第2話 観測ステーション
原因不明の行方不明者が発生すれば、当然のことだった。カイル・リードはまだ発見されない。手がかりとなる痕跡すらもない。
カイル・リードの死亡事故・蘇生報告が
参加研究員は
研究員の大半は、すぐに
残った者は、真の研究馬鹿ともいえた。
カイルが失踪前に探索入手した情報が膨大で、研究者にとっては宝の山に等しかったからだ。
ディム・トゥーラは残務整理を口実に残留を選択した。
エネルギー供給の最小化により、二つあった住居区の一つは完全閉鎖になり、残留者は片側への引越を余儀なくされた。ディムは自分の移動をすませると、カイル・リードの
ディムは床に腰をおろし、カイルの私物を仕分けて保管ボックスに放り込んで行く。
カイルの私物は少なく、ほとんどが絵の道具だった。イーレが主張する非電脳で非効率な道具は、逆に希少でこの時代では高額なものばかりだった。これが自動処分されていたら、戻ってきたカイルが嘆くだろう。
部屋の専用端末には、膨大な書籍情報が残されていた。
よくもこれだけ集めたものだ――と、ディムは感心して、これも保管ボックスに放り込んだ。
作業を続けていると、部屋に小柄な女性が現れた。
「帰らないのね」
「イーレこそ」
「帰れば他の仕事を押し付けられるじゃない」
「サボりか」
「
「移動させないと廃棄対象になるじゃないか」
「彼が帰ってきた時のため?」
「……」
イーレは
「……見てないで手伝ってくれ」
「子供に力仕事を期待しないで」
「……俺よりはるかに年上のくせに」
ボソっとつぶやくと今度は頭をはたかれた。これが禁句であることは周知の事実である。
「で、帰らないの?」
「……帰る気がしない」
ディムは本音をもらした。
「俺はカイルの最後の
「まあ、
「他の
「貴方もカイルも世の中の平均が何か学ぶべきだわ。自分を基準にしないの」
イーレがやんわりと
「ディム、
あの日とは惑星探査の日のことに違いない。ディムは不意打ちの指摘にたじろいだ。
「あの日の
「所長がカイルを使おうとしていることは予想していたが、あの日に探査するとは思わなかったんだ。俺に
「カイルしか
「あげくの果てに
「そこは『カイルが心配だった』でいいと思うわよ?」
「――」
ディムは視線をはずした。
「……こんな後味の悪い
「私も地上に降りなくていいから行けって依頼は初めてよ」
「イーレの専門は先住民文化だったか?」
「そうよ」
ディムは何か違和感を感じた。
にや、とイーレは笑った。出来の悪い生徒が解答にたどりつくのを待つ教師のようだった。
「……
「はい、正解」
「まてまてまて」
ディムは
特異な条件と言えば、辺境だったため、参加は家族のいない単身者に限られた。皆、独身で例外は妻帯者であるエド・ロウぐらいだろう。参加希望者は多かったがこの条件で多数振り落とされて、選抜試験でさらに絞られた。
活動拠点となる観測ステーションはすでにあり、探査の結果しだいでは、長期滞在を強いられることだけを了承させられた記憶はある。
「――ここは初めての探索のはずだ」
「なんでそう思うの?」
「探索記録がないからだ」
「探索記録がないと初めてなの?」
「
ディムは軽く口をあけた。考えられるのは、記録の抹消。
「……いや、そんな馬鹿な……何か証拠でもあるのか?」
「ないわよ」
ディムはがくりと脱力した。
「全部イーレの推測の
「でもね、
「まさか」
「1日で惑星探索中止の結論を出すのが早すぎるの。探査で行方不明者や死亡者がでることは珍しいことではない。それは予想されている織り込み済みのリスクなのよ。それなのに、容赦なく中止になった」
「――」
「そしてもっと奇妙なのは、残留を認めたことよ。惑星探索の中止は全員撤収が原則よ」
「急な中止で各研究員の
「私も過去に多数参加して中止は経験しているけど、そんなお情けを
「他に理由があると?」
イーレはにこりと微笑むことで肯定した。
「それならカイルが生存している可能性があるからであって――」
「どこで生存していると思う?」
可能性は一つ。ディムは指で地面を指した。
「正解」
「移動装置は使用されていない」
「そうね」
「あいつが降下する理由がない」
「そうね」
「あいつが地上にいると?」
「だって、カイルが死んでいたら、絶対に貴方はわかるでしょ?」
「――」
そうだ。納得のいかない
イーレの指摘は正しい。ディム・トゥーラには自信があった。身近でカイルが死んでいたら、必ず何かを察知するはずだ。
「観測ステーションにはいない、
「だったらなぜ救援しないんだっ!」
ディムは
「
「どこを?」
ぐっと返答に詰まる。
「生死も現在位置もわからずに接触禁止の文明の中でどうやって探すのよ」
追い打ちをかける正論にディムは舌打ちした。
「
予言者のようにイーレは告げた。
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