奥田大尉の結末

息を切らしながら男は走った。陸軍軍人として戦い、研究成果を使い国家転覆をはかる。国を破壊し見限ってきた連中に思い知らせる。


自己中心的で誰よりも救えない奥田大尉は基地から抜け出て市内の路地裏で膝に手をついて肺に酸素を送り込んだ。


「エビルガーデンの力をひたすらに借りるしかない、陸軍も使えない以上僕にはそれしか逆転の道はない!」


多くの関係のない一般市民や自らの中隊の部下を犠牲にしてきた男はそれでもなお世界を破滅に導こうとする組織の力を頼ろうとする。


他責的でありナルシズムの塊である奥田大尉は再び立ち上がり新たなるテロ計画を練り直そうとした、そこへ―――


「!!!」


心臓を綺麗に一本の刀が貫き彼を離れた壁際に叩きつけてくる。その力の強さは計り知れず一人の男が目の前に現れ刃を突き立ててくるのに対して反抗することもできず溢れてくる血の味をかみしめながら、清水 総一郎の双眸に目を合わせた。


「ああ…つええな、お前は、本当に。ムカつくくらい強いじゃないか」


「奥田大尉、あんたの犯してきた罪はあまりにも重い」


「綺麗事ばっかりほざきやがってよぉ…史実通り、イライラさせるやつだったよ、清水」


「これが、レンジャー小隊の思いだ」


突き刺した刀を横に捻り完全に心臓を潰しきる。目を見開いたまま、奥田大尉は呆気なく死亡する。


冷酷に、元中隊長の死んだ姿を見て清水は下がった。これで、因縁の戦いは一つ終わり、多大なる犠牲を払った市内の暴動に対する一つの責任を果たすことができる。未だ残るだろうウィザードにより構成された世界最強のテロ組織の次なる攻撃目標は読めなどしないが清水は何をするわけでもなく数歩下がって息絶えた死体を見て思うのだ。


この果てに何を得るのか、と。


「私、戦うよ」


清水に追いついたのかエヴァは彼に決意を告げる。


「ああ」


「清水も一緒に戦ってほしい」


「…わかってる、これは、因縁だからな」


自らの記憶に潜む深い闇は未だ奥が深く彼にとっての責任は果てがない。奥田大尉を殺したところでこんなものは一つの結末に過ぎずアダムと呼ばれた男のとどめを刺すことが清水にとっての呪であり宿命になるのだ。


「いいや、違うよ」


「なに?」


「これが自分で考えた結果だから」


「?」


「だから、伝説の日本兵だから、なんてことじゃないよ」


清水はよくわからなくなった。


「お前、何を…」


「あんたの過去や経歴じゃないの。清水だからだよ」


「それって…まさか」


無邪気に笑う彼女を前に、清水は唖然とした。


なんてことだと呆気に取られるのだ。


一人ぼっちで戦い続けた。


機械のような人生だった。


彼は日本のため世界のため、苦しむ民のためにあった人生の長い戦いは、結局一つの幸せを得ることもできなかった。


だがどうだ?


半世紀以上を超えて、ようやく彼は得たのだ。


1つの、小さな幸せを。

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