第6話 成り上がる近道は大会で優勝するか権力者に取り入る事

 はい皆さん、ただいま俺はアルフ・オート山脈に来ています。

 何故なぜかというと、この山脈のどこかにんでいるロック鳥の巣を探しているんです。

 その理由はというと、そのロック鳥の卵を使うととても良いプリンを作れるんじゃないかと思ってやって来た訳ですね。

 で、ロック鳥の卵を取りに来た理由なんですが。


 王国主催の料理大会に関わることになってしまったからなんです。

 この国の王女様の肝いりで、やや強引に開催されるようですね。

 あの王女様、あんまり王位継承権が高くなかったはずなんだけどなぁ、無茶するなぁ。

 まぁ魔王退治の時の元仲間だったってよしみで、関わるのを止められなかった俺も悪いんだけど。


 彼女、元聖女だもんな〜。帝国の勇者に同行していた。

 それがなぁ〜、あんな事になるなんてなぁ〜。

 参加者にマヌカ帝国の人間がそれなりの人数混ざっているのだって、意趣返いしゅがえしを少しでもやりたい心情からだろうし。


 彼女も、結構な苦労人なのにあんな可哀想な事があったらな〜。

 そんな元聖女な王女様(王位継承権低め)の事情を知る俺は、あまり得にもならない世話を焼いているという訳だ。

 ああいや、王国に店を出す時に色々と助けてもらったっけ。

 うんそうだ、これはあの時の恩返しだ。

 そうだそういう事にしとこう。



 そのきっかけは、ある日こんな出来事があったからだった。



*****



「全く何故みんな、こんなどこの馬の骨とも分からぬ下賤げせんな者の作った菓子を争うように求めるのか。我が国の食文化も落ちたものよ」


 なんか丸眼鏡をかけてひげを生やした、偉そうなオッサンが店に入ってきた。

 身なりが良く、肉付きが良過よすぎるたるんだ肉体。

 特にお腹の周囲が、かなりデカくなっているな。

 四角いあごの上に乗っかる皮が見事な二重アゴを作っている。


 そして見るからに底意地の悪そうな目。

 どこから見ても時代劇の悪代官か悪徳商人みたいなこの男こそ……。


「いらっしゃいませ、以前に遠目からお顔は拝見しておりますよ。王家専従料理人を束ねる料理人頭、ブルエグ・スクラン様」


 ちなみにコイツは、肩書きをやたらチラつかせてマウントを取ろうとしてくる小物メンタルだ。

 昔はそれでも料理の腕はそれなりにあったらしいけど、今は長いこと他人の料理にケチをつけるだけの事しかやってないらしい。

 自称「神の舌を持つ男」を名乗っているらしいけど。


「あの小賢しいの汚い裏工作で不正に成り上がりおって。実力が無い者が不当な栄誉で利益をむさぼるなど、許される事では無い!」


「自己紹介お疲れ様」


 このブルエグのオッサンが言った『偽聖女』の言葉につい反応したくなるが、がこの悪人顔のオッサンの狙いなのだろうからこらえる。

 それにこのブルエグのオッサンの嫌がらせだって、今日に始まった事じゃないし。

 案の定、オッサンは俺の言葉に逆に顔が真っ赤になって怒り始めた。


「この実力の無い見かけ倒しの若造が! このわしに向かって何を生意気な……ムグっ!?」


 面倒になったので、コイツが大口おおぐち開けて次の罵声ばせいを俺に浴びせようとしたところへ放り込む。

 手元に置いていた出来たてのスフレのチーズケーキの中身を、投擲とうてきスキルのチートでコイツの口の中へ。


 ブルエグのオッサンは口に突然投げ込まれた異物に驚いて、反射的に口を閉じてしまう。

 そして思わず口を動かしてその菓子を味わってしまった。

 瞬間、オッサンは目からビームを出して叫んだ。叫ぼうとした。


「こ……これは! これはっ!! 美味うーまー……!」


「うま?」


 叫びかけたオッサンに俺がそうツッコむと、ブルエグのオッサンはハッと我に返る。

 そしてニヤニヤと笑う俺の顔を見て、苦しそうな顔になって言い訳を探し始めた。

 そばにいたシーちゃんに「趣味が悪いわよ」と、わき腹を小突こづかれたけど。


「うーまー……。うま……。う、ううう……」


「うま、って何ですかブルエグ?」


「うま……。うま……。そ、そうだ馬だ! こ、こんな見かけ倒しの菓子など、う、馬のえさレベルの代物しろものだ!」


 あちゃー。料理人がよりにもよって、食べ物を馬の餌あつかいか。

 神の舌だかなんだか知らないが、料理人として越えたらいけない一線を越えやがった。

 思わず口を開きかけた俺より先に、ブルエグのオッサンがこちらに叫んだ。


「ふ、ふん。この程度の出来できで調子に乗っておるのでは無いぞ。今度の菓子職人コンテストは、この儂も審査員として出ることになったからな!」


 勝ち誇ったように俺にそう言うブルエグのオッサン。

 だけど俺も負けず劣らずだと思う不敵な笑みで返事をすぐに返す。


「ふーん、じゃあさっきみたいなアンタの苦しむ顔が、また見れるって訳だな」


「な……き、キサマ!」


 そんなオッサンを涼しい顔で見返す俺。

 それに二の句が継げなくなったオッサンは、テンプレ通りの捨て台詞を残して店から出て行った。


「くっ、覚えていろキサマ! いつか後悔させてやる!」


「俺が店に来た人間で顔を覚えるのは、お菓子を買ってくれるお客さんだけだ」






「そうですか、ブルエグ殿が審査員に……」


 ブルエグのオッサンに『偽聖女』と呼ばれていた女性が、俺にそう答える。

 マシュウ・マーロ・ピニャコラーダ。

 かつての『魔王』討伐の仲間であり聖属性魔法の使い手。

 だけどもう一人の仲間であった魔法使いの少女こそが、真の聖女だったことで立場が微妙になった王女。


 マシュウは形の良い眉をひそめると、疲れた目で俺に返事をした。

 彼女、かなりの苦労人なのに報われないよなあ。


 一応、王家に連なる身とはいえ、王位継承権なんて有って無いような末席。

 たしか継承権20位か30位ぐらいって以前に聞いた気がする。

 爵位は知らないけど、貧乏貴族で食い物もロクに手に入らない幼年期を過ごしているらしい。

 そのせいか貧乏にあえぐ庶民の心情が理解できるらしく、実は地味に固い人気を誇っている。


 マシュウ王女……おっと公式の場ではともかく、プライベートではただマシュウと呼んで欲しいと言われていたな。

 マシュウは──そのピンクがかった薄い紫色の髪を短く肩のあたりで揃え、修道服を着込んだ彼女は深いため息をついた。


「彼はマヌカ帝国の息がかかった者。国王様もさすがに彼を審査員にえることはあるまい、と私は甘く見ていたようですね」


「心配するなよマシュウ。あいつがワザと帝国の連中を勝たせるようなマネをしたって、俺の菓子を食わせたらあのオッサン嫌でも分かるさ」


 沈んだ表情のマシュウに向かってそう答える俺。

 そうしてニヤリと笑った。


「試作品のスフレを食っただけで、あんだけ美味そうなんだ。本気の俺の菓子を食ったらグゥの音も出なくなるさ」



*****



 俺がそんな事をぼんやりと思い出しながら険しい山道を歩いていると、前方から来た人物とバッタリ出会ってしまった。

 すれ違うのもやっとな細い道。

 嫌でもその相手の顔を見なければならん、腹が立つ。


 俺は、その銀髪で角をひたいから二本生やした魔族のイケメンを睨みつけた。

 そのままうなるように、その青い肌の魔族の男に話す。


「ドノエル……」

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