第7話 昔の友は昨日の敵で今日の仲間

「お前はショウタ! なぜこんな場所に」


 向こうも予想外だったのか、少しあわてふためいている。

 そんなドノエルに負けずに、俺は不機嫌な顔を隠しもせずに言い返す。


「そりゃこっちのセリフだ。何でお前がこんな山奥にいてるんだよ」


 だけど俺はドノエルが両手にかかえてるモノを見て思わず叫んだ。

 こちらも両手の人差し指でを指差しながら。


「……ってお前それ、手に抱えてるのロック鳥の卵じゃねーか!」


「ん? ショウタはロック鳥の卵は見た事は無いはずだろう?」


 よく見るとコイツ、頭や体のあちこちが薄汚れて鳥の羽毛もくっついている。

 ロック鳥、めちゃくちゃデカいからな。強いし。


 そのロック鳥をこいつは一人でなんとかしたってことだ。四天王トップは伊達じゃない。

 そんなドノエルが戸惑とまどった顔で俺にいてきたが、俺は当たり前のように奴に返答する。


「チートだよ。俺の視界にそれがロック鳥の卵だって情報が出てるんだ」


「ああそうか、お前はそんな特技を持っていたな」


 話がれそうだったので、俺は強引に話を戻した。

 ドノエルが抱える卵を見ながら。


「そんな事よりも、なんでお前がロック鳥の卵なんかを手に抱えてるんだよ?」


「巣へ行って親鳥と戦って取ってきたんだ」


「違う! どうしてロック鳥の卵を取りに来たんだって言ってるんだ!」


 ドノエルの顔が歪んだ。

 言いにくそうに言葉を絞り出す。


「帝国が卵と鶏肉の輸出を制限してきたんだ」


「マジか。ったく、あの陰険勇者の王子様ヤローが」


 思わずそう毒づく俺。

 ドノエルはそんな俺をたしなめつつ、初めて聞く情報を話してくれた。

 この世界はインターネットが無いから、情報収集が少し不便なんだよな。


「おいおいショウタ、仮にも帝国の皇子に対してそんな言い方は止めておけ。もうじき皇帝の後を継ぐらしいからな」


「え、そうなの?」


「『魔王』を“倒した”功績を認められて、初代皇帝マヌカハの名を帝国で初めて継ぐらしい」


「初めて……ってことはマヌカハ2世って事になるのか。アスティの手柄を横取りしやがって」


 俺はあの陰険王子の顔を思い出しながらつぶやく。

 事あるごとに俺を見下し馬鹿にする言動ばかりしていた『勇者様』。

 帝国だから皇子なんだっけ、面倒くせえ。

 顔はイケメン(チャラ男だけど)だったから女性陣にはチヤホヤされてたけどな。

 アスティだけには塩対応されてて笑ったけど。


「アスティ様はそういう部分に無頓着むとんちゃくだからな。お前と、あの『偽聖女』と呼ばれるようになってしまった王女は、まだ影響力が弱いし」


「マシュウ王女も苦労してるのにむくわれねえよなあ。使う聖属性魔法は本物なのによ」


 『パティスリー王国の聖女』として参加して、『偽聖女』になって帰国する事になったし。

 自分が王家の人間であることは、当時彼女は伏せていたからな。

 あのクソ勇者皇子の政略結婚の対象から外れたのは良かったけど。

 ドノエルは、一瞬そんな回想に浸っていた俺を現実に戻した。


「まあその話はともかくだ。魔族領の卵と肉の不足を少しでも解消するために俺はここへ来たんだ」


「ロック鳥の親鳥は? 倒したんだろ?」


「ああ、もちろん食肉として使う。カロンの使い魔も来てるからな、すぐに肉を運ぶ連中がここへやって来る」


 さすがは四天王、そこら辺の連携は相変わらずバッチリだな。

 俺はドノエルが予想通りの返答をしたので、さっきから考えていた事を話す。


「そうか……ドノエル、ちょっと相談がある」


「なんだ」


「この山脈のさらに奥にドラゴンがいてるよな、そいつも倒して肉にしよう。俺も手伝う」


 そんな俺の申し出に、大きく目を見開くドノエル。

 手に抱えたロック鳥の卵を落とさんばかりの勢いで俺に叫ぶ。

 俺はその卵が落ちないかヒヤヒヤしながら見ていた。


「な……! 俺はお前を魔王軍から追い出したんだぞショウタ!? なぜ俺たちを助けようとする!!」


「うるせーな。お前とカロンとバウには思うところあるけどよ、他の魔族連中には別に恨みなんかねーからな。ドラゴン倒せば不足してる食料をおぎなって余り有るだろ?」


「しかし……」


 渋るドノエル。

 俺はニヤリと笑って交換条件を出した。

 それでようやくドノエルも折れる。


「タダとは言わねえ。報酬としてお前が持ってる卵を頂く。なあに、俺とお前の二人なら出来るさ」



*****



 アルフ・オート山脈のさらに奥の火山。

 そのまたふもとにポッカリと空いた巨大な洞窟。

 この周辺地方の国々がみんなその存在を知っているが、誰も近寄ろうとはしない場所。

 この世界の魔物たちの頂点のひとつ、ファイアドラゴン「シュネーバレン・ガレット・カスタード」の棲まう場所。


 この世界のドラゴンは美少女に変身したり、人間に友好的な存在じゃないらしい。

 過去何度もこのあたり一帯を暴れまわって、壊滅的被害を与えていたようだ。

 今は休眠期らしいが、それでも過去に討伐しにきた連中を全て返り討ちにしてきたらしいから、相当な困ったちゃんだ。

 魔族の連中も、過去何度も討伐にチャレンジした奴がいるらしいが、やっぱり駄目だったらしい。

 そうアスティの弟のトスティから俺は聞いた。


 そんな暴れ竜だから、ここには滅多に訪れる者がいない。

 俺も最近聞いたところだったから、今回ここに来たのが初めてだ。


 風の音しかしない静まり返った洞窟の入り口。

 ドノエルと一緒にやってきた俺は、さすがに生唾なまつばを飲み込んだ。

 生き物の気配が全く感じないが、これもドラゴンが休眠期なのだからだろうか。

 俺はドノエルと顔を見合わせてうなずき合うと、そろりそろりと洞窟の端に身を寄せて奥に進んだ。






 様子がおかしい事に気が付いたのは、最奥部に辿たどり着いた時だった。

 あたり一面にただよう血の匂い、そしてドラゴンの玉座というべき巣は空っぽ。

 周囲には数人の人間の死体が転がっている。

 俺はそのうちの一人にまだ息があることに気が付き駆け寄った。


「おい、しっかりしろ!」


 身なりの悪い、冒険者くずれっぽい感じの男だ。

 どうも帝国の人間みたいな雰囲気がする。

 そいつは俺の顔を見ると驚いた表情を浮かべた。


「お、お前は……ショウタ・ノカシ……!? な、なぜこんな……こんなところに……!」


 そう帝国語で話す男。ちなみに俺の視界には「帝国語翻訳機能ON」と出ているので全くヒアリングは問題なかった。

 だが、次に男が話した内容は、全く問題ないどころではなかった。

 それどころか、とんでもない大問題だ。



「いや、おまえがココに居るのはある意味好都合だな。ドラゴンシュネーバレンはもうココにはいない。パティスリー王国へ飛び立った後だ」

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