第18話 眷属の刻印①

「な、な……に?」

 眩い光に固く目を閉じていたシェリーだが一向にそうならない事に気付くと恐る恐る目を開ける。

「シェリー…………無事かい?」

「アタシ達まだ生きてるの?」

「お、おお、お二人共…………上を」

 リリィは頭上を見上げ震える手で何かを指し示す。

「上がどうかしたのかし…………ら……?」

「へ?いったい何…………が……」

 シェリーとカインもリリィの指し示す方向を見上げると動きを止める。

 三人の頭上には漆黒のドラゴンと比べると何まわりも小さな、白い鱗を持つドラゴンが覆い被さっていた。

「なん…………で……?」

「ドラ……ゴン…………?」

「あ……ああ…………あ」

 三人は突然の二匹目のドラゴンの出現に理解が追い付かず呆然とする。

《三人共大丈夫だった?怪我とかしてない?》

「この声………………」

「これはアネモネ…………さんの声?」

 その声は確かにアネモネの声では有ったがドラゴン特有の念話による声だった。

「アネ…………モネ!?もしかしてこのドラゴンって……」

《おい…………何してやがる?》

 漆黒のドラゴンの不機嫌そうな声が響く。

《何するかなんてこっちのセリフだよ!シェリーちゃん達に当たってたらどうするの!?》

《俺様の事を広められたら命知らずの馬鹿な人共がうじゃうじゃ湧いて俺様の至福の眠りを妨げるからな。俺の縄張りに入った奴が悪い》

《ここが貴方の縄張りなら刻印をしっかり刻んでおいてよ!刻印の気配が全然感じ取れないんだけど!?》

《刻印なんぞしたらジジイに気付かれるだろうが!それを言うならテメェだってそいつ等に刻印してねえじゃねえか!手を出すなってんなら眷属にしてから言え!》

 漆黒のドラゴンは口を開き再び口の中で魔力を圧縮させ始める。

 今度はアネモネも無傷では済まない程に大きな魔力を込められており、シェリー達を庇う事は不可能だ。

《ウソ!?ドラゴン同士で戦うのは掟で禁止だよね!?》

《死なねえ程度なら問題ねえだろ。眷属でもねえただの人を始末するのをテメエが邪魔してるだけだ》

 そうこうしている内にどんどん魔力が圧縮されていく。

《くっ…………!こうなったら!》

 アネモネは目の前のドラゴンを止められる唯一の手段を使う事を決意する。

 アネモネの身体は光に包まれ縮んで、そのシルエットは人の形へと変わって三人の近くへと降り立つ。

「ごめんね!」

「は?なにをいきなり……いい!?」

 アネモネは人の姿で一番近いシェリーへと迫り口づけしようと迫るがシェリーは咄嗟に顔を背けたので首元へとアネモネの唇が触れた。

「熱っ!?いきなり何すんのよ!?」

 シェリーは口づけされた首元に熱を感じて驚き後退る。

「ごめんなさい!この方法しか無いの!」

「ほえ?…………あう!?」

「ちょっ待っ!?…………あちちっ!?」

 呆然としているリリィは無抵抗に頬と口づけされ、カインは咄嗟に腕で防ごうとするがアネモネは構わず顔を庇っていたカインの手首へと口づけする。

 三人の口づけされた場所には花を象った模様が光り、浮き上がっていた。

《ああん?…………マジかよ》

「これで三人は私の眷属だよ!手を出しちゃダメ!」

《フンッ…………》

 圧縮され、今にも放たれそうな魔力の塊が霧散していく。

《やってくれたな》

 口を閉じた漆黒のドラゴンはアネモネを見下ろし、睨み付ける。

「私の眷属に手を出す気ならおじいちゃんが黙って無いんだからね!」

《分かったよ。ジジイには俺様がここに居る事をバラすんじゃねえぞ?いいか?絶対にだぞ?》

 漆黒のドラゴンは引き下がり念を押す様に言う。

「おじいちゃんと何か有ったの?というか貴方が誰で何で隠れてるのかも何も知らないんだけど?」

《あ?………………見た感じかなり若そうだし俺様の事は知らねえか》

「有名なの?」

 アネモネは首を傾げる。

《俺様の名前はノワール、それ以上は知る必要はねえ。見逃してやるから絶対にジジイには言うなよ?んじゃ俺は寝るからさっさと出て行け》

 ノワールと名乗った漆黒のドラゴンはアネモネ達への興味を無くし背を向ける。

 アネモネとシェリー達三人のみがその場に取り残され沈黙が続く。

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