第9話サイコパスと歴史とエッチ

 カインは珍しく真剣に授業を受けている。

 この授業は、「帝国の歴史と文化」である。カインは将来皇帝陛下になることが決まっているため、帝国のことは誰よりも深く広く学ぶ必要があるのだ。




 教師の指示に従い教科書をめくる。

 そこには、髪の少ない男が偉そうに玉座に座っている肖像画があった。下にはガルシア=フォン=シルヴォードと書いてある。どうやらこいつが初代皇帝陛下のようだ。初代はまず、各地に広がるエルフの里を一つにまとめ上げ、その勢力を拡大していった。初めは対立していた獣人やドワーフにも、ある程度の身分を保障し仲間に引き入れたのだ。最後に、人族同士で土地を奪い合っている所に横槍を入れ、動乱を収める。結果的に広大な地を有することになった。初代は自らを「皇帝」と名乗り、この地をシルヴォード帝国と命名したのだ。

 



 ここに至るまでに多くの小競り合いを含め戦争があったのだが、最も活躍した九人は後に「ブラックナイン」と名付けられた。そしてブラックナインは、帝国設立から今に至るまで五百年以上の間、この国を守り続けてきたのだ。




「こうしてシルヴォード帝国が出来上がったのだが、未だ安泰とはいえない。我が国の西にはアッカド王国が北には魔の森が、我が国にたびたび脅威をもたらしているのだ!」




 教師は決まった、と言わんばかりに腰に手を当て胸を張る。しかし、ズボンのチャックはしっかり開いている為、パンツが見え隠れるしているがそれを指摘する者は誰もいない。




 アッカド王国、この国はシルヴォード帝国の西に存在しており、帝国よりもやや早く誕生したのだが、長年シルヴォード帝国と小競り合いを続けてきた。まさに因縁の相手というやつである。また、この国は人族至上主義を掲げ、その地に居着いていた獣人やドワーフを問答無用で迫害したため、逃げるように東の帝国又は西の未開の地へ逃れていったという歴史がある。




 では何故王国と帝国の仲が悪いのかというと、王国はその地に残った又は、離れることが叶わなかった獣人やドワーフを強制的に奴隷にし、鉱山などで使い潰しているのだ。そのことに怒りを覚えた帝国が「解放」のために、ということは全くない。王国には金、銀、ミスリル等の資源が鉱山から多く産出するのだ。その資源を狙い歴代の「皇帝」たちは自分の長い寿命をいいことに、たびたび王国に対して戦争を仕掛けてきたのだ。




 戦争といえば、彼らを置いて他にはいない。先程も紹介したシルフィーも所属するブラックナインと魔法の専門家である魔法騎士団が存在する。ブラックナインには一人が五百人のブラックナイトを率いて日々業務にあたっている。九人の内の三人はブラックハウス(王宮)に控え、後の三人はアッカド王国との国境に、残り三人は魔の森の周辺で鍛錬を兼ねた国の防衛を果たしている。




 この際だから、魔法騎士団についても説明しよう。魔法騎士団とは魔法によって帝国を守る魔法のスペシャリスト集団である。「魔法帝」を頂点におおよそ千名が所属している。一見、人数が多いように思えるが、決してそんなことはない。三年に一度の試験では、何百人もの参加がいるが、合格するのはせいぜい五十人程度である。実は、カインの家庭教師をしていたエドワードも元魔法騎士団出身なので、かなりのエリートということになる。また、魔法騎士団に合格するためにこの学校に入ってくるものも大勢いるのだだ。




 今日の全ての授業が終了し、カインは自分の教室に戻る。そこにはツインテールの少女クリスが背筋を正して椅子に座っていたが、こちらに気づきお辞儀をしてくる。



「やっと授業が終わった。待たせたか?」

「いいえ、とんでもございません。私も勉強しておりましたので」



 昨日、クリスがカインに対して【魅了】の魔眼を使ったことが見破られ、カインは父親に告げ口をしない代わりに多額の賄賂とクリスの体を欲したのだった。


 クリスは学院指定のカバンから赤色のネックレスを取り出し、こちらに差し出す。



「何だ、この何の変哲もないネックレスは?僕は馬鹿にしてるのか!」

「とんでもございません、殿下。こちらは我が家の家宝といっても過言ありません。まずは付け頂きたく」



 カインは不機嫌そうな表情でクリスの手からネックレスを引ったくる。じっくりと眺めてみるが、怪しいものではない。そして、自分の首に掛けて暫くしても、何の変化も起きないため思わずクリスを睨みつける。



「お前、いい度胸だ。一族皆殺しにしてもいいんだぞ!」

「殿下、こちらをご覧下さい」



 クリスが鏡をこちらに向けてきた。

 そして、カインはそこに映った自分の顔をみて驚く。そこに居たのは、いつもの凛々しく端正な顔ではなく、どこかパッとせず情けない顔のヒューマンになっていたのだ。その他にも、体全体の肌の色も黄金から白色に変化している。



「なるほど、こいつは気に入った。これはいくつある?

「はい、全部で三つございます」

「全て寄越せ」

「承知しました」



 カインはこの別人になれるネックレスを随分と気に入り、三つ全てを首にかける。このネックレスを喜んだ理由には自分が「ハイエルフ」であるということに起因する。ハイエルフは、数千年、数万年に一度生まれるかどうかの貴重な種である。黄金の肌に凛々しい顔立ち、おまけに身長も普通のエルフに比べて高いのだ。今はカインもまだ十歳と少しなのでそこまで目立たないが、このまま成長を続ければ騎士が外を歩くだけで、明らかに目立つだろう。しかし、このネックレスを着けることで、背が伸びても唯の冴えないヒューマンとし見られる。これを付ければ街をぶらぶらできるだけでなく、兼ねてより興味があった冒険者活動もできるかもしれない。


 


「これで賄賂は充分だ。次はお前の体だな」

「お喜び頂けて光栄です。私の貧相な体でしたらどうぞいくらでも」




 カインは昨日と同じようにクリスの背後に立ち制服のスカート、そして真っ黒で地味なパンティーを脱がせる。




「お前は生理がきているのか?」

「せ、生理とは何ことでしょうか。」

「そうか、なら仕方ない」




 仕方ないとは言ってみたものの、カインは自分のズボンのチャックを開け自分のアレをだす。決して立派ではないが、真っ直ぐ棒状であり、成長見込みはあるだろう。しかし、未だ精通もしていない棒を生理もきていない穴にねじ込む。「で、殿下!これは何をしているのでしょうか?い、痛いです!」そんな悲鳴とはお構いなしに、カインは激しく棒を出し入れする。お互いに気持ちよさは存在しないが、クリスは泣き出してしまっているため、お仕置きとしては成功しているみたいだ。しかし、何も感じることができなかったカインは、面白くなそうに自分の棒をチャックの中にしまい制服を正し、カバンを持って教室をでる。




 残った少女は、痛みに打ちひしがれている。それを知ってか知らずか、晴れていた空はどんよりとした曇天に変わるのだった。ツバメたちも低い空を飛び続ける。





 



 


 

 

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