第27話 ショウタの作戦

「どうやら帝国の連中を殺さないように戦ってたみたいだな。ある意味仕方がないとはいえ、とんだ縛りプレイだぜ」


 ここに辿り着いて、上空から戦場の様子を見てすぐに分かったよ。

 魔族の連中がいくら能力が高いっていっても、圧倒的な物量差ってのがあるだろうに。

 俺はしゃがみ込んでいるバウへ手を伸ばした。


「ほら立てよバウ。ドノエルのところへ戻って立て直そうぜ」


「しょ、ショウタ殿のプリン……!」


「なんだよバウ。それ、まだ直って無かったのかよ」


 バウの手を掴んで引き上げ立たせると、二人で並んで魔族軍陣地に歩き出した。

 俺はシュネーバレンに命じる。


「まぁそういう訳だシュネーバレン、ちょっと悪いけど上空でしばらく待機しといてくれ。お前は殺傷力が強すぎる」


『仰せのままに、マイマスターショウタ。状況をかんがみれば仕方のない事でありますな』


「なんか乗り物代わりに使ったみたいですまねえな」


『何をおっしゃられますか。我は御身の下僕、この程度でマイマスターショウタへの忠誠は揺るぎませぬ』


 その言葉と共にバサリと翼を鳴らして空中に浮き上がると、魔族領地の上空へ飛び去るシュネーバレン。

 それを脅威がいなくなったと見たのか、帝国兵が武器を構えて戻って来た。

 ぱっと見は無防備そのものな態度だったからな、ある意味当たり前だ。


 大声で叫んで俺たちを威嚇しながら走って来る帝国兵。

 俺とバウは気付いた様子も見せずに歩いていく。

 後ろから近付いた帝国兵が10メートルから5メートルの辺りまで近づいた時。

 俺は振り向きもせずに、独り言をつぶやくように言った。


「設置型レンジャーチート【泥沼】」


 近寄って来た帝国兵の足もとが突然泥でぬかるみ、勢いよく走ってきていた連中は足をとられて盛大にコケた。

 気配察知チートのおかげで、後ろがほぼ丸見え状態で状況把握できるんだよバーカ。


 ついでに右手を上げて、手のひらから粉を飛ばす。

 風に乗って広範囲に散らばるそれを吸い込んだ奴らもやっぱり突然ばったり倒れた。

 たぶん気持ちよさそうに眠ってるんだろう。

 チートで生成したその手の粉だからな。


「悪いな、俺はが四天王最弱なんでね。その分、近寄ると何が飛んでくるか分からねえぞ」


 顔だけ振り返ってそうボヤく。

 泥沼にハマってもがいてる連中も含めて、俺の言葉を聞いた帝国兵はいなかった。

 ため息をついて肩をすくめる。


「あーあ、お菓子に入れる調味料でもあるのに勿体ねー」


「なんと、あとで拙者にも舐めさせて欲しいでプリン」


 目を輝かせてバウが縋りつく。

 顔が近いよ、バウ。


「お前、糖尿病なんだろ? さすがに駄目だよ」


「プリいいィィン!?」


 今度こそ、生きる希望を絶たれたようにガックリ地面に崩れ落ちるバウ。

 そこまで俺のプリンを楽しみにしてるなら、有り難い話ではあるか。

 俺は燃え尽きた灰のような雰囲気のバウの肩を軽く叩く。


「そんなにガッカリすんなよ。お前が食べても大丈夫なこんにゃくプリンを作ってきたからよ」


「本当でプリンか!? 拙者、チョー感激でプリン!!」


 びょん! と一気に立ち上がると、涙を流しながら俺に抱きついてくるバウ。

 アスティならともかく、くっつくのはヤメテクレ(泣)。





「よぅドノエル。シュネーバレンの騒ぎの時は世話になったな」


 魔族軍の陣地に入るとまずはドノエルへ顔を見せた。

 ドノエルは真っ先に俺のことを気づかう。


「ショウタ! 品評会はどうした!?」


「ラクリッツからアスティが捕まったって聞いたからな。文字通りきた」


 渋い顔で俺の言葉に答えるドノエル。

 くそ真面目だな、相変わらず。


「お前ならきっとそうするだろうと思ったから、皆そのことを黙っていたのに」


「気を回し過ぎなんだよドノエル。あんなものいくらでも優勝できるぜ」


「そういう問題では……」


 俺は顔を引き締めふざけた態度をいっさい無くしてドノエルに答える。

 優先順位を間違える俺じゃねえっての。


「品評会の優勝なんかよりアスティのほうが遥かに大事だ。見くびるんじゃねえよ」


「すまん」


「気にすんなよ」


 そして収納空間チートから大量の大鍋をいくつも取り出した。

 唐突な俺の行為を不思議そうな顔で見たドノエル。

 周囲のカロン含む魔族も同様だ。

 俺は鍋のフタを開けながらドノエルに言った。


「なにか入れ物を、食料を入れるお椀をたくさん持ってきてくれ」


 開けた鍋からふわりと漂う甘い匂い。

 カスタードの香り、プリンの香り。

 何人かの魔族が、わっと歓声をあげて食器を取りに行った。

 しかしドノエルは、プリンの入った鍋を覗き込むカロンを制しながら俺を咎める。


「ショウタ、気持ちは嬉しいが俺たちは糖尿病という病気で……」


「知ってる。だからこれは糖尿病の人にも優しいこんにゃくプリンだ」


「こんにゃくプリン!?」


「味は以前のプリンと変わらないはずだぜ。食感を再現するのが一番大変だったけどな」


 そう言って、食器を受け取るとプリンをよそってバウに手渡す。

 奴は生き別れた恋人でも見るようにじっとお椀を見つめた後、涙とヨダレを垂らしながらこんにゃくプリンを口に入れた。


「こ・れ・は! まさしくショウタ殿のプリン!! 魔王軍四天王のバウ感激!!!!」


 スポーンと服を置き去りに空中に飛びあがるバウ。

 オーロラを背景に上でくるくると回っている。裸で。

 バウ、オマエモカ。

 すぐにドサリと地面に落ちると満面の笑みを浮かべた。


「ああ、至福の味……! もう動きたくないでプリン」


「お、おいバウ、戦場でなにを言っている」


 慌てるドノエル。

 だけど俺はそんなバウの様子に、この場に来る前から考えていた自分の作戦が正しいことを確信した。

 

「心配すんなよドノエル。このバウのリアクション見て分かった。考えてた作戦が上手くハマりそうだぜ」



 俺はニヤリとドノエルに笑った。

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