第三話
翌日の月曜日――朝になるのを待ち、琴子は良彦に、相談したいことがある旨のメールを打つ。お互いが話のできる午後で時間を作って、電話で話し合うことにした。琴子は、千夏について自分が危惧していることを良彦に伝えた。それは、良彦にとって、全く想像できないことでもなかったものの、琴子が想定する最悪の事態までは思いが至らなかった。娘がホテルのベッドで組み敷かれて、半裸の下着姿がネットに出てしまうこと、それによって、千夏が被るであろうこと。また、警察に届けることによって、それを阻止できたとしても、千夏の人生を変えてしまう事態になってしまう可能性もあること。そこまでは考えつかなかった。千夏の意見も聞きながら、より最善の道をとりたい。週末の土曜日に、三人でいつものバーで―――今度は素面で―――、話し合おうということになった。電話の最後に琴子から、釘をさされた。
「いい?良彦君。思いつめて、交番や警察署に突発的に届け出をしてもだめよ。内部で後回しにされるだけで時間はかかるし、どこで、どんな悪影響がでるか分からないわ。もし、届け出るなら―――。まずは電話して性犯罪の担当刑事さんをつかまえて、その人にちゃんとアポを取ってから行かないと」
「分かった。どちらにしても、土曜日に話し合うまでは、動かないよ」
「じゃあ、お店で七時半頃でいいかしら?」
「うん。ちゃんと千夏も連れて行くから。いろいろとありがとう」
「何言ってんのよ。千夏ちゃんは、わたしにとって、小さい頃から見てきた姪っ子みたいなもんなんだから、お礼なんか言わなくていいわよ」
「助かるよ。うちの女房の手には負えん。それにそんなに一生懸命になってくれないよ。」
「あなたまで、何てこと言うのよ。実の母が娘のことを、真剣に心配しない訳がないでしょう?・・・っと、ごめん、今あんまり時間ないの。とりあえず電話切るね」
「ああ、いろいろとすまない。本当にありがとうな」
良彦が言い終える前に、電話は切れていた。
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その日の夜、良彦は千夏に、土曜日の三者会合について伝えた。千夏は喜んだ。
「また琴子姉さんに会えるんだ。超うれしい」
呼び名が、いつもの琴子おばさんから、琴子姉さんに変わっていた。
「お前は事態を本当に分かってるのか。大変なことになるかも知れないんだぞ。喉元過ぎたら、熱さも冷たさも忘れたんじゃないだろうな」
「忘れてないわ。本当に怖かったんだもの。でも、琴子さんとパパが来てくれて本当に嬉しかった」
それから、千夏は、『琴子姉さん』の武勇伝を誇らしげに語り出した。良彦がホテルに到着するまでの間に、琴子が悪童たちをこてんぱんにやっつけた件である。
「かっこよかったあ。パパより男気があるんじゃない?でも、パパも好きよ」
思春期になってからというもの、無視するか、『うざい』だの『臭い』しか言わなかった娘が自分のことを好きという。あんな事件があった直後で、不謹慎な気もしたが、それはそれで、良彦を嬉しくさせた。
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一方で、その週、良彦は仕事に忙殺された。やることが多いのではない。日本の社内には、本国のヘッドクォーターから出向してきている従業員たちもいるのだが、彼らに対して秘密裏に行われた国内の重役会議の席で、気の重い仕事を任されたのだ。
まず、日本法人の社長――つまり、良彦などの執行役員たちの上司にあたる――から、問題提起が行われた。
「議題は二つあるんだ。一つ目は、米国本社からの指示で、営業マネージャーを数名入れ替えないとならなくなった。これはまあ、いつものようにリストラするだけだから、大した問題じゃない。それに、本社から言われなかったとしても、営業同士が馴れ合いになってきているのが気になっていた。そろそろ、断捨離が必要な時期かな・・・と、ちょうど私も思っていたところだったんだよ」
(何がリストラするだけだ。そんなことを、社長が自社の従業員に対して軽々しく口にしていいとでも思っているのか?これだから、外資の日本法人社長ってのは嫌いなんだ。お前が無能なだけなんだよ。お前、サイコパス的な素養があるんじゃないか?売り上げが下がっているのを追及され、それを営業の怠慢や能力不足に巧みにすり替えて、本社から人員のリプレース許可をもらっただけだろう。それに、言うにことかいて、『断捨離』だと?流行りの台詞を使ってみて、うまいこと言ったつもりなのか?ふざけるな!!―――。)良彦は、腹の底から湧き上がってくる苛立ちを押さえながら、かろうじて平静を保ち、社長の話を聞いていた。
業績を上げるために、営業の頸をすげ替えるというのは、外資では日常茶飯事の出来事だ。このこと自体に、良彦が驚くようにはならなくなっていた。『よくあること』だ。良彦がこれまで知り合ってきた社長たちは、―――彼らも、当然、人間だから、それぞれ、多少の品の良さや性格の違いはあるのだが、―――突き詰めると基本的には同種の匂いがした。良彦は若い頃、上司や社長にくってかかったものだった。しかし、彼らの返事はだいたい決まっていた。『いつ頸になるか分からないということを承知の上で、みんな入社してくるんだろ?ここは、外資なんだ』良彦は、その回答を聞くたびに思ったものだ。日系企業よりもリスクが高いことなんて、みんな知ってるさ。ただ、誰が、理不尽な理由で会社を辞めさせられたいものか。多くの外資の社長は、どうにも納得のできない理由で人を切る。弁護士や社労士の先生方も言う。『原因をとことんまで探っていくと、最終的には、退職勧奨の理由は、人事権を持つ人間と従業員の間の感情的な好き嫌い、という問題に落ち着くんですよ。言葉は悪いですけど、社員は、上司やカントリーマネージャーに金玉を握られているようなものなんです』確かにそういう一面もあるかも知れない。数字の多い少ないで、リストラ候補者を人選している訳でないことも多い。業績がよくてもターゲットになることもある。そもそもなのだが、担当領域が違う営業マン同士の優劣を、数字だけでは決めようがないのだ。論理的に納得のいく説明が彼らから得られた試しはなく、重箱の隅をつつくようなミスや、ちょっとした社内での不評をターゲットの社員に突き付け、『あなたとは働きたくない。みんな、そう言っています』と、追い込んでいくのだ。どいつもこいつも、ワンパターンなんだよ。良彦の顔は刻々と曇っていった。
良彦の思いをよそに、社長の話は続いていた。
「二つ目の方が厄介なんだ。例の日本での販売形態の問題だよ。グローバルでは、ソフトは買取ではなく、サブスクリプション形態への移行が進んでいる。ただ、諸君も知っての通り、未だに日本では買取の需要が多く、時期尚早だよね。しかし、本社からの圧力は非常に高い。日本だけが遅れている、と叱咤され続けているんだ。そこで、時間をかせぎたいのだ。数年後には移行するけれども、それが少し長い目で見ると会社のメリットになる、というストーリーのプランを作って欲しいのだ。それを本社に提案して、日本サイドの条件を呑んでもらおうと思っている」
価格改定については、本社の言い分が正しい。正しいというか、世間はその方向に流れている。流行り廃りの激しいITの世界で、莫大な資金でシステムを所有するのではなく、期間契約をする、というのが一般的になった。社長は、日本は違うとは言うが、日本でもその方向に向かっている。一軒家がいくつも買えるような大金を払って、ソフトを購入するよりも、短期契約を更新していく支払い方法を選ぶ方がリスクがなく、合理的であるのだ。社長のヤツめ、と良彦は思った。日本法人の雇われ社長の任期は短い。うちの社長も生え抜きではなく、外資の世界を渡り歩く『社長業』をしている人間。経営者などと呼べたものではなく、外部から雇われているだけのサラリーマン社長だ。早く、サブスクリプションに移行させてしまうと、日本法人の売上高は一時的に著しく下がる。ヤツのボーナスは極端に下がるだろうし、下手をすると売上が下がった責任を問われて頸になるだろう。ヤツがうちに来て、およそ一年か。少なくともあと二年くらいは、社長をやりたいはずだ。自分の任期中に、本社の言う通りにサブスクリプションに移行することは、こいつにとっては何のメリットもない。
営業副本部長を兼任している執行役員の自分がやるしかないだろうが、胃が痛くなる仕事だ。良彦はすっかり気が滅入った。こんなときには、本国アメリカ側ともパイプを強くして、うまく立ち回る人もいるのだが、一本気の自分には難しすぎる芸当だ。(俺には、あんたとちがって、二枚目の舌は生えていないんだぜ)、彼は社長に対して、心の中で毒づいた。
簡単な仕事ではない。日本の労基は従業員を守るようにできている。こんな国は、ドイツと日本くらいのものだ。会社に故意に重大な損害を与えるなどのことをしない限り、正社員を簡単にリストラなんてできないのだ。そこで、日本である特定の従業員を辞めさせるには、退職を薦める、もっと言うと、自主退職を迫る、という形態をとらざるを得ない。交渉事になるのだ。気の弱い人、世間知らずの人や、別に事情がある人は、最初に提示した給与二ヶ月分くらいの雀の涙の退職金で、会社を後にしてくれるが、当たり前だがそうは簡単にいかないことがほとんだ。従業員側も抵抗するし、場合によっては、弁護士をたててくる。その相手もしなければならない。誰かを辞めさせなければ、いずれ自分の頸が飛ぶ。いくつもの外資での経験のある良彦はそんな目に何度もあってきた。
この週は、結局、家庭を顧みることもできず、恩人の琴子のことを思う時間もなく、ひたすら深夜まで働かざるを得なかった。
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社長の挙げたリストラ候補者の中から『ターゲット』を絞り、退職勧奨を行う手順を人事と詰めた。あとは、各種ハラスメント行為として訴えられないように、そして、コンプライアンスに反しないように―――、しかし、確実に追い込んで退職してもらわなければならない。ハラスメントやコンプライアンスに対する風当たりの厳しい世の中になってはいるが、実は、会社そのものは、さほどのリスクを負っていない。問題が起きれば良彦の頸が飛ぶだけである。一従業員ではなく役員、つまり会社側の人間である自分が負うリスクは極めて大きい。人事側から多少の援護射撃はもらえようが、最後は自分次第だ。この分野の労基や判例などをもう一度、勉強しておかなければ・・・。
価格改定のプランはできていない。メリットなんか、ねえよ。どうしたらいいものか。あのクソ忌々しいマンションや金遣いの荒い女房さえいなければ、こんな非人道的な仕事なんかやめて、家族のためだけに働いて人生を謳歌したいのになあ・・・。考えれば考えるほど、現実逃避したくなったり、卑屈なマイナス思考になっていく良彦だったが、かわいい娘のためである。琴子の友情にも答えなければならない。いつもは土曜日も働くが、この週は、業務は絶対に金曜日まで、と心に杭を打ち込み、土曜、日曜は何があっても、娘と琴子に使うことにした。
あっという間に約束の土曜日が来た。出社せず、千夏を連れて、待ち合わせたいつものバーに出向いた。千夏には、行く前に、琴子がどんなことを心配してくれているのかを説明しておいた。彼女なりに理解してくれたようだ。
ところが、店に向かおうと家を出たそのとき、まるで頃合いを見計らったかのようにバーの店主から電話が入った。
「良彦さん、『あいつ』が来ています。どうします?」
『あいつ』とは、バーの問題児とされている女性である。黒人のゴスペルシンガーの彼女は、陽気で誰にでも話しかけるため、一部ではファンもいるものの、癖があり、避ける人も多かった。特に、女性客からは評判が悪い。店主は気を遣って、彼女が来た日は、ぶつかりそうな人に連絡をするようにしていた。日本人女性と見ると、彼女は自論をふっかけ、自分の哲学を押し付けてくる鬱陶しいやつなのだ。相手が言うことを聞かないと、酔って座った目をして大きな声で酔狂をはじめる。手が出ることも多いし、相手の頭から、冷水をかけるようなことすらあった。彼女はいろいろな難癖を日本人女性につける。初対面の際は、相手の悩みを聞き出し、相談に乗ってあげようという切り口で、信用を得て人につけこむ。バーに一人で来る女性には寂しさをかかえている人もいるので、酒も手伝い、彼女の人懐っこさに、すっかりと、ほだされてしまう。そうすると、彼女は自分のゴスペルのコンサートのチケットを売り付ける。それを聞きに行った女性は、それなりに感動し、彼女と友人になろうとする。しかし、次第に、彼女の態度は変わっていき、他人の人生への過度の干渉を始める。我流のキリスト教の考えを押し付けたり、相手の人との付き合い方や人生に対する考え方を否定して、あれこれ指図したりしてくるのだ。
琴子も、一度、彼女の有難い教えに対し、「私はそうは思わないんですけど」、と言っただけで、激昂した彼女に、コップに入った酒を勢いよく顔にぶっかけられたことがあった。良彦とマスターはとっさに間に入り、かろうじて、それ以上の争いになることを止めた。行いが悪いので、目立つが、それほど頻繁に店にくることはない。マスターは商売上の付き合いが少しあるため、対応に苦慮していると言っていた。しょっちゅう、事件を起こされるなら出禁も考えるけど、半年に一度来るか来ないかなんだよねえ・・・、店主はそう言っていた。
良彦は、琴子に電話をした。
「今日、珍しく例のゴスペルがいるんだってさ。どうする?」
琴子の回答は明快だった。
「行くわ。会いたくない人だけど、気にしなければいい。向こうもそうそう、わたしには絡んで来ないはずよ。一度、つかみ合ってケンカしたことあったし。頭叩かれたから、ビンタしてやったわ」
そんなこともあったのか。その件は、良彦は知らなかった。
バーには、約束の時間の十分前頃に着いた。琴子は既に、先に来ていた。店主は三人分のテーブル席を用意してくれていた。これなら、カウンターのゴスペル女もちょっかいかけてこないだろう。ゴスペル女は、常連客の一人であるトランプのブリッジで飯を食っている男と、何かをぺちゃくちゃ議論していた。良彦は、自分と千夏が奥のソファーに座り、対面する形で、琴子に座ってもらった。客人扱いすべき琴子を下座の椅子に座らせるのは気が引けたが、この位置なら琴子の目に、ゴスペル女は映らない。相手が琴子にちょっかい出したり、殴りかかってきても、自分の方が気付いて、琴子をかばうことができる、そう考えてのことだった。
*************
一通り、事件の概要と、これから起こるかも知れない予測を三人でレビューした上で、琴子は千夏の意見を聞いた。
「どうしようねえ、千夏ちゃん」
「まず、彼とは別れるわ。断れなかったとは言え、もう友達ですらいたくない。くだらない奴に、あたしの大事な初体験を捧げちゃった」
「その気持ちは一生、忘れちゃだめよ。千夏ちゃんは、まだだと思うけれど、女性にだって男性に負けない、いいえ、人によっては男性よりもずっと強い性欲が眠っていたりするから。経験を重ねれば重ねるほど、好きでなくてもそういう状況に置かれると体は反応するようになるし、体がほてって、うずくようなこともあるのよ。でも、性行為によって何かを失ったり、何かを負わされるのは、女性の方なのよ。次からは、両の眼をしっかりと見開いて、本当に相手の人間性を見極めてからにしなさい」
「はい」
千夏は、琴子に対して本当に素直だった。父の前で、このようにあからさまに娘の性の話をされて、聞いてはいけないとは思ったし、恥ずかしくもなったが、二人の率直な表現には好感が持て、良彦は襟を正す思いで、彼女たちの話が終わるのを待った。
「その後、彼からは連絡あるの?」
「・・・全然ない」
「あの一味には、今後、一切、関わるべきではないわ。その仲間である彼にも、あえて別れを言いにいったりしない方がいいと思う。厳しい言い方だけど、自分の中だけで、彼との恋愛を断ち切りなさい、処理しなさい。人生長いから、彼から誘惑されることもあるかも知れないし―――というか、やりたい一心で近寄ってくる可能性は高いわ、決して騙されないで―――、それに、万一、千夏ちゃんの方から再び魅かれるようなことも可能性はゼロじゃない。そんなこと、誰にも分からないわ。だから、自分の中で、絶対に揺るがない軸を確立しなさい」
「はい。千夏、がんばる」
「いい子ね。」
琴子は、愛しくてたまらないという表情で、千夏を優しい目で見て、微笑んだ。
それから、琴子は、改めて居住まいを正すと、議事を進行させた。
「次、行くわね。被害届を出すか、どうか。・・・これについては、出すにしても出さないにしても、どちらにもリスクがあって、千夏ちゃんが傷ついてしまう可能性がある。
・・・ごめんなさい。正直なところ、わたしには、どちらが千夏ちゃんのためになるのか判断がつかないの」
「・・・あたしは、―――あたしはどっちがいいか、分からないよ。どんなリスクなのか、それは置いておいたとしても、あたし自身として、あたしがどうしたいのかも分からない」
「父として、俺からもいいかい?」
「もちろんよ」二人の声がかぶる。
「俺としては・・・被害届を出したい。告訴もしたい。何の罪もない俺の大事な一人娘に一体何してくれたんだよ。奴らにはきちんとした罪を償ってもらいたい。」
「未遂で、大した罪にならない可能性も高いわよ。二次被害が起こる可能性もある。今度こそ本当に力で来られるかも知れないし、もっと陰湿なやり方で、千夏ちゃんが苦しむことになるかも知れないのよ。感情論だけで考えないで」
「感情的になっている訳じゃないさ。泣き寝入りするのは嫌なんだ。千夏にも泣き寝入りしない強い女性になってもらいたいんだ。琴子のようにさ」
「でも・・・そうは言っても・・・」
琴子が悲痛の面持ちで、どうすべきか悩み苦しんでいる。ありがたい。涙が出そうだ、良彦はぐっとこらえた。
「その結果、何が起こっても、俺が千夏を守る。いざとなったら、刺し違えても守ってやる」
「バカ。千夏ちゃんを犯罪者の子供にするつもりなの?」
「もののたとえだよ。命がけで、俺は、俺の愛する娘を守るって言ってんだ」
「千夏ちゃんは、どうなの?パパはこう言ってるけど」
「あたしは・・・。ちゃんと、まっすぐ生きたい。陰に隠れて生きたくない。パパに守ってもらいたい。そして、大人になったら琴子さんみたいに強い女性になりたい」
「そう・・・」
琴子はしばらく考えたのち、こう言った。
「分かった。わたしも全力でサポートさせてもらうわ。まずは、良彦君、被害届をお願い。告訴はちょっと待って。わたしの知り合いの弁護士さんにも意見を聞きたい」
「恩に着るよ。本当に、本当にありがとう」
「わたしも、千夏ちゃんを守るわ」
その時だった。カウンターに座っていたゴスペル女が大声で歌い出した。
Lead her to the place, with our love, where your daughter feels safe.
Young pretty lady, even if shadows fill your life, your parents guide you with their graces.
Our Lord, give them the firm and unshakable convince.
Your painful and sorrowful world shall be vanished.
Your broken heart will be healed, surely.
途中から、男性のハミングも混じる。気が付くと、Jが入り口付近で立ったまま、一緒に歌っている。ゴスペル女の隣に座ったブリッジ男も歌っている。マスターも厨房から出て来て、エプロンの前で手を組んで歌っていた。
「ありがとう。みんな。ありがとう」
ゴスペル女の歌には人の魂を揺さぶる天性のものがあった。
良彦は、不覚ながら、涙を流してしまった。
*************
帰り道―――。千夏が父に質問をする。
「ねえ、お父さん。あの女の人、なんて歌ってたの?なんか分かんないけど、感動しちゃった」
「なんかの替え歌か、即興で歌ったんじゃないかなって思うんだけどさ。神様が、俺たち家族に揺るぎのない自信を与えてくださるように。そして、千夏の両親の愛は、千夏の苦しさを必ず救ってくれる。千夏の傷ついた心は、必ず癒されるって、そんな感じだったと思うよ。な、琴子?」
「わたしに振るんかい。・・・ま、そんな感じだったわよね。たとえ、千夏ちゃんの世界が闇に包まれてしまっても、千夏ちゃんの両親は、その愛で、千夏ちゃんを救ってくれて、幸せな場所に連れて行ってくれるんだって」
「へー。なんかめっちゃ嬉しい。両親っていうか、お父さんと琴子姉さんだよね、私を愛して、救ってくれるのは」
「ま、まあな」
「千夏ちゃんのお母さんだって、同じ気持ちだよ」
「お母さんは・・・」
千夏は言葉を濁す。
「あたし、あの歌ってた女の人と仲良くなりたいなあ」
琴子と良彦は、ぎょっとして、「そ、それだけは、やめようね」と、ハモって言った。
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