こんな田舎でも週末の夜の繁華街は通行人が多い。俺は若い連中やサラリーマンやOLが混在する人混みを縫って走って、小粋なホモカップルが教えてくれた喫茶店へ辿り着いた。幸いシャッターはまだ降りていない。

「『Cafe Pleiades』――カフェ・プレイアデスだって? あの夏、エイチがアルバイトをしていた喫茶店だ。まだ同じ場所で営業を続けていたのか――」

 俺は喫茶店の看板を見上げたまま動けなくなった。ノスタルジイが胸を締めつけて呼吸を忘れさせる。改装をしたらしい。外装も内装もあの夏に訪れたときと様子が違う。

 窓ガラスの向こうに気取ったウェイター姿のエイチもいない。

 俺の横にマヌケでお人好しのエムもいない――。

 過ぎ去ったまま二度と戻ってこない時間を確認してうつむいた。

 うつむいたままだ。

 カフェ・プレイアデスの扉を開けると、

「いらっしゃいませ」

 扉の内側についた鐘の音と一緒に、ボーイソプラノのような可愛い声が俺を出迎えた。

「あ、このおじさん、超イケメン――」

 レジの向こうで少女のようなウェイター君が俺を見つめている。

「君はウェイターの恰好だけど女の子なの?」

 俺が首を捻ると、

「ち、違います。ボクはちゃんとした男の子で――」

 ウェイター君は真下へもじもじ視線を惑わせた。ウェーブのかかった茶色い髪が赤らんだ頬にかかっている。小柄で色白で首も手足も細くて長い。本当に女の子みたいだ。

「へえ、でもそれってとてもいいものだよね?」

 俺はにちゃりと笑って見せた。

「あ、すぐ席へご案内します。おじさん、週末の夜にお一人様なんですよね――やたあ!」

 その美人ちゃんなウェイター君が俺の腕を取って小さくガッツポーズを決めた。ああ、美人ちゃんの身体はほんわかあったかいなあ。喫茶店でこんな席の案内方をされたの初めてだよ。風俗店ではよくある接客態度だよね。

「ミギャアアァ――!」

 掠れて割れた歓声が近くで上がった。そっちへ顔を向けると、丸テーブル席にいた女子会っぽい四人組が蜘蛛の子を散らすように目を背けた。ここだけは大昔にこの店へ来たときと同じだ。接客するのはウェイターだけでウェイトレスは一人もいない。客は若い女性が大多数。そこに男女のカップルもちらほら交っている。時間が時間なので女子高生の姿は――あ、学校の制服姿も結構いるね――。

「――いや、ゆっくりしていく時間は無かったな。ウェイター君、君の名は?」

「ボクはハヤトです。おじさんの名前は?」

「俺はエスだ。見ての通り今じゃ乞食まがいのリーマン稼業をやっちゃあいるが、その昔はァ――ああ、いや、見栄を切っている時間も無かった。ハヤト君、俺はお茶をするために暖簾を潜ったわけじゃないんだ。ケーキを買いにきたんだよ。この喫茶店はケーキの持ち帰り販売もしていると聞いたけど?」

「あっ、そうなんですか――でも、エスさん。ショーケースを見てください」

 ハヤト君は俺の腕を確保したままショーケースの前へ促して、

「見ての通り、ケーキの品数はもうほとんどありません。週末の夜はいつもこんな感じなんです。だから、席のほうでゆっくり珈琲とか軽食とかを――」

「残っているケーキは五つ。これで十分だ。ハヤト君、諭吉一枚こいつで残りを全部、包んでくれるか?」

「ぷぅいっ!」

 俺が突きつけた諭吉へ、ハヤト君は横向いてツンをした。

 何で店員さんがお客様とお金様に対してそんな冷たい対応をするのかよ――?

「――ハヤト君。これで頼むよ、ね?」

 カッとなった俺はハヤト君の首筋を諭吉でこちょこちょしてやった。

「あんっ、くすぐったい――はい、すぐお包みしますね!」

 ショーケースの向こうへ回ったハヤト君はニコニコしながらケーキを箱へ入れてくれた。ほーれ、どうよ、この通りチョロいもんだ。乞食まがいのスキルでも甘くみるんじゃねェって話だろ。俺という男はな。こんなふうに先方をその場その場で騙し騙して騙し抜いて、今日まで生き伸びてきたんだ。取り繕った態度だけのいい加減な生き方とか言うな。俺だって必死だ。

「えっひいっ、閉店間際に本日のベストカプ爆誕認定!」

「同意、まったくもってそれ同意っ!」

「イケおじ×美人ショタ――眼福ですなあっ!」

「お、俺を殺す気か。いや、むしろ殺せ、もう俺を殺してくれ、うぁあっ!」

 奇声が立て続けに聞こえたので顔を向けた。女子会の四人組は一斉に顔を背けた。あのな、女の子が一人称に「俺」を使うのはよくないぞ。若い女の子は特によくないと思う。男の子のハヤト君のほうがよっぽど女の子をしているだろ。見習え。

「――エスさん、エスさん。包装紙、どれになさいますか?」

 ハヤト君はショーケース上に包装紙の見本を並べている。

「随分とたくさんの種類があるんだね。どれにしようかなあ――」

「これなんかはどうでしょう?」

「んー、そっちより、この子猫ちゃんがいっぱいついたやつがいいかな」

「こっちの猫ちゃんのデザインも可愛いですよ」

「あ、猫ちゃんのついた包装紙は色々と種類があるんだ――これは迷っちゃうねえ――」

 ハヤト君と顔を寄せ合って包装紙を選んだ。腐女子会の連中がまた、どたばたぎゃあぎゃあやっている。俺は無視した。ハヤト君の髪はとてもいい匂いがするんだね。今は二人の時間を大切にしたい。邪魔するな。

 お土産のケーキを無事ゲットして喫茶店を出たところで、

「まったく、ハヤト君は若いのに古風な小細工を――」

 俺はうふふと笑った。レシートの裏側にハヤト君のスマホの番号が書かれている。振り返ると窓ガラス越しのハヤト君が顔を背けた。横を向いた美貌の頬がほんわか赤い。少し歩いたところでレシートを丸めて捨てた。持って帰って見つかったらエヌに浮気を疑われるだろうが。俺がした悪事の証拠は紙切れ一つ残さない。他人がした悪事の証拠はどんな細かいものでも保管して恐喝のネタにする。これが俺の生き方で、俺の仕事のやり方だ。

 俺はマンションへ走った。

 今は別の意味で、あのマンションが恐怖の権化になった。

 もし、エヌが俺に愛想を尽かしたら。

 もし、あの部屋にエヌがいなかったら。

 そうなったら、俺は、どうすればいい――?


 §


「――ただいまあ」

 そろっと玄関を開けると灯りが漏れてきた。部屋の真ん中でパジャマ姿のエヌが詰め将棋をやっていた。将棋盤に覆いかぶさるような姿勢で集中している。

 俺は溜息を吐いた。

 ところで、エヌの返事が無いようだが――。

「エヌ」

「エヌ?」

「エヌ、ただいま、帰ったぞ!」

「――あっ、エス」

 エヌが顔を向けた。俺が駒の動かし方も知らなかったエヌに将棋で勝てたのは三回までだ。めそめそ泣いて悔しがったエヌは将棋力の研鑽を始め、今では俺を軽くヒネるようになった。もうエヌが飛車角金落ちでも俺は敵わない。エヌはあらゆるゲームの天才で数字やPCにも滅法強い。エヌにひと並みの対人コミュニケーション能力があったなら、まったく違った人生を送っていたと思う。それは、たぶん、誰もが羨む才色兼備の人生だ。

「あのとき貰った腕時計のお礼にケーキを買ってきた。今日で俺たちは付き合い始めて一周年だ。えっと――エヌ、これからも、よろしくな」

「おぼえていてくれた――うふぅあぁ――」

 エヌは号泣する気配を見せた。

「違うよ。俺は馬鹿だから、ついさっきまで忘れていたんだ。今日は社食でエヌと一緒にお弁当を食べなきゃいけない日だったよな――」

 俺はビジネスバッグと一緒に下げているお弁当袋へ目を向けた。

「エス、わたしもケーキ買っちゃったお!」

 エヌが突っ立ってうわーんをしながらテレビの前のテーブルを指さした。ケーキの箱とシャンパングラスが二つ置いてある。俺の視界がぐらぐら揺れた。玄関先に手荷物を置いて何度も深呼吸した。

 自分の馬鹿さ加減で泣きそうだ。

 瞼を硬く閉じても涙を止められそうにない――。

「――俺が悪かった。ごめん、エヌ!」

 で、俺の渾身のハグは空ぶった。

 両方の肩関節が外れるかと思ったよ。

「おなか、減ってるよね。ふわふわたまごのいっぱい入った中華粥ちゅうかかゆ、エスは大好きだよね。これ明日の朝ごはんの予定だったけど今から作る。待ってて!」

 エヌの声が台所のほうから聞こえた。

「うん――確かに腹は減ってるけどお――」

 不幸中の幸いだ。エヌは台所でガチャガチャやっている。自分の痛めた両肩を抱いてうつむき震える無様な俺へは目もくれない。

 今夜は君の優しさが痛いほど身に沁みるよ。

 本当に、ありがとう――。

「――それで、お前はちょっと待て。自分が夜食を作ると言った傍から、エヌはどこへ出掛けるつもりなの?」

 俺は玄関のドアを開けようとしたエヌの手をとっ捕まえた。エヌは鍔広帽子をかぶってハンドバッグを肩に掛けている。パジャマの上からカーディガンを羽織っていた。エヌは外出時に必ず広い鍔の帽子を被る。自分の視界を狭めて、他人の視線が自分へ向いていることをなるべく知らないでいるためだ。これと同じ理由で前髪も不必要に長くしている。

「ケンタ忘れてた。今から買って来る。今日はエスとわたしの記念日だもん。記念日には、ケンタとケーキ、絶対に必要だもん――」

 エヌは身体をよじって踏ん張った。俺はそれを片手で止めている。余裕だ。部屋に引き籠るのが大好きな君の性質はよく知っている。それでも言わせろ。お前、運動不足だ。

「ああ、うん。その気持ちはすごく嬉しい。でも俺はエヌの作る料理が大好きだし、それだけで十分だから――おい、ケンタいらないってば、こらっ!」

 俺はエヌの両肩を掴んで強引にこちらへ向かせた。

「むう」

 エヌは右へそっぽを向いた。

「エヌ、俺の言うことを聞いてくれ」

「むう」

 エヌは左へそっぽを向いた。

「エヌ、返事!」

「――あはぁい」

 エヌは真横を向いたままクソみたいに無気力な返事をした。

「ちゃんと聞きなさい。俺は今から風呂へ入る。エヌは俺が風呂から出るまでに夜食を用意する。二人で一緒に夜食を食べる。そのあと俺とエヌは、もし赤の他人に知られたら恥ずかしくてお互い自殺したくなるような狂おしいセックスをする。今夜は寝かさないぞ。二人の朝までの予定はこうだ。風呂から上がったときエヌが部屋にいないと、俺は腹ペコのまま一人エッチをして寝落ちする羽目になるだろ。だから、エヌはすぐ夜食を作らないとダメ。ケンタを買いに行っている暇は無い。そもそも、夜の十時過ぎだ。ケンタのお店はもう閉まってる。これで、納得できた?」

「――エスってほんとうにほんとうのヘンタイっ!」

 エヌが叫んだ。顔が真っ赤だ。俺の顔にかかる彼女の吐息が熱くて甘い。怒っているのか性的に興奮しているのか判断しかねる態度だった。

「エヌは、あくまで俺だけが、エッチ大好きなヘンタイ扱いなのか?」

 俺は呆れ顔だったと思う。

「そんなの知らない。エスは、はやくお風呂へ入ってきてよね!」

 エヌはツンデレキャラみたいな物言いで吐き捨てると台所へ戻った。俺はエヌが買ってきた大きなケーキの箱の横に、自分が買ってきた小さなケーキの箱を置いた。こうすると、舌切り雀の昔話に出てくる大きなつづらと小さなつづらのようだった。

「あ、俺のほうはケンタを買ってくれば丸く収まったな――」

 俺は苦笑いで風呂場へ足を向けた。





【♂】自主規制【♀】





 土曜の午前七時の五分前。

 枕元でスマホが震えた。手に取ると通信アプリ経由で子会社の連中からゴルフのお誘いだ。誘ってきた面子は、スーパーマーケット事業部の営業本部長、総務部長、若い社員一名だった。

『ねえねえ、エスちゃん、エスちゃん! 面子が一人、都合が悪くなっちゃったのーん。今から一緒にゴルフクラブで遊ばなーい?』

 先方から届いたメッセージはそんな建前だけど――。

「――もう再編提案の件が外へ漏れてるな」

 俺はスマホへ唸り声を聞かせた。あの八方美人の大嫌いな先輩がまたどこかしらで歌いやがったのか、向こうから探りを入れて知ったのか。何にしろ、俺はこの事業部から直接ヒアリングをする予定だった。やるのが早いか遅いかだ。現行の案件に絡んでいるし、これは断れないほうの遊びの誘いになるよなあ。このゴルフをしながら打ち合わせを提案してきた営業本部長は子会社のほうの肩書が専務になる。俺が入社した当時は、スーパーマーケット事業西エリア部長だったね。

 初めて顔を見せたときは、

「はぁん、Fラン大卒の中途コネ入社あ? 中途ってことは元ニートだよねーん。あ、やっぱりそうだよねーん。天皇一家(※この場合は天皇=創業者)経由のコネ入社じゃないのーん? そうじゃない。確かに間違いないねーん? ふへーん、で、この生ゴミクズの切れっぱしは、いーつ会社を辞める予定なのーん。Fラン大卒の元ニートが経営企画本部のハードな頭脳ワークに耐えられる可能性って限りなくゼロに近いよーん。ねえねえ、君自身もそう思うよねーん?」

 こういう舐め腐った態度で応対された。

 あれから十一年後の今となっては、

「ねえねえ、エスちゃん、エスちゃん。俺のお仕事のお悩みを聞いて、ねえ、お悩みを聞いてよーん! エスちゃんと俺は、なっがーい長い付き合いじゃないの。んっもう、この、いっけずう!」

 こんな感じで媚びへつらってくる。最近の俺は社内で接待される側が多くなった。経営企画本部はK社グループにある全事業の裁断提案も任されている。その手の提案が万が一にでも役員会を通ると企画という名の天雷に変わって系列下へ降り注ぐ。各事業部の長が戦々恐々の態度になるのも当然だろう。今の俺はK社グループの破壊と再生を司る神の使徒なのだ。まあ、事業部が本当に恐れているのは、俺の後ろに控える御本尊――アールさんだけどね。あのひとが直々に動くと対象の事業部で破壊の嵐が吹き荒れる。この後片付けを――再生をするのは使徒のお仕事だ。

 そのときの不動産事業部のクライマックスになる。

 アールさんの苛烈極まりない個人攻撃――いや、責任追及に追い詰められて、便所で首を括り損ねた営業部系列下の課長が、すばしっこいゾンビのような動きで追いすがる同僚を振り払いながら、シャカシャカシャカーッとフロアまで――その手に大きいサイズのカッターナイフが――課長は大気を叩き割るような奇声を上げると、刃の先をアールさんへ向けて――アールさんが課長の膝へハイヒールの踵を叩き込んだのと、俺がとっさの判断で近場のPCモニタを課長の頭へ叩きつけたのは、ほぼ同時――女子社員の悲鳴と男の社員の怒号が交錯する――。

「――その刃物で貴様自身の腹を割って見せてくれるものだと期待したのだが」

 アールさんは血の海に沈んでピクリとも動かなくなった課長の背中へ吐き捨てて踵を返した。

 眉一つも動かさない。

 フロアは水を打ったように静まった。

 俺だってマジで何も言えなかった。

 ここらでやめだ。

 この後日談は、いくらなんでもグロすぎるから――。

「――んにゅ。エスは土曜日もお仕事だったの? 予定表には無かったよねう」

 爪を噛んで身を震わせる俺の横でエヌの眠そうな声だ。

「うん、朝からゴルフのような仕事が飛び込んできた。ああ、行きたくねェなあ。同じ金を使う玉入れならパチンコのほうがずっとマシだろ。そう疲れるものでもないし、稀には投資した金が戻ってくることもあるしでね。先方はまだ俺のことをゴルフマニアだと思い込んでいるからな。本当は真逆だっつーの。いい加減に気づけってーの。察しの悪い奴を仕事の相手にすると面倒くせェよなあ――」

 ぷぁあと猫みたいな欠伸をするエヌをベットに残して冷蔵庫を開けた。

「エス、朝ごはん食べていって」

 ぱたたっとエヌの素足の音が台所まで移動してくる。

「いいから寝てろよ。朝食なんて、トマトジュースで十分だ」

 トマトジュースの缶と一緒に振り返ると、

「ダ、メ」

 裸エプロン姿のエヌが俺の手からトマトジュースの缶を取り上げた。

 もう一度言う。

 裸エプロンだ。

「す、すぐにトマトジュースを返しなさい。先方は三十分もしたら迎えに来るって。朝食を用意している時間はもう――!」

 俺は後ずさりをした。距離を取らないと彼女の神々しい全身を拝めない。エヌは冷蔵庫を覗いている。裸エプロンでだ。その後ろ姿が、どうなっているか、男性諸君なら絶対にわかってもらえると思う。この光景を幼い頃から何度も何度も夢に見てきた。この無上に愛らしいエヌとずっと遊んでいたい。休日は顔を見たくない会社の野郎だらけの接待ゴルフなんて行きたくない。

「エスはたべものを大切にしろって、いつもいつも、わたしに言うし――きーめた。今日の朝ごはんは、エスのだいすきなもったいない精神だぞ、どーん!」

 エヌはケーキの箱を台所のテーブルへ置いた。これエヌが買ってきたやつだ。昨夜はケーキがダブったからまるっと残ってる。直径三十センチ前後。生クリームを塗りたくった土台の上に糖蜜で煮た木苺がどっちゃり乗っていた。エヌに訊くと、これでもチョコレートケーキらしい。

 へえ、この西洋甲冑フルプレートアーマーのような甘味のなかへ、さらに甘味を装填してあるのかよ――。

「――朝っぱらから、この馬鹿でかくて甘ったるそうなケーキを食っていけってか。なあ、エヌはマジで言ってるのか? おじさんへの冗談とか嫌がらせじゃなくてか?」

「おいしー!」

 ケーキを切り分けていたエヌが指についた生クリームをちゅっちゅっした。

「うん。今朝の珈琲はブラックで頼む」

 ケーキじゃない。裸エプロンがちゅっちゅっする姿に負けた。普段の俺は珈琲に砂糖もミルクも少し入れる派だ。

 で、やっぱり朝からケーキは酒で弱ったおじさんの胃腸に重かった。

 ゴルフを終えて先方の面々とビールを飲んだら吐きそうになった。寝不足や過労もある。ふらふらだ。夜の宴会を断って夕方に帰宅するとエヌからすごく心配された。俺の顔色が極端に悪いのはお前のせいだ。それを言えなかった。ベッドへ横たわると即座に意識が途切れた。

 意識が回復した日曜の午後は、PCデスクでちんたら仕事の資料を作りながら、エヌと熱心にいちゃいちゃした。裸エプロンプレイの要求も強くした。拒絶された。改めて考えるとすごく恥ずかしかったから、二度とやってくれないんだって。ちくしょう、何なんだよ、男心を弄びやがってな。何度でもやってくれよ頼むから。俺とエヌの休日はここ一年ずっとこんな感じだ。

 お互い、よく飽きないものだなと感心するしかない。

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