第24話 竜の眷属の力

「ふあぁ……そろそろ寝なきゃヤバいわね」

 そう提案するシェリーは一目で分かる程に疲れと眠気でぐったりとしていた。

 カインとリリィも疲れの色は隠せず、アネモネに至っては既に横になり寝ていた。

「そうだね。火の番兼見張りを交代でしながら」 

 ズンッ!

「グオオオオ…………」

 突如、重々しい足音と唸り声が響き、楽しげな雰囲気は一瞬で吹き飛び緊張が走る。

「ッ!?」

「は!?」

「ウソでしょ…………」

 四人が唸り声のする方向を見ると人型の、しかし人間離れした大きさの魔物が歪に歪んだ棍棒を振り回しながら二体並んで近づいて来ていた。

「あれはトロルという魔物だね。結構有名な魔物だよ」

 傍らに置いていた剣を抜き放ちつつカインは呟く。

「名前くらいならアタシも知ってるわ。結構デカいわね」

 トロルとは人と比べると圧倒的に知能が低く、動きは鈍重だががその凄まじい力と頑丈さは凄まじい。

「ふぇ……?なに?」

 ようやく目を覚ましたアネモネだが訳の分からないままにトロルとの戦いが始まる。

「でえやああああ!ってえ?」

 カインは剣を力の限りトロルの腕目がけて横薙ぎに振るう。

 剣はトロルの大木の様に太い胴体を両断し、一瞬でトロルの命を奪った。

「は?…………え?」

 自身がやったのだがあまりに予想外の事にカインは呆気にとられ立ち尽くす。

 一撃で倒すならば運が良ければ不可能では無いが文字通りの一刀両断なんてカインの腕前では流石に普通では無い。

「カイン!後ろ!」

「フグォオオオ!」

「おわあ!?」

 立ち尽くすカインに棍棒を振るおうとするもう一匹のトロルに向けてシェリーは杖を突き付ける。

「ファイアボルト!」

 杖の先から飛び出た火球はトロルの背中へと当たり、弾けた火球は燃え上がりトロルの全身を火達磨にするどころかカインすら巻き込んだ。

「あちちち!」

「グオオオオ!…………オオオ!…………オオ……オ……」

 カインとトロルは地面をのたうち回る。

 直撃した訳でも無いカインは肩から先が燃えて火傷程度で大事にならずに済んだが全身を炎で包まれたトロルは激しく焼かれ、動かなくなくなり火が消えた後のトロルの全身は真っ黒に炭化していた。

「な、何よコレ?」

 シェリーは明らかに異常な威力の魔術に冷や汗をかく。

 小型の魔物であれば兎も角、トロル程の巨体であれば背中を焦がす程度で皮膚を焦がして怯ませるのがせいぜいな筈だ。

 戦いは呆気なく終わる。

「カインさん!すぐに治癒の奇跡…………を……?」

 カインへと駆け寄って治癒の奇跡を施そうとするリリィにもおかしな事が起きた。

 詠唱を始める前から治癒の光が溢れ出てカインの火傷を跡形無く治した。

「あれ?」

「カイン!大丈夫なの!?って何それ?」

 駆け寄るシェリーとカインはその異様さに首を傾げる。

「わ、分かりません。治癒の奇跡を施そうとしたら既にもう…………それにここまで跡形も無く、しかもほんの少しの時間で」

「普通じゃないよね。何でこんな事に」

「何でって心当たりなんて一つしかないでしょ」

 三人はアネモネの方へと振り返る。

「少し元気に、ねえ?」

 シェリーは物言いたげな視線を向けながら言う。

「あ、あはは……。ほら、私も始めてで良く知らなかったしそれにドラゴン的には少し……かなあ〜て?」

「危うくカインを丸焦げにしかけたのだけれど?」

「ご、ごめんなさい〜!」

 言い訳しようとするアネモネだが責める様な視線に耐えきれず早々に謝る。

「まあまあ、知らなかったなら仕方ないよ。リリィの奇跡も凄くて跡形も無く治っちゃったし大丈夫さ」

「うぅ……カインくんごめんね?」

「加減が分からない内は迂闊に動かない方が良さそうですね。竜の力…………凄まじいです」

「まあ強くなれる分には良いわ。それはそれとして先に知っておきたかったけれども」

「ご、ごめんね……」

「ねぇ、それより早く休もうよ?流石に疲れたよ」

 一瞬とはいえ火傷を負ったのもあり、カインは提案辛そうに言う。

「そうね。見張りたてて交代で寝るわよ」

 四人はアネモネ、シェリー、リリィ、カインの順番で見張りを立てながら寝る事にした。

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