第17話 黒竜

 ポーションを飲んだ三人は肉体の損傷や疲労が完全回復には程遠いが何とか動ける程度には回復した。

「アンタが居なかったら今頃溺れ死んでたわね。助かったわ」

「アネモネには感謝してもし足りないね」

「ありがとうございますアネモネさん」

「あ、いや…………その………………そもそもこのじ状況はたぶん私が……………………」

 坑道を揺らした者とその理由に少しの心当たりが有るアネモネはシェリー達からの感謝の言葉に申し訳無さそうにする。

 自らの正体を明かさねば説明する事も出来ず、アネモネは言葉に詰まる。

《なんの用だ?》

 なんとか上手く説明出来ないかと頭を悩ませているとアネモネ達の脳に直接響く不思議な声が聞こえてきた。

「なに今の!?」

「念話の魔術でしょうか?シェリーさん、何か分かりますか?」

「アタシの魔術は独学でひよっこなんだからさほど詳しい訳でも無いっての。でも確か念話の魔術は複数人に届かせるにはすぐ近くで使わないと出力が足りない筈よ」

「じゃあ今の声はいったい…………」

「さあね」

 シェリー達が戸惑う中でアネモネは黙り込む。

 この声の主は知らないがこの普通とは違う言葉の発し方はアネモネ自身も使うのですぐに分かる。

 膨大な魔力を用いて遥か遠くだろうとどれだけ多くの相手にでも念話を送るそれは声帯を持たないドラゴン特有の意思疎通の手段だ。

「この声ッ!やっぱりドラゴンなんだね。揺らして私達を落としたのも!」

 アネモネは怒りを滲ませた言葉と視線を壁へと向ける。

「ド、ドラゴンだって!?」

「アネモネ!?急にどうしたのよ!?」

「アネモネさん!?いったい何が!?」

 アネモネの言葉に三人は訳が分からず慌てふためく。

《何の用だって聞いてるんだろうがあ!》

 怒気を込めた念話と共にアネモネの睨む壁を突き破って漆黒の鱗を持つ巨大なドラゴンの頭が飛び出てくる。

「あ……あ…………ああああああ!!??」

「ひぃいいいいい!!??」

「ぎゃあああああ!!??」

 シェリー達は突然のドラゴンの出現に揃って腰を抜かし叫ぶ。

《ああん?なんだコイツら?》

 ドラゴンはシェリー達の方をじろりと見下ろし眺める。

《寝起きにやかましい………………片付けるか》

 漆黒のドラゴンは大きく開けた口をシェリー達の方へと向ける。

「あっ…………危ない!」

 その口に魔力が収束しているのに気付き、アネモネは駆け出す。

 同じドラゴンであるアネモネにはこの後どうなるかは瞬時に理解出来る。

 ドラゴンブレス。

 竜の息吹とも呼ばれるそれはドラゴンの象徴とされる攻撃方法だ。

 ドラゴンの膨大な魔力を圧縮して放つだけのごく単純な仕組みの技だがあらゆる存在を跡形も無く消し飛ばす。

 それに耐えられるとしたらそれはドラゴンくらいだろう。

 漆黒のドラゴンの構えているそれは全力には程遠く、ごく僅かの魔力しか込められていないがシェリー達を消し飛ばすには充分過ぎた。

「この姿じゃ……!」

 アネモネは今にも放たれそうなドラゴンブレスの射線上に立つが、人の姿では背後の三人を守る事は出来ない。

 アネモネ自体は傷が付くかどうかも怪しいが、辺り一帯を消し飛ばすドラゴンブレスを阻むには面積が圧倒的に足りない。

 そして圧縮された魔力は解き放たれ、全てを消し飛ばす光が解き放たれた。

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