第12話 挑戦①

「では私めは店じまいをしなければならないのでこれにて失礼します」

 店主は楽しげに店じまいへと戻る。

「無事に予算内で買えましたし明日からの採掘も問題無いですね」

「うん。でもこんなに値下げして貰って良かったのかな?」

「なんだかご機嫌だし儲けは出てるんじゃないかな?それより装備を新調したお祝いにいつものお店で乾杯しよう!」

「何かにつけて乾杯したがるわね。てか酒を飲むのはアンタだけでしょうに…………」

 時間は掛かったがカインの新しい剣を買う事が出来たアネモネ達はいつもの食堂、いつもの宿で英気を養った。


 そして翌日。

 カインの剣を無事新調し、アネモネ達はいつもの様に魔石の採掘へと向かう。

「でやああ!」

 カインの叫びと共に振られる剣は魔石に引き寄せられる魔物を次々と切り捨てていく。

「カインったら絶好調ね」

「新しい剣を手に入れて嬉しいのでしょうね」

 殆ど出番の無いシェリーとリリィは周囲を警戒しつつその様子を見ていた。

「はあ…………はあ……」

 近くの魔物を全て倒したカインは地面に突き立てた剣を支えにして立ち、息を切らしていた。

「大丈夫?無理しちゃダメだよ?」

 アネモネは心配そうにカインへと駆け寄る。

「……ごめん…………少し頑張り過ぎたかも」

「調子乗り過ぎた様ね。また魔物が寄って来る前に一旦休憩するわよ」

「うん……そうしてくれると助かる…………」

 カインの息が整うのを待ってアネモネ達は開けた場所で腰を下ろし休む。

「お水飲む?」

「ありがとう。んぐっ」

 腰を下ろしたカインへアネモネは水筒を差し出し、カインはそれを受け取り一気に飲み干した。

「だいぶお疲れのようですね」

 リリィとシェリーも近くへと腰を下ろす。

「前の剣よりも重たいからかな?身体が慣れるのに少し掛かるかもしれないね」

「単に新しい剣ではしゃぎ過ぎただけじゃないかしら?」

「ははっ……そうかな?いや、そうかもしれないね」

 それを買うしか無かった時と違って自らで貯めた金で自らで選び、使い古しでは無い自分だけの剣にカインは内心ではかなり嬉しく思っていた。

「でも剣を変えただけでここまで変わるとは思わなかったよ」

 今までは何度か打ち込まなければ倒せなかった魔物も前の剣とは比べ物にならない切れ味と幾分か増えた重量によってどの魔物も一撃で倒せている。

「嬉しい誤算ね。魔石の採掘も随分慣れて来たしカインが新しい剣に慣れたらもう少し奥まで進んでみないかしら?」

 シェリーは真剣な表情で提案する。

「しかしそれは……」

 リリィは言い淀む。

 それは質の良い魔石が大量に有る場所で採掘するという事でその分魔物の数も増えるという事だ。

 この街に来た日の三人で欲をかいて大量の魔物に囲まれ死にかけた事を嫌でも思い出させる。

「今のままでも稼ぎは充分…………だけど冒険者としてはもっと上を目指したいわよね」

 カインも初日を思い出して苦々しい顔になるがシェリーの提案に賛成する。

「私は皆が行くなら着いてくよ?」

「アネモネさんまで…………」

 自分以外乗り気でリリィは更に頭を悩ませる。

「アタシだってあの日の死にかけた事は忘れちゃいないわ。誰か一人でも反対するなら行く気は無いしそれを責める気は無いわよ」

「リリィ、僕がこの剣に慣れるのに何日かは必要だろうし今すぐ決める必要も無いよ」

「うぅ……」

 シェリーとカインはそう言うがそれが余計にリリィを悩ませた。

「ま、行かないってならもう少し稼いで別の街で冒険者ギルドの依頼でもやって実績を積むべきだと思うわ。私達の夢の為にも比較的安全な場所で魔石を採掘し続けるわけにもいかないし」

「そうなったらシェリーちゃん達とお別れになっちゃう?」

「そりゃ一時的に協力してるだけなんだしそうなるわね?」

「そんなぁ……」

 アネモネは俯き目に涙を浮かべる。

「カインの言う通りゆっくり考えれば良いわよ。さ、魔石の採掘を続けるわよ」

「待ってください!」

 休憩を終えて立ち上がろうとするシェリーをリリィは慌てて引き止める。

「坑道の奥へと挑むのは条件付きで賛成します!一つは万が一私が奇跡を使えない状況に陥った時に備え人数分のポーションを用意!二つ目は一人でも状況に不安が有れば直ちに撤退する事!三つ目は非戦闘要員のアネモネさんの無事を何よりも優先する事です!」

 リリィは声を大にして一息に条件を言い並べ暫し沈黙が訪れる。

「…………どう……でしょうか?」

 反応が無い事にリリィは一転して不安そうな声になる。

「分かったわ。ポーションは高いけど今のアタシ達なら無理じゃないわね」

 シェリーが笑みを浮かべてその条件を承諾してリリィは安堵の溜め息を吐く。

「まだシェリーちゃん達と一緒に居られるの!?やったー!」

 アネモネは喜びのあまり飛び上がる。

「さて、それじゃポーション代稼ぐ為に頑張りましょうか」

「うん。僕も早くこの剣に慣れなきゃ。ポーションを揃える頃にはシェリーも新しい魔術を使える様になるかな?」

「馬鹿言わないで。初歩の初歩であるファイアボルトでさえ一月以上掛かったんだから数カ月くらい掛かってもかしくっての」

 立ち上がり再び魔石の採掘を再開する。

 そして新たに得た目標の為にアネモネ達はしばらく魔石の採掘を続けた。

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