採点してるんじゃないかと疑わなくはないが。主席合格には特に興味を示さないカインは学院の制服を着こなし、今後の学生生活に想いを馳せるのだった……
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