第23話 魔王アスティのカリスマ?
「はっはあ。それでこのプリンを初めて味わった時から、もうショウタ殿に夢中だという事ですな」
「いっいや、ショウタというか夢中なのはショウタのプリンにだな……ソノナンダ」
「小声の半角文字で言われても説得力がありませんぜ、魔王殿(ニヤニヤ)」
ここは例の地下室。
今日も今日とて、当たり前のように鉄格子をこじ開けたアスティ。
見張りの男達と机を囲んで談笑している。
ショウタのプリンを食べながら。
もうその姿は、飲み屋でクダ巻いてるオッサン連中のそれだ。
もっぱらの話のネタはアスティとショウタの恋の
こんなモブな他人にまでバレバレなんだから、付き合っちゃえよ、もう。
まぁ本人達に自覚が無いだけで、ほとんど付き合ってるようなものなんだけど。
そしてショウタが絡むと一気ににチョロインと化すアスティは、いつも顔が真っ赤だ。
「し、しかしショウタは私のこの格好を変に思わないだろうか?」
彼らの誰とも目を合わさず、両手の人差し指どうしをチョンチョンと突き合わせるアスティ。
真っ赤な顔のままで唇を少し
ズキュンとハートを撃ち抜かれた彼らは、歯をキラリンと光らせ親指を立ててニッコリ笑顔。
「心配すんな魔王殿! その姿みて落ちない男はいねえ!」
「その格好に興味持たない奴は不能な変人だぜ、きっと」
「恐ろしく
「そそそそそうか?(テレテレ)」
その時バタンと音がした。
彼らがそちらへ向くと、そこにはなんだか少し
後ろには、アスティをここまで騙し……ゲフンゲフン親切に案内した小男。
二人は彼らの様子を、特にアスティが外へ出ているのを見ると目を大きく見開いた。
小男なんて、顔色まで真っ青に。
「お前たち何をやっている!? なぜその女が牢の外へ出ているんだ!!」
男たちの一人が黙って牢の一部を親指で
グニャリと曲げられた太い鉄格子を見て「ヒィ!?」と声を上げる二人。
小男なんてもう涙目だ。
「『菓子専門店ノカシ』のプリンを食べさせたら大人しくしてくれてるんです、ここまで来たら硬い事言いっこなしですぜ、隊長」
「捕虜と仲良くしてる奴がおるか! 真面目に仕事しろ!!」
本当にな。
短時間にストックホルム症候群が発生したようなモンだろうけど。
まぁどっちが捕まっていたのか分からない状況でもあるんだけどね。
この隊長も、鉄格子を簡単に曲げて出てくる相手に無茶な注文だと思うよ。
隊長の立場からしても仕方の無いセリフだったんだろうけど。
「いやー、魔王殿の恋の悩みを聞いていたら何だか力になりたくて」
「馬鹿者! 対象に感情移入しとったら身が持たんのは、お前たちが一番良く知っておるだろうに!」
その時、後ろの小男が隊長を現実に引き戻す。
上司の
「お、おお。そうだったなスマン」
オホンと咳払いして姿勢を正した隊長。
よく通る声で彼らに新たな指令を伝えた。
「よく聞けお前達! 帝国へのその女の移送をこれから行う! さっさと準備しろ!!」
「マジっすか」
「当たり前だろう。何のためにその女を捕らえたと思っているんだ」
「うーん、ザルツプレッツェル皇子の嫁さんにするため?」
「魔族連中への人質にして
「人質……できるかなあ?」
ボソリと男たちの一人が言う。
その男の顔と曲がった鉄格子を交互に見る隊長。
思わず言葉が詰まった。
「………………あー。そ、そうだお前たちが言っていたプリンだ。プリンを与えておいたら大丈夫だろう?」
その隊長の話を聞いたが早いか、アスティが話に割り込む。
椅子に足を組んで優雅に腰掛けながら。
腕組みもしてるので、なんだかこの場で一番上司っぽい。
「ふむ、ショウタのプリンを食べさせてくれるのなら、私は別に構わないが?」
「黙れ何を言っている魔族の女! この捕虜の分際で!!」
「いや、隊長こそ黙っといたほうが良いと思いますがね」
今までの監視役、という名のアスティの話し相手がそうツッコむ。
もう一度、曲げられた鉄格子を指差しながら。
改めてその現実を思い出した隊長。
何度か口を開閉させて言葉を出そうとしたが、結局なにも浮かばず黙り込む。
そんな隊長の姿を確認すると、監視役の男の一人がアスティに言った。
「魔王殿、良い機会だ。話を聞いている限りそのショウタって男はアンタをとても大事に想ってくれている」
一瞬、手のかかる妹を見るかのような表情をしたかと思うと、すぐに不敵な顔になってニヤリと笑う。
「きっとアンタを助けに来てくれるから、一回試しにそのまま待ってなよ」
「そうだぜ、囚われの想い人を助けに行くなんて王道中の王道だぜ!」
「恐ろしくお
「う、うむそうか! お前たちが言うならショウタを待ってみるとしよう!」
椅子から立ち上がり、握り拳を胸元でふるわせるアスティ。
その彼女の周りに監視役の男たちが取り囲む。
「応援してるぜ魔王殿!」
「俺、この任務が終わったら帝国の工作員をやめて魔族領に転職先を探すよ!」
「恐ろしく考えるまでもない状況。俺でなくてもやることは一緒だね」
目の前で裏切り宣言を堂々と述べる男たち。
さすがに隊長が怒りだす。
心中お察しします。
「何を言っているお前たち! 儂の目の前で帝国を裏切るだなどと、よくも──」
「そっちこそ何を言ってるんスか。いっつも連絡いれるのギリギリなくせに」
「そうだよ、上司が報連相もマトモに出来ない職場なんかやってらんねーッスよ」
「いつも恐ろしく遅い指令。俺でなくとも見逃しちゃうね」
隊長、涙目。
でも彼らの言うことが本当だったら、同情の余地は無い気がする。
アスティは彼らの声援(?)に見送られて、牢屋に戻ろうとする。
「ありがとうみんな。私はこの牢屋の中でショウタの助けを待つことにしよう!」
そう言って歩きかけたアスティは、すぐに「ああそうそう忘れていた」と引き返す。
彼女を騙して連れてきた小男の前に立った。
「お前も任務で仕方がなかったとは理解しているが、やはり何か仕返ししておかないと気が
「は? いやそんな……」
「心配するな。ちょっとお前の頭にデコピン食らわせてやるだけだ」
「え、それだけで良いんですか?」
胸を
しかしそれも一瞬だけだった。
部屋の
それを小男に見せながら、欠片にむかってデコピンをかます。
パァンという派手な音とともに、欠片が粉々に砕け散った。
「さて、では仕返しをさせて頂こうかな」
再び顔を青くして逃げ出そうとする小男。
その彼の肩を
小男が泣きそうな顔で仲間を見る。
彼らは小男を拘束したまま黙って首を横に振った。
「ひぃ。か、勘弁してください」
「だからこのデコピン一発で勘弁してやろうというのだ」
近寄るアスティ。
もがく小男。
アスティは右手をデコピンする形に組むと、力を込める。
みるみる青スジがたっていく。
そこに溜め込まれた破壊エネルギーはいかほどのものか。
死神を見る目でアスティを見上げる小男。
涙を流して泣き叫び始める。
股間に染みができると、床に湯気のたつ温かい黄色い水がしたたり落ちた。
右手を小男の顔の前に突き出す。
小男はアスティを見上げ続けているが、逆光になって魔王の表情は分からない。
そして最後のひと動作。
ぺち。
アスティが軽く小男の
*****
ようやく品評会が再開した。
今日もよく晴れた天気だ空気が美味いぜ。
俺は自分に割り当てられた調理スペースに陣取って、色々と準備をしている。
司会の人間が審査員の入場を告げる。
見るとゾロゾロ歩く、例のごとくな中年太りのオッサン連中。
そしてその先頭には、上半身裸のムキムキマッチョな王様。
彼らは次々と席に座っていく。
やがて最後に鉄格子で囲まれた牢屋が運ばれてきた。
吹き晒しで中の様子は丸見えだ。
牢屋の中に入っているのは、
なんでだよ!?
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